4.悪役に、堕ちる夏

プロローグ(裏) メイドの日記

【×月×日】


 今日の雄二様は何かおかしい。


 ふとした疑問が湧いたので、日記に綴ってみることにした。


 私を自分が快適に生活するための道具の一部としてしか見ていなかったはずの雄二様が不意に、労いの言葉を掛けてくださった。

 喜ぶべきことなのに、疑問と動揺が相まって固まってしまった。


 でも私の反応は表には出ないので……感情を抱いたって誰も気づいたり、興味はないでしょう。



 


【×月×日】


 雄二様は見た目のせいで学園生活では少々苦戦しそうです。

 入学式の今日。学園前に早めに車を回していると案の定、一番に学園から出てこられました。


 なんとお声を掛けるか迷っていると……お手、お座り、ちんちんと変な指示されました。

 求められていることがよく分からなかった。最後のちんちんに関しては……少しふざけてみた節はあります。


 しかし雄二様は怒る事なく、やれやれといった対応しながらも、笑みを見せた。そのお姿をみて………こんな私とでも一緒に楽しんでくれる方なんだ、と感じた。



【×月×日】

 

 雄二様に仲の良い、男友達ができたようです。メイドとしても喜ばしいこと。


 友達の方は、佐伯結斗様という方。とても礼儀正しく、人柄が良さそうな、お顔の整った方で、どこで雄二様と仲良くなったのか……非常に謎に思いました。


※雄二様がお金で買った友達ではないことは確認済み。




 


【×月△日】


 林間学校が始まりました。

 私はマンションに1人。

 仕事量が減っただけで、内容は変わらない。

 

 仕事をこなしながら思い出すのは、遊園地に連れて行っていただいた時のこと。

 感情が表に出ないことに打ち明けた。正直、雄二様に話せば自分の心が和らぐことを期待してました。


 雄二様は私の感情が表に出にくいことに気づいていたようです。

 分かった上で……改めて理解していると言ってくださいました。

 そして、自分も勘違いされてやすいと同じく痛みが分かると言ったのちに、ありのままの私を受け入れてくれた。

 道具でもなく、表情が出ない気味が悪いメイドとしてでもなく、私という全部を受け入れてくれた気がした。


 これが私がますます、雄二様に興味を持った瞬間。



【×月◇日】


 林間学校2日目。最終日。

 今日も雄二様はマンションにいない。しかし、今日の夕方にはお帰りになる。

 

 夕方迎えにいくと、雄二様には新しくお友達ができていたようで。その中でも可愛らしい方が2人……目に入りました。

 

 澄乃まひろ様と澄乃とりいな様。

 美人姉妹と呼ばれている方々らしい。

 




【×月◇◇日】


 授業終わりの時間帯。雄二様から今日は帰るのが遅くなる、という連絡を受けた日でした。

 その間、マンションを姉が訪れてきました。

 

 その後、姉の差金で雄二様にご奉仕することになった。ご奉仕と言っても、雄二様の要望に応えるだけ。

 背中を洗って欲しいとの要望があったので従った。男性のお背中を洗うなんて経験は初めてである。背中がより、大きく、逞しく見えた。

 

 次の要望をお聞きすると、雄二様はもう終わっていいぞ、とおっしゃられました。

 私は何かやらかしたのではないかと不安になったが……どうやらバスタオル一枚の私と、これ以上いるのは恥ずかしから、とのこと。


 お顔が真っ赤に染まった雄二様を見て私は……反応が、感情が表に出なかったことを初めて良かったと思ってしまった。

 


【×月△日】   


 休日。雄二様の水着選びには付き添えませんでした。先約がありました。


 私は結斗様とカフェで、密会という名の雄二様トークをしました。提案したのは、結斗様から。本人に聞くのは恥ずかしいとのことで、私から聞き出すようです。


 一通り話し終えた後、結斗様はクラスで孤立していた雄二様のことを最初は、可哀想だな、と思ってしまったことを話しました。

 しかし、雄二様の魅力を知り、学園では自分が一番の理解者だからこそ、もっと雄二様のことを知り、周りにも伝えたいとのこと……。


 美しい友情関係とは違う、ほんと少しの何かを感じ、私はモヤモヤしていることを隠すように一旦、俯いた。





【×月〇日】


 最近、雄二様と過ごす時間が少なくなった。

 雄二様は、結斗様や美人姉妹の方たちと過ごすことが多くなった。


 学生の雄二様がお友達と遊び、家に泊まり、それらを楽しむという夏休みという名の一番の青春を謳歌してらっしゃることは喜ばしいこと。

 

 私はもう大学も卒業し、青春を雄二様と過ごせない。


 けれど私は……雄二様のお隣には一番長くいたい。最近、事あるごとにそう思うようになった。







【×月〇〇日】


 今日は………日記を書きたくない、、、





 雄二様………いない。いない……。

 雄二様………貴方は今、どこへいらっしゃるのですか。


 早く……お会いして………、、、、、のに。



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