第58話 王子様と……監視?

 さっき並んできた時間のバスは、いってしまったので、20分後にきたバスにまひろと乗り込む。


「混雑してるな……」

「休日……ましてや夏休みの過ごし方と言ったら、ショッピングモールはスケジュールの一部だからね」

「うわっ、めっちゃ共感……」


 微妙に田舎な場所あるあるだよな。特にイ◯ンモールとかほぼ生きがいみたいなもん。


 夏休み期間とあり、バスの中は満席。見たところ、若い人が多いな。

 混雑していて奥には進めず、俺とまひろは入り付近に立つことに。


「笠島くんは体幹が強そうだね」

「見た目だけだぞ」


 実際、中身は違うし。ここら辺の道路は綺麗なのでガタガタすることはなく、止まったりする時の揺れぐらい注意しておけば大丈夫だ。

 

「あ、あの……っ」

「ん?」


 後ろから声がかかった。声の主は茶髪ストレートの女性。


「良かったら座ってください……っ」

 

 何やら緊張が混じった声でそう提案する。頬は微かに高揚していた。


 俺は勘違いなどしない男だ。彼女の視線の先はきっと……


「気持ちは嬉しいですが、お姉さんが座ってください。私は大丈夫ですから」


 イケメン、澄乃まひろに決まっている。


「で、でも……」

「笠島くん代わりに座る?」

「いや、俺はダメだろ。なんで俺に振った?」

「さっき体幹が弱いって言っていたじゃないか」

「言ってない。ゴツイ見た目ほどは体幹はないかもってだけだ。つか、男が座ってどうするんだよ」


 大体この女性は、まひろに向けて言ったというのに……。ということは心の中だけで呟こう。


「ということなので、私も彼も大丈夫ですよ。むしろ私は、お姉さんが座ってくれた方が嬉しいです」


 全然纏まりきっていないと思うのだが……。

 しかし、まひろが爽やかな笑顔を見せれば、事は丸く収まるいたもので。

 女性のみならず、見守っていた周りの乗客たちからも、「わぁ……」と控えめの歓喜が上がっていた。


「さすが王子様……対応に慣れてるな」

「同じことの繰り返しならば、慣れてるというものだよ」

「これも日常茶飯事なのかい……」


 自分が嫌なこととは、バサッと切り、あからさまに距離を取る妹のりいなとは対照的に、まひろはちゃんと向き合った上で上手く断るよなぁ。





「ついた〜!」


 ぐーと、腕を伸ばして体をほぐす。

 やってきました、ショッピングモール。駐車場に止まっている車の数からしてモール内の人の多さが安易に予想できる。


「じゃあここでお別れだな」

「悲しいことを言うね」

「いや、目的は別だろう……」

「笠島くんの話を聞いて、私も新しい水着を新調したくなった。一緒に行ってもいいかい?」

「ええ……そういうのって普通、結斗とのために取っておくものだろ。俺は結斗の代わりにはなれないよ。悪いが、水着選びは別の機会に取っておくんだな」


 そう言ってまひろから離れる。

 

 こういうエロゲの世界って、ふとした時に面倒なフラグが立ちそうだし、ここは単独行動の方が安全———


「待って」

「うぐっ!? な、なに……?」


 急に首元を掴まれ、首が締まって変な声が出てしまった。


「……あれ、見てよ」

「どれだよ」

「ほら。あの帽子をかぶっている二人組」

「んーー?」


 まひろの視線の先を見る。

 ……どれだ?

 目を凝らして見ると……。


「あの黒色のキャップは……結斗だよ」

「え、まじ」


 キャップ帽子に隠れ顔がよく分からなかったが……結斗と言われれば、確かに納得がいく。


「隣の女性は……また随分と変装しているようだね。キャスケットに丸眼鏡とは……」


 キャスケットというのは、ベレー帽にツバがついたみたいな帽子の名前なのだろう。帽子に髪を纏めており、丸メガネを掛けており……ほぼどんな顔をしているのか分からない。


 確かにまひろの言う通り、結斗もその隣の女性も、まるで変装しているようなファッションである。


「……結斗の予定というのはこれかぁ。ふーん」


 その不満そうな声に、俺の背筋が凍る。隣にいるけどちゃんと顔色を伺えない。反応が怖すぎて視線を合わせられない……。


 うん、やばい……やばい気がする。一旦落ち着かせないと……。


「も、もしかしたら結斗じゃない可能性だってあるだろっ。ちゃんと見たわけじゃないし……。それにほらっ、自分に似た人は3人いるとか言うし……?」

「………」

「………な?」


 まひろが顎に手を添え考えている様子。よしよし、もうひと押しか……。


「笠島くん」

「よし、無視して中に……」

「これで君は私に付き合う理由ができたね」

「え?」

「今の人物が結斗じゃなければスルーするだけだ。そのためにも、2人の目でしっかり確認しよう。さぁ、行こうじゃないか」

「ええ………」

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