第10話 つきまとわれる
チームにいた頃からそうだった。
抗争を巻き起こしては、自分は後ろで楽しむような嫌な奴だった。味方だったら心強いのかもしれないが、残念なことに敵だったので面倒なことに巻き込まれた。
何を気に入ったのか俺にまとわりついていて、そして好意からだとは絶対に思えない行動ばかりしてきた。
本気で命の危機を感じる時もあったので、基本的には姿を見たら逃げた。あとは、チームにいれば奴を警戒する人がたくさんいたから、関わらないようにと尽力してくれていた。そのおかげで、最後の方はほとんど顔を見ることすらもなかったのだが。
どうしても避けられない運命なのか。ここには俺しかいないから、誰かが助けてくれるわけでもなく、身代わりに出来そうな人もいない。
「ねえ。そろそろ答えてくれない? 俺、そろそろ飽きてきた。答えてくれないなら、こっちも考えがあるんだけど」
どうせろくな考えじゃない。いい解決策が思い浮かばなくて、とりあえず俺は探りを入れてみる。
「俺が何を隠していると思うんだ?」
「ようやく話してくれる気になった?」
「そういうわけじゃない。何を知りたいのか分からなければ、答えようもないだろう」
話すしかないとしても、出す情報は最小限にしたい。半分諦めかけてはいるが、それでも全面的に降伏するつもりはない。
「少し前に、ある人が姿を消したんだ」
「ある人?」
「そう。そのせいで、俺達の界隈が荒れている。いつもなら楽しむところなんだけど、いなくなった人が人だったから、ちょっとね……」
「その人がいなくなったのと、俺に話しかけたのと、どんな関係がある?」
「それが分からないから困っているんだよねー」
「は?」
何を言っているんだ、こいつは。言葉にしそうになったが、無理やり飲み込む。
「それは、関係がないってことじゃないのか?」
「いやあ。俺のレーザーが、絶対に関係があるって言っているんだよ。ねえ、何か知らない?」
「そう言われても」
協力する気があったとしても、俺に出せる情報はない。
「話を聞いても、俺がピンと来ることはない。聞きたいことがそれだけなら、俺に協力を求めても無駄だ」
良かった。俺に関係する話ではなくて。もしこれで関係あったら、協力せざるを得なかった。きっと、そういう流れにさせられていた。
内心で安堵し、今度こそ店の方に行こうとしたのだが、服の裾を掴まれてしまった。
「俺が嘘をついていないって分かったよな。協力できないんだから、俺がここにいる理由はないよな。どうして引き止めた」
弟の服が買えない。予定が狂う。それは俺には我慢ならないことだった。思わず睨んでしまえば、相手はまた口角を上げた。被虐趣味でもあるのか。
「そうだね。嘘はついていないみたいだけど、お兄さんに物凄く興味が湧いちゃった」
「うげ」
「そんな風に嫌そうな顔をされると、逆に燃えてくるよね」
燃えないでほしい。むしろ興味を失ってほしい。もはや面倒くさくなって、俺はやけくそぎみに手のひらを突きつけた。
「なに。喧嘩する?」
「ハウス」
完全に犬扱いだった。首輪みたいなのもつけているし、ちょうどいい気がした。
「はあ、何言ってるの。俺、犬じゃないんだけど」
「ハウス。出来ないのか?」
この駄犬が。そんな気持ちを込めれば、はっと鼻で笑った。
「馬鹿にしないでくれるかな。出来るに決まっているでしょ。でも、やったらご褒美をくれるんだよね、まさか」
そう簡単には言うことを聞かないか。やる前からご褒美を要求してくるなんて、まだまだ躾が足りない。しかし、最初から厳しくしすぎたら、上手くいかないタイプである。
飴と鞭の使い分けが大事だ。
「そうだな……」
俺は少し考えて、頭に手を伸ばした。
「いい子で帰れるだろう?」
最近、頭を撫でると喜ばれることが多い。これは犬や子供に対する行動かもしれないが、予想以上に効果を発揮した。
「しょ、しょうがないなあ。そこまで言うのなら、今日のところは大人しく帰るよ。またねっ!」
早口でまくし立てると、こちらの反応を見ることなく走り去っていった。まさかこんなに効果があるとは思ってもみなかったから、少し呆気にとられてしまった。
「えーっと、上手くいったってことでいいんだよな……?」
全く手応えがなくて、俺は心細い声を出すしかなかった。それに気になるのは、またという言葉だ。俺はまた会うつもりはない。
本気で目をつけられたのだと分かってしまい、これからどう逃げるべきかと、考えなければいけないことが増えてしまった。
そういえば、前も俺が自覚しないうちに気に入られていたのだった。あいつの気に入るポイントが理解不能だ。
考えても時間も無駄だろう。俺はいなくなった姿を見送りながら、大きく息を吐いた。
「……店に行くか……」
ここで時間を無駄に過ごすより、弟の買い物をした方が有意義である。気持ちを切り替えて、とにかく今あったことは忘れることに決めた。嫌な予感はまとわりついたが、それでも弟のことを考えれば、段々とそっちに気持ちが集中できた。
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