第74話 「僕も選んで」
楽しかったプールの時間も終わり、俺たちは朝の集合場所だった高校の最寄駅にいた。
「忘れ物はないかい? みんなちゃんといる?」
「は〜い。いるよ〜」
「僕と雄二くんもいるよ」
「あと田嶋もいるな」
「昼間は悪かったから……俺の襟元を摘み上げるな! 俺は猫か!!」
「またいなくなったら困るだろ」
まああとは、それぞれの交通手段で帰るだけだし……。
俺は離してやることにした。
「今日はみんな楽しめたようだね。私も楽しかったよ」
「今度はゆいくんと2人っきりで来たいとも思うけど……まあ、楽しかったよね」
まひろは爽やかな笑みを。りいなはなんかツンデレみたいな反応している。
「僕も楽しかったっ」
「俺も楽しめたな」
「お、俺もだぜ……!」
俺たち男3人も楽しめた。
水着を忘れたことやりいなやまひろの件は置いといて……やっぱり友達やクラスメイトと一緒に遊ぶってのは、楽しいよな。
「じゃあ今日はお疲れ様。これにて解散としよう」
まひろが言う。
俺は小さく息をついた。
楽しかったけど、プールでたくさん泳いだりして、ちょっと眠気と疲れがあるなぁ……。
「ゆいくん今日は2人っきりの時間楽しかったね〜」
「結斗。私との時間も楽しかったよね」
解散と言いつつまひろとりいなは、結斗を両方から挟んで、楽しそうに会話をしていた。
さすが主人公とヒロイン。イチャイチャまでが早いなぁ。
「じゃあな、笠島。俺先に帰るわっ」
ふと、後ろから田嶋が声を掛けてきた。
「おう、田嶋。いいのか? あの3人にも声を掛けなくて?」
「いやいや……あの3人のイチャイチャした空間に割り込む勇気なんてないぜ……」
「まあなぁ……」
また3人に視線を向ければ、まひろとりいなが結斗の腕に、自身の腕を絡めて、さらにイチャイチャ度が上がっていた。
通行人の注目なんてお構いなしだな。
「そういうことだから……じゃあっ」
「おう。気をつけてなー」
田嶋は駆け足で去って行った。
これから用事でもあるのか?
それぐらいの急ぎようだった。
「……やっぱりなーんか、隠しているよなぁ。あいつ」
田嶋のやつ……昼の集合時間に遅れた時から妙にソワソワしているというか……。
まあ本人のことだし、俺が気にしてもしょうがないな。
「じゃあね! まひろちゃん、りいなちゃんっ。また遊ぼう!」
おっと。こっちも終わったようだ。
ふと、まひろとりいなと目が合って……。
「じゃあね、笠島くん」
「ばいばい笠島」
「お、おう……またな」
まひろはにこっと笑みを浮かべ、りいなはなんかむすっとしながらも小さく手を振っている。
今までもこうして声は掛けてくれたが……結斗のおまけじゃなくて俺だけに、ってのは初めてな気がするな。
『笠島くんからドキドキを勉強させてほしいんだ』
『〜〜〜っ! 変態っ!!』
今日はまひろとりいなと色々あったし……それで少しは距離が縮まったのか……な?
「雄二くん」
「おお、結斗。どうした?」
結斗が俺の前に来る。
てっきり、まひろとりいなと帰るのかと思ったが……。
「途中まで一緒に帰らない?」
「今日は楽しかったね、雄二くん!」
「そうだなぁ。夏のいい思い出になったな」
俺と結斗は今日の出来事を振り返りながら足を進める。
そういや、俺と結斗は割と家が近いんだったな。
結斗は、まひろとりいなとそれはそれは楽しんだようだ。
良かった良かった……。俺は邪魔しないから存分にイチャイチャしてくれ。
俺はというと、午前はりいなと一緒にいた。
午後は交代でまひろと……とはいかなかった。
『笠島くんは人を魅了するものを持っているんだろうね。私も薄々は感じているが……明確に分かっているわけじゃない。だから、私に教えて欲しい』
あの件もあって、気遣ってくれたのだろう。
まひろは1人で行動していたらしい。ただ、1人でプール内をウロウロしていると絶対ナンパされるので、冷たいジェルを使ったマッサージ店やお土産屋に行っていたとか。
「でも雄二くんや田嶋くんとももっと遊びたかったなぁ」
「そうだなぁ」
まひろとりいなのデートが終わって、それから合流してみんなで遊んだのは1時間くらいだったしな。
「でも夏はこれからだし、まだまだ遊べるだろ?」
「そうだね!」
夏休みはまだまだある。この世界の夏も存分に楽しみたいよな!
「あっ……。雄二くん、ここに寄らない?」
「ん?」
結斗の足が急に止まった。
指差すのはコンビニ。
『君は確か笠島雄二くんだよね?』
『ああ、ああ……』
結斗と初めて会ったあのコンビニだ。
「はぁ〜〜。涼しい〜。夏のコンビニは最高だな」
店内に入れば、キンキンに冷えた空気が全身に染み渡る。
「コンビニに来たからには……」
俺は迷うことなく、あのコーナーへ。
「やっぱりアイスだよなぁ」
そう。アイスコーナー。あの時も確かアイスを買いに来たよな。
「アイスいいね! 僕も買おうかな」
結斗も隣に来た。
2人してアイスケースをじっくり見て、どれにするか考える。
「俺はやっぱり……ブラックモンブランかなぁ。あとは……」
せっかくだし、雲雀の分のアイスも買って帰るか。水着を届けたお礼も込めてお高めの……ハーゲンダッツにしよう!
俺は自分用のブラックモンブランとハーゲンダッツのストロベリー味をアイスケースから取る。
「あれ? 雄二くん2つ食べるの?」
「いや、もう1つは雲雀の分だ」
「雲雀さんの……」
「そうそう。それで、結斗は何する——」
「雄二くん、僕も選んで」
「え?」
結斗にまっすぐな瞳で見られる。
「僕のアイスも選んでくれないかな?」
ああ、そういうこと……。
主語がなかったので一瞬何のことが分からなかったが、アイスのことね。
「結斗は……そうだなぁ。んー……。あっ! これとかいいんじゃないか? アロエアイスってやつ。これ、めちゃくちゃうまいってテレビて言っていたんだよなぁ〜」
俺もいつか食べようと思っているが……今はチョコとザクザク食感の気分。ブラックモンブランの気分である。
「じゃあ、それにするよ。ありがとうね、雄二くん!」
結斗がにこっ、と笑う。
アイスを選んだだけでお礼を言ってくれるなんて……相変わらず結斗はいい奴だなぁ。
会計を終え、外に出ればまた蒸し暑い空気が身体を包む。
「暑いなあ〜。アイスも溶けちゃうし、早く帰らないとな。確か、ここでお別れだよな?」
「そうだね」
このコンビニから俺と結斗は別々の道だ。
「じゃあな、結斗。次は……あー、もうすぐ一回登校日を挟むよな。次会うとしたらその日だな」
「そうだね。雄二くん宿題進んでる?」
「もちろんよ」
なんせこっちには監査役(雲雀)がいるからなぁ。ノルマ達成しないとリビングから出さないとはがりに監視してますから……。
「気をつけて帰れよー!」
「うん」
俺は結斗に手を振り、駆け足になる。
帰ってすぐにアイス食べたいしな!
「雲雀さん、いいなぁ……」
◆
「ただいま雲雀ー! お土産はコンビニのアイスだー。一緒に食べようぜっ」
「おかえなさいませ、雄二様。その様子だと楽しめたようですね。何よりです」
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