第六回『黄昏が変わる頃』第一話、第二話感想文

物語要約/ある若者がもつ強烈な個性。それは個性ではなくある種の精神的な欠落や障害のようだが、ものともせずに突き進む。第一話の不思議なコメディ、第二話の恋愛もの、どちらにも通う優しさと、作者の強いテーマが一貫して流れている。


◆タイトル

黄昏が変わる頃

URL:

https://kakuyomu.jp/works/16817139558091933663


◆作者

桃丞優綰 @you1wan 様


◆文字数

第一話、二話 合計 55,409文字


第一話『会話の極意』 16,602字

第二話『素晴らしき愛をもう一度』 38,807字

※第二話の終わりはタイトルと小説情報のあらすじで判断しました。第二話にはエピローグがなく、次の『海よりも深い愛を探して』と連続しているとも思われますが、完結扱いと見ました。


【フルスロットルでネタバレしています。ご注意ください】


◆読了後に思ったこと

【読了後に感じたこと、テーマを貫くと言うこと】

…この作品を二話まで読了して、読む前と読んだ後で何を感じたかといえば


「小説には色々な方法がある」

「作品を通して読者の感受性に訴えるための、作者の意図的な記述がもう少し欲しい」

「人を人として、個性を受け止めることの大切さ」

です。


 前置きと、物語中の思考過程から考えるに、主人公は何らかの精神的な疾患、もしくは発達障害のようなものを抱えている感じがしました。

 例えば相手の質問に対してどこまでも深く順を追って自分の中に疑問を数々生んでは同時に考えるため、相手の質問に答える前に次の行動や会話に移ってしまう、という展開が数回繰り返されている、などがその理由です。

 しかしそこをあえて発達障害などと書かず、人間性として一貫して書いているところが、作者様のテーマなのですね。


 これは徹底していて、地の文章でも決して説明しない。登場人物もそのことを言及しない。これはすごいな、と思いました。だいたいの小説では、どういう状態なのかとか、どういう診断なのかといったシーンを作って説明すると思いますから。

 試みとしてすごくいいな、と思いました。


 同時に、主人公以外にも複数の人物が似たような個性を抱えています。

 なので、会話パートはなかなか先に進みません。

 しかし不条理劇とは違い、きちんと物語が展開していきます。


 私はこれを読んで正直に言えば、かなりの戸惑いを覚えました。

 作者様の渾身のテーマを感じ取ることはものすごくできました。が、小説として楽しめたのか? というとそれが難しいのです。


【ストーリーと、それを補う情景描写】

 ストーリーはあります。

 第一話では夢の中の出来事のような、不思議な体験が綴られています。シーンの場の描写は必要最低限の文言だけなので、なんとなくこうだろう、と情景を想像しながらストーリーを追っていきます。

 会話の掛け合いやシーンの設定、あらすじなどから第一話はドタバタコメディであることは間違いないですが、「そう感じる」にとどまりました。

 ドタバタコメディの台本を読んでいる感じです。

 ここにもう少し演出を加えて読者に楽しんでもらう、という作品一歩手前の段階というか…。

 もっともここで面白いと思ったのは「読者が勝手に情景を想像して補えてしまう」ことです。


 例えば昴くんの授業。

 どこにいるのかさっぱり解らず、どうしていきなり達彦くんがいるのかわからない。

 わからないけれども問答無用で会話が進んで、情景は終始語られません。

 こっちで勝手に想像するしかない。

 しかし会話はどんどん迷走している。

 ところがふっと、物語が進む台詞が出てくる…。


【必要最低限の舞台装置と描写】

「必要最低限の」舞台装置を用意するのは案外大事だな、と思ったことがあります。

 演劇『ゴドーを待ちながら』で、木が一本立っているだけとか、映画『ドッグヴィル』で、村や建物が単なる白い線と文字で表現され、しかも物語に最低限必要な建物しか存在しないこと、などです。


 その物語に本当に必要な、最低限度の、ぎりぎりそぎ落とした舞台装置。


 本作では、意図的に行っているのか、作者様の頭の中で色鮮やかにその場が存在し、それが描写に表れていないだけかは解りませんけれど、第二話にしても構造が同じなので、「そぎ落とした最低限度」と理解しました。

「小説の方法はいろいろある」と感じた理由です。


【第二話、本文に対する肉付け】

 ただ、第二話。これはちょっと強引な気がしなくもないです。


 美樹さんのちょっと違うだけの態度と「白い粉」をみて瞬時に何か問題のある薬物だ、と主人公がどうして判断できたのか?

 そんなにすぐに心が壊れて発狂、廃人までなるものか?

 病棟の個室にいる美樹さんはその後一体どうなったのか?(今後三話以降の物語でどうなるかが描かれそうですけれども)


 結論ありきで事が運んでいる、もう少し言えばストーリーを展開するための重要な事柄を並べているだけのように想えてしかたなく、デリケートな問題を扱っているのもあってもっと肉付けが欲しいな、と思いました。


 人は劇的な要素がなくとも精神のバランスを崩す、とニュースや色々な情報を見聞きし解ってはいますが、小説作品の中でそうした知識を読者に委ねるのはちょっと違う気がしました。やっぱり物語の構成として、もうちょっと丁寧に書いて欲しかったです。

「精神疾患や発達障害などの問題を個性として捉える」ならば、そのことについて筆を費やして欲しい、と。


「読者は常に自分の経験や体験から、書かれていることに対して想像を付け加えて読んでいる」のは確かです。

 先述の通り、「読者が勝手に情景を想像して補えてしまう」のを面白いとも思いました。

 が、ちょっと委ねすぎていやしないか? と。


 作者様の物語を読んでいるのか、それとも作者様に与えられた最低限の装置を読んで自分で創造する物語なのか、が良くわからなくなってくるのですね。


 テーマとラストの言葉から考えれば、主人公は美樹さんと結婚したのだと思います。

 発狂してしまった女性をそれすら個性と捉えて愛を貫く、というお話です。


 テーマがすごく一貫しているのを感じ取れ、これはこれですごいと思います。

 読者に見える舞台装置や人物の演出にもう少し筆を割いていったなら、もっと読みやすく、理解しながら彼らを受け止めやすくなるのでは…? と感じました。


【主人公の個性について】

 感想を書いてから一晩寝て一つ気がついたのは「主人公の強い個性が、周囲の人たちに何ももたらしていないこと」です。

 全部主人公の内面だけに影響していて、物語に影響していない。第二話の父親にだけ若干影響が出ていますが、他の人物はスルーしているのですね。

 作者様のテーマに沿えば「主人公の持っているものは特別ではない」のですから、それが周囲の人物に影響を与えないという描き方は全くアリだと思います。

 ですが、そうはいっても小説上、効果が欲しいなぁという気持ちを抱きました。

 物語に影響がなければ「その設定はなくてもかまわなくなってしまう」のです。

 気にする人、気にしない人、個性だから良いという人、いや治すべきだという人。色んな反応があってしかるべきだと思います。

 これは惜しいな、と思いました。


◆最後に

 障害者という言葉でその人を決めるな、という心が前置きや小説本文からひしひしと伝わってきて、ああ、テーマというのはこうやって具現化するんだな、それは自分の強い思いを本文の中に一貫して示してあげることなんだ、ととても勉強になりました。


 また、必要最低限の舞台装置。とても示唆的に感じました。

 もしかしたら作者様としてはちゃんと描写しているのかも知れませんが、誤解を恐れずにきっぱりと言えば「情景に関して読者の想像が必要」でした。

 小説の眼目はそこではなく「主人公を読者がどう受け止めるのか? が最も大切である」のも理解していますが、ドラマのシーンに情景は必要で、かつ大事なのではないかと思いました。

 なぜなら、そうした舞台を読者は見て取り、感じ取って感情移入を深めるからですね。


 第三回目に感想を書いた『ミライへ』(URL:https://kakuyomu.jp/works/16817139557157306611)でもそうでしたが、情景の多くをこちらの想像に委ねるスタイルは、意図的であれ無意識であれ、諸刃の剣という気がするんですね。


 具体的には、


「情景が読者の想像に任せられてしまい、状況がさっぱり見えない場合があって感情移入がしにくい」難点。

「情景を省くことで会話劇が強調され、関係しているその場の人物に意識がかなり集中する」利点。諸刃の剣ですね。


 もうちょっと季節感とか、場の情景とか、環境音だとかと言った、読者が「そこを読んで、その場で見ているかのように楽しめる情報」を描いて欲しかったな、とは思いました。


 しかし、一方で主人公の心情描写や、人物の悪意などは妙に生々しくも感じました。とくに咲さんはすごくリアリティがありました。


 最後に、お作をご紹介いただきありがとうございました。

 作者様の今後のますますのご活躍をお祈りしております。

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