第三回『ミライへ』感想文
物語要約/和と遥は院内学級で出会った女の子同士。二人二様の苦しみを抱えて相手に癒やしを求めながら、その苦しみの先に一つの光明を見いだす。真に迫る描写の感性を応援したい、カクヨム甲子園2022参加作品。
◆タイトル
ミライへ
◆作者様
藍崎乃那華 @nonaka_aisaki様
◆文字数
12,423文字
【フルスロットルでネタバレしています。ご注意ください。】
◆読中、読後におもったこと
【手記なのか?】
不思議な生々しさがありました。手記か日記か解りませんが、実話が元になっている感じがしました。失礼ながら、これが全部フィクションだったらすごいリアリティだな、と思いました。
また、二人の身に起こったことが、実はその多くがひとりの身に起こったことであり、それをふたりに分解し、フィクションを加えて出来ているようにも感じられました。
ふたりの人物の実話をベースに、フィクションとしてまとめたとも考えましたが、印象としてはひとりをふたりに、が強かったです。この理由については後述します。
この作品を読んで真っ先に思い起こしたのは、萩尾望都さんの『半神』です。こちらは結合双生児、つまり身体がくっついた状態で生まれてきた双子の女の子たちのお話です。
この物語では、片方が生き、片方が亡くなりますが、それまでの心情が生き残る女の子の一人称で生々しく描かれています。自然と対比しながら読み進めていました。
【別れの余韻】
和と遥、ふたりの決断はとても悲しいものでしたが、本人たちはいたって明るく、まるで生涯のパートナーを得たかのように晴れ晴れとしていました。
傍観者としては何ともやりきれなくはあります。が、しかし、いつかまた「くるしまなぁよにうまれてくる」と、『永訣の朝』のように、いつかどこかに帰ってきてくれることを願いながら二人を笑顔で見送りたい、そんな気持ちが自然と湧きました。
二人が姉妹で、あるいは恋人や友達として、そしてしあわせいっぱいで、ふたたびこの世にあらわれてほしい。そう切に願いたくなる結末でした。
こういう読後感にすごく弱いです。この感想企画で二番めに書いた『木徳直人はミズチを殺す』(URL→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889548235)でも、いつかどこかで、と書きましたが、永遠の別れの余韻はなぜこうも哀しくもすがすがしく感じるのでしょうね。
【イマジナリーフレンド~苗字のこと】
本作はふたりの女の子がどちらも一人称を使って交互に状況や心情を語り、心を通わせていきます。名前と症状、状況がないとどちらがどちらか解りません。この、二人区別がつきにくいのが演出なのかそうでないのかは、解りませんでした。
また、相手の姿をみた印象などの描写がほとんどないのと、口調、思考に描写の差がほとんどありませんので、和と遥は実は同一人物であり、イマジナリーフレンドなのでは? ともよめてきました。一人の人物を二人に分けて、それぞれ実話とフィクションをとりまとめたのでは? と思ったのは、それが理由です。
苗字の違いや病状、ふたりの経緯、看護師のかたが明確に分けて呼びかけていること、二人が同時にいるときのセリフなどから別人とわかるので、イマジナリーフレンド、というのはありえません。ラストのセリフも、たまたま二人同じ言葉になったのであって、頭の中の友達だから同じセリフになったわけではないですね。
また、ふたりの苗字も示唆的で、弓月と矢間、弓矢という一心同体の存在であること、月とやま、山に通じるこの二つの言葉は偶然の設定ではないと思いました。
むしろ来世で一緒になるための魂の拠り所のような設定にも思え、結末は必然なのだなあと、意図を補強しているとも思いました。
余談ですが、実は同一人物だったという結末だったら、いわゆるどんでん返しが加わって、劇としては盛り上がるなあなんて勝手な想像も湧きました。
【シーンなど、作劇上の思ったこと】
所々気になる部分を感じたりもしました。
いじめをしてきた人物が面会希望をしてきたシーンなどは、素直に帰るとも思えないし、単に遥と出会うためだけに使われていて、ドラマとしてもう少しいじれた気もしたり。
和が白血病の診断を受ける前に、倦怠感や、それによって学級にいけなかったりなどの描写がなかったり。
物語としては、シーンの組み立てがちょっと都合に合わせすぎな面をかんじなくもないですし、あとからの説明をなくして全てシーンに盛り込むのがいいとも思いました。
【最後に】
タグをみたらカクヨム甲子園の出品作品なので、つまり高校生がこれを書いた…という。びっくりしました。
私が高校生のころは、もっとメルヘンチックなほのぼの物語を書いていました(笑)
題材や内容がのんきな私と大違い。すごいです。
作者様がどのようなお気持ちでこれを書かれたのか。同じような境遇や、いま苦しんでいる誰かに届いてほしいと思われたのか、実話ベースと仮定すると、もしかして鎮魂なのか。そこはわかりません。
が、なにか祈りのようなものを感じました。
二人の名前も和と遥。のどかとはるか。響きを少し整えていて、紀友則の有名な歌、『ひさかたのひかりのどけきはるのひに』をちょっと思い起こさせました。病棟にずっといるため季節感がわかりませんが、ラストは春、桜の季節なのかなあ、と思ってもみました(二人が最後にみる屋上からの景色を描いてもよかったかもしれません)。
そうなると西行の『ねがわくばはなのしたにてはるしなん』もちょっと浮かんだりして、願望と切なさとはかなさがいっぺんに増す心持ちがしました。
タイトルが『ミライへ』というのも切なかったです。主人公たちの来世への第一歩であり、でもそれは未だ来ないものであり、そして永久にこないものですよね。
でもこの物語を読んだなら、ふとしたときに二人が並んで歩く姿をどこかでみかけるかもしれません。
二人とも、再び会いましょう、いつかどこかで。
作品執筆お疲れ様でした。
今後のご活躍と、果てしない未来にエールを送りたいと思います。
ありがとうございました。
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