第60話 メイドと主人公の話し合い

『結斗様。私になにか用があるのでしょうか?』

『さすがにただの付き添い……とは思いませんよね。不快にさせてしまったのならすいません』

『いえ。大丈夫です』

『それなら良かったです。では雲雀さん』

『はい』

『僕は貴方と……お話がしたいです』


 始まりは勉強会の日の……結斗と雲雀がお昼ご飯を買いに行くためにマンションを抜け出した時だった。

  

 2人は話し合った。

 そして今日。再び集まり………


「雄二くんの————好きな食べ物はなんですか!」

「確かなのは分かりませんが……雄二様は生姜焼きが好きそうですね。反応がとても良かったので。あとは、王道のハンバーグや唐揚げも好きなようです」

「なるほど……! 僕もその3つは好きだなあ〜」


 笠島雄二のことについて話し合っていた。

 そう、前回も今回も、雄二のことについて話し合いをしていたのだった。


「自宅での雄二くんはどんな感じですか?」

「自宅での雄二様は外とほぼ変わらないかと。明るいですし、毎回ありがとう、とお礼を言ってくださいますし、家事など、仕事をしていたら自然と手伝ってくださいますし」

「なるほどなるほど……雄二くんは自宅でも雄二くんなんですね! さすがだな、雄二くん〜」


 それからも最近ハマっているものや、休日は何をしているのか……雄二についての話題は、雲雀の方から一旦休憩を持ちかけるほど盛り上がった。


「今回もありがとうございます」

「私も雄二様と仲良くされている結斗様とお話できて光栄です」

「本当はこういうことは、本人に聞いた方がいいと思うんですけど……雄二くんに聞くのはなんだが恥ずかしくて……」

「そうですか」

「それに、雄二くん自身も気づいていないこともあると思うので、にいる雲雀さんに聞いた方がいいかなって」

「一番傍にいるのが私……ですか。時間的に考えればそうですね」


 雲雀は紅茶のカップに手を伸ばす。

 結斗もまた、アイスコーヒーにミルクとガムシロップを入れ、ストローで飲む。


 飲む間、お互いに数秒沈黙が流れたが……すぐに会話は再開。もちろん、結斗の方から。


「でも、他人のことについてここまで知りたいって思ったのは雄二くんが初めてでした」

「…………」


 先程の盛り上がりとは違う、妙に冷静さが混じった会話の入り方に雲雀はすぐに気づく。


「前回、僕と雄二くんが友達になった経緯を話しましたよね」


『実は僕、中学の頃、男子とあまり仲が良くなくてさ。仲が良くないってのは、会話はしてくれるんだけど、友達って呼べるほど親しい人はいなくて……。だから男子から結斗って下の名前で呼ばれたことなんてなかったんだ』


 雄二と結斗がコンビニ前でたまたま会い、友達になったことの日を雲雀は話されていた。


「雄二くんが気さくに話してくれたことも、下の名前で呼んでくれたことも、あの時の出来事が全部嬉しかった。初めて本当の男友達ができたと思った」

「だからもっと知りたくなったのですか?」

「それあります」


 別の理由もある言い方……。


 雲雀は次の言葉に耳を傾ける。

 

「入学式の時、クラスでは雄二くんの悪い噂が立っていました。みんなが距離を取りたがっていました」


 結斗もあのクラスにいた人物の1人……。


『ねぇ、あの人どうする? 誘う?』

『……ほっとけよ。来たところで場の空気が悪くなるだけだ』

『でも実はそんなに悪いやつじゃないってことも……』


 クラスメイトの中で雄二だけが、浮いていることなど、すぐ気づいた。


「……そうですか。勘違いされやすい方ですから」

「勘違い……そうですね。その時の僕は雄二くんのことを何も知らなかったし、分からなかった。だから………」


 結斗は一息つき……申し訳なさそうに目尻を下げた。


「僕は彼のことを自分以上にだと思ってしまった」

「…………」

「でも今は可哀想なんて思ってません」


『いきなり声を掛けてごめんね。あ、僕は同じクラスの"佐伯結斗"だよ』


「あの日、たまたまコンビニで会った彼に、どんな想いで話しかけたとしても………話しかけて良かった」

「………」

「そして、彼の良さを知れて良かった」

「………」

「今度は僕の番。、雄二くんの良さを知っている」

「……つまり、結斗様は皆さんに雄二様の魅力を伝えたい……ということですか?」

「はい」

「まひろ様やりいな様にもですか?」

「もちろん。だから雲雀さん、雄二くんの良さをもっと知るため色々とね」


 真っ直ぐな瞳を向けられ、雲雀は……いつも通りの真顔で見返すことしかしなかった。


「ちょっと暗い話になっちゃいましたかね? あはは……。あっ! 良かったら学園での雄二くんと林間学校での雄二くんの写真があるので見ますか?」

「よろしければ見たいですね」


 写真フォルダーをスクロールして探す結斗から視線を外し、雲雀は顔を俯かせる。


 俯かせなくても、顔はいつも真顔……無表情であるはずなのに。



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