電話の嬢
りりりりり。りりりりり。
静かな事務所に鳴り響く電話の音。
ちょっとレトロなその響きを止めようとして、私は探偵長に待ったをかけられた。
「待てアズサ、出るな」
?? なんでですか探偵長。
そこにどっしりがっつり溜まっている支払い請求書の束を半分に減らせるような依頼かもしれないですよ?
「ならわかるだろう。‥‥電話も今、止められている。払ってないからな」
あっ!じゃあこれは一体‥‥?
「にゃー」
ソファーで丸くなっていたネモさんもむくりと立ち上がる。
りりりりり。りりりりり。‥‥プツ。
えっ?!受話器取ってないのに繋がった?!
「‥‥」
探偵長とネモさんはじっと電話を睨みつけたまま。
『ハロゥ』
電話から聞こえてきたのは、よく澄んだ、ウグイス嬢のような声だった。
『ハロゥハロゥ、ネームハンター。お久しぶりです』
‥‥この電話ってスピーカー機能ついてたっけ‥‥?
『少々困ったことが起きました。至急『喫茶馬頭琴』までお越しください』
喫茶馬頭琴‥‥?
『なお、この電話はワタクシ『電話の嬢』がお繋ぎいたしました。‥‥電話代のお支払いは計画的に』
チン‥‥
そこで一方的な通話は切れた。
「異型頭の連中か」
異型頭?ってなんです?
「人間の体に、別の頭がくっついてる奴らがいるだろ。そいつらの総称だ」
あっ、頭だけノコギリやジャックナイフだったりする人たちですね!
「‥‥そんな物騒な頭の奴と知り合いなのか、アズサ」
喫茶馬頭琴っていうのは?
「主に異型頭の集まる喫茶店だ。おそらく仲間に何かあったんだろう。無理やり電話をつないでくる程度にはな」
そう言って探偵長は立ち上がろうとする。
あっ ダメですよ!まだ傷口が塞がりきってないんですから!
「そうも言ってられないだろ。‥‥ネモ」
「にゃー」
「おいおい勘弁してくれ」
「にゃー」
「ワガママ言うな」
‥‥どうやらネモさんは乗り気じゃない様子。仕方ないか、今のネモさんは魔力が落ちてる。
‥‥そうとなれば!
探偵長!私に任せてください!
「‥‥はっ?」
探偵長が負傷中、ネモさんも魔力低下中の今!唯一動ける私、アズサがお二人に変わって事件解決に導きます!!
「‥‥よせアズサ。奴らの依頼が普通の事とは‥‥」
とりあえず喫茶馬頭琴に行けばいいんですね!
「お、おい!」
心配しないでください!立派にしっかり役目を果たしてきます!!
私は事務所を飛び出した。
──アズサが去った事務所内。
「‥‥ネモ」
『嫌よ。異型頭とは会いたくないわ。天使みたいでいけ好かない』
「ネモ」
『‥‥仕方ないわねぇ‥‥』
ソファーの黒猫はストッとそこから降りると、慌てもせずに事務所から出て行った。
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