第11話 静かにさせてもらえない
またな、と言われたのもあり警戒していたのだが、それ以降接触はなかった。普通なら冗談かはったりだと気を緩めるところかもしれないけど、今回は逆だった。
絶対に何かを企んでいる。そうとしか考えられない。静かにしていると、ろくなことをしない。今までの経験からみても明らかだ。
あの三十分にも満たない時間で、俺のことがどれぐらい知られたのか。興味を引かれたと言っていたから、きっと色々と調べているはずだ。
俺のことを調べるのは簡単だろうけど、チームのことはバレたくない。それがバレたら、絶対に面倒な事態が巻き起こる。人づてに伝わって、チームの奴らまで知ることになるだろう。そうなれば、家に突撃される未来しか見えない。弟に火の粉がかかる。顔のイカつい奴らに囲まれたら、弟が怖くて泣いてしまうかもれない。
それに俺を結び付けられれば、俺すらも避けられる可能性があった。嫌いだなんて言われたら。想像するだけで死にそうになる。
絶対にチームとの関わりは、バレない方がいい。前は別にバレてもと思っていたが、これからは隠すようにするべきだ。弟のために。
そうなると、太一と蓮司をどう対処するべきかという問題が出てくる。関係を断ち切るのが一番だが、直接言っても、距離を置こうとしても、どちらにしても騒ぎになりそうだった。
「どうするべきかなあ……」
はてさてどうしようかと考えても、いい考えが浮かぶはずもなく。とりあえずは現状維持を決めた。
「にぃ、だれかいる!」
当たり障りなくを意識して、日々を過ごしていた。意外に上手くいっていると、どこか油断する気持ちが覗き出した頃、それは突然現れた。
幼稚園が休みで公園に行った帰り、弟の言う通り家の前に誰かが立っていた。最初は太一が連絡もなしに急に遊びに来たのかと思ったが、近づくにつれて違うと分かった。まず髪が紫じゃない。でも、髪色を変えた可能性にかけたかった。
やっぱりバレたか。俺はその人物を見て大きく息を吐いた。時間の問題だったとしても、随分と早かった。
「にぃのおともだち?」
見た目からすると、太一に似ているから俺の知り合いだと結びつけたらしい。可愛い顔で尋ねてくるが、大きな声で違うと言いたい。友達だったら良かったのに。
そのまま回れ右をしたくなったが、家がバレているのなら意味は無い。最終的には帰らなければいけない。嫌なことは早めに済ませるべきだ。そう考えて、俺はこちらを見上げる弟に笑いかけた。
「あの人とお話したいことがあるから、ちょーっとだけお口をチャックしていられるか?」
「おくちちゃっく、ぼくできるよ! しーっでしょ?」
「そうそう。ちょっとだけしててな」
すぐに口を閉じてくれた弟の頭を撫でると、ゆっくりとした足取りで家の前まで行く。気配か足音を感じたのか、少し手前でこちらに視線が向けられた。俺を見て口角を上げたかと思えば、弟を見て固まった。
どういう反応だと思いつつ、さらに近づく。
「どうして、俺がここに住んでいるのを知ったのか聞いてもいいか?」
聞いたところで答えないだろうが、会話のきっかけとして尋ねた。
「……それよりも、その子だれ?」
質問を質問で返すな。ムッとして、質問の内容にさらに怒りが湧く。
弟のことまで調べていると思ったけど、存在を知らなかったらしい。それなら、話しかける前に別の場所で待っていてもらえば良かったか。後悔するが、もう遅い。
「家族だ。手を出したら、ただじゃおかない」
知られてしまったものは仕方ない。本気の殺意を込めて忠告すれば、また驚いて固まった。今度は口を大きく開けた姿だったので、変な状態である。しかも固まっている時間が長い。そのまま脇を通って、家に入ろうと思ったぐらいだ。
しかし、回復した時に家の前に居座られても迷惑だから、我慢して待った。一、二分ほど固まっていたが、震える指で俺と弟を交互に指さし始め、そしていきなり叫んだ。
「こ、こここここ、こどもぉおおおおお!?」
あまりにも声が大きすぎて、驚いた鳥が飛び立ったほどだった。完全に近所迷惑で、弟も顔をくしゃくしゃにして耳を塞いでいる。それでも口を閉じていたのだから、俺との約束を守って偉い。
悪いのは、完全に向こうだ。わなわなと震えていて、また叫び出しそうだったので、俺はその前に腕を掴む。
「ちょーっと中で話をしようか。いいよな。うんうん」
叫ばれたら、近所の人が何事かと外に出てくる。そうして騒いでいるのが俺達だと知られたら、親切心から親に連絡がいく。
現在海外出張中の親が、そんな話を聞いたら急遽帰国しかねない。仕事に集中してもらいたいし、下手をすると弟を取り上げられるので、そうなるのは絶対に避けたい。誰かが野次馬根性で様子を見る前に、とりあえずなんとかしなくては。
俺は有無を言わさず、笑顔で押し切ると家の中へと引きずり込んだ。意外にも抵抗されることなく、弟を凝視したまま大人しく中へと入ってくれた。
これは長くかかりそうだ。そんな気がした。
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