第61話 「俺には別に関係ないよな」
「ふぁ……」
ね、眠い……。
何度目かわからない欠伸を噛み締める。
結斗と連れの女性が店を出るまで、ここで待たないといけない。いつ出るかなんて分からないし、知らないから……時間がより、長く感じる。
「笠島くん、眠そうだね」
「まあ、なぁ……」
もう1時間は経っているというのに、まひろは以前、涼しげな表情……。すげぇ、キラキラ感がまだ出てる。
時間の潰し方なんてスマホでいくらでもできるんだが……まひろがスマホも触らず、待っているものだから触りにくいというか……。
「それにしても、結斗たちは何を話してるんだろうな」
スマホで時間を潰しているわけじゃないだろうし、1時間以上も話が盛り上がっているのだろう。そんな夢中になる話題って……。
「そうだね。気になるね」
「意外と好きな人の話だったりしてな。はっはっはっ」
「…………」
「……冗談だからアイスコーヒーのコップを割る勢いで握りしめるの、やめてくれません?」
ミシミシ……っていけない音しちゃってるよ。
「笠島くんが変なことを言うからだよ」
「いや、俺は可能性を……うん……ごめん」
変なことを言うのはやめよう。
結斗の恋愛面になると美人姉妹はやべぇって忘れてたわ。一番やばいのは、その好きが暴走した時だけどな……。
「おっと、店を出るようだね」
「え?」
まひろの言葉で後ろを覗くと、結斗たちが席を立ってこちらに来ていた。
また変装はしているようで。
レジに付近にいる俺たちは横を通り過ぎる2人にバレないよう、顔を俯かせる。
「……行ったか?」
「行ったね。さて、私たちも行こうか」
2人が会計を終えて店を出ると、後を追うように俺たちも会計を終わらせて店を出た。
「おや。どうやら密会はこれで終わりなようだ」
結斗たちはモールの中心という目立つ場所にいたので、俺たちは柱の陰で見守っていた。
まひろの言う通り、終わりっぽい雰囲気があり、結斗が手を振り、連れの女性はお辞儀をして……2人は別れた。
「てっきり1日デー……なんでもないっす。1日中過ごすと思ったが、早い解散なんだな」
「でもああいう短時間の密会は、定期的に開催されるタイプだね。警戒しないと……」
えっ、まさか密会があるごとに俺は呼び出されるの?
「大丈夫だよ、笠島くん。君はもう呼ばないから」
「あ、はい……」
表情に出ていたのか、まひろがそう言ってきた。良かった。毎回借り出されたら、まひろの反応ごとに俺の心臓の方がもたない……。
「じゃあ俺たちも解散ってことだな。ふぅ、疲れた……」
「そうだね。付き合ってくれてありがとう、笠島くん。感謝するよ」
「どうも。じゃあね、まひろさん。ほどほどにしなよ」
遠回しにヤンデレ暴走モードにはならないでくれという思いを込めつつ、俺たちも別れた。
「結局、結斗といた女性は誰か分からなかったなー。まっ、俺には結斗が誰といようが関係ないがな」
結斗に仲のいい女性ができようが、それは喜ばしいことじゃないか。
雄二がそう思いながら手をポケットに突っ込み歩く反面。まひろは唇を触り、確信したように呟く。
「結斗といたのは……多分、雲雀さんだよね。ふーん、彼女まで私たちと深く関わるのか……」
◆
「さて、俺は本来の水着選びしますかね」
案内を見て、水着を扱っているお店の前にきた。
表に出ているマネキンは、どれも最新のトレンドや外さないコーデといった水着を着ていた。
水着を買いにくるのはやはり女性客の方が多く、女性コーナーから目を逸らしながら速やかに男性コーナーの方に行った。
「ハーフパンツだけでも結構種類あるなぁ」
単純な一色だけや柄が付いたもの。ハーフパンツの下に着る、レギンスとかもある。商品を見るとさらに迷うな……。
「こちらなんていかがでしょう」
「あー、ブーメランパンツ……ブーメランパンツ俺の趣味じゃないんですよね……って、うおっ、雲雀!?」
店員かなと思って振り向くと、メイド服姿の雲雀だった。
「てか、なんでメイド服なんだよ。もう夏だぞ。暑くないか?」
雲雀が着ていたのは、いつも通りの長袖のメイド服。これじゃあ夏は暑いだろう。半袖のメイド服とかないのかな?
「雄二様のメイドですので」
「あ、うん。それはもう分かってる……。あと、なんでここにいるの? 雲雀、用事があるんじゃなかったの?」
『雄二様。申し訳ありませんが、明日は用事がありますので送迎はできません』
昨日の朝、こう言っていたし。
「用事なら終わりました」
「あら、そうなの」
「はい。終わって雄二様をたまたまお見かけしたので」
ふーん、偶然ってあるんだな。
「水着。迷ってらっしゃるのですか」
「ああ。実物を見るとさらに迷うんだよなぁ……うーん」
俺なんかが下の水着1つで迷うんだから、女の子はもっと大変なのだろう。なにしろ、下の水着だけで基本大丈夫な男と違って、女の子は上下の水着プラス何かだもんな。
「ちなみに雲雀は水着持ってんの?」
「はい。持っております」
ふーん、さすが雲雀だな。
「んー、このまま俺が悩んでいても決まらなそうだし……雲雀に選んでもらおうかな」
「私にですか?」
「雲雀に選んでもらう方がいい気がしてきたから。あっ、ブーメランパンツはダメだからなっ! このハーフパンツの中からで頼む!」
「了解致しました。ではこれで」
「早っ!? おお、これか……」
雲雀が迷わず取ったのは、灰色ベースの上に、可愛らしいサメのイラストが描かれたハーフパンツ。
「こちらの水着、雄二様にお似合いだと思いまして」
「確かに色合いといい、サメの柄の感じといい、子供っぽくなりすぎずいいな。じゃあこれにする。ありがとうな」
「いえ」
「じゃあお会計行ってくる」
財布にはちゃんとお金は入れてきて……。
くいっ
「んっ。………雲雀?」
レジに向かおうとしたが、後ろからそれほど強くない力で引っ張られた。
見ると、雲雀が控えめに俺のシャツを握っていた。
「雲雀どうした? 何か他にいい水着があるのか?」
「一緒にお会計にいきます」
先に外に行っててもいいんだぞ、と言おうとしたが、なんとなく言わない方がいい気がして……。
「一緒に行くか」
そう返した。
「ところで、雄二様」
「ん?」
「夏休みを謳歌しようとするのは結構ですが、宿題もお忘れなく」
「あっ、はい。ちゃんと計画的にやります……」
第三章終わり
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