第57話 悪役の顔面は武器
結斗:【ごめんねっ。僕も今日は予定があるから……】
「ふむ、結斗も予定があるかぁ……」
翌日。俺は1人、街中に出ていた。そして、さっき届いた結斗からのメッセージを受けて、1人で水着選びが確定したところ。
「1人だったらネットで選んだ方が……。いや、ネットじゃサイズ合わなかった時に困るし、やはり自分の目で確かめないと」
品揃えが良さそうなショッピングモールに行くことに。
ショッピングモール行きのバス停に並ぶ。あと8分くらいでくるらしい。ちょうど良かった。
ふと、道路を挟んだ向かい側を見ると……カフェの前でなにやら通行人が避けているような……。
「あれは……まひろ……?」
ウルフカット黒髪にブルーの瞳。スラッと伸びた足に、整った顔立ち。
私服に身を纏っていた。
夏に入ったこともあり、素材が涼しげな、オーバーサイズのジャケットとショートパンツのセットアップ。爽やかさがあるのに、どこか大人っぽくも感じるのは、まひろという元々の素材がいいからだろう。
ショートパンツによって長い足が強調されているからより……。
そんなまひろは、男3人に囲まれていた。男に囲まれることっていったら、ナンパしかないだろう。
ナンパといえば、雲雀も……。
『私、待ち人がいると先程から言っております。あまりしつこいと……タマ蹴り飛ばしますよ?』
とか言って、本当に金玉蹴り上げてたよなぁ。
だが、今回は男3人。こういう系を断り慣れているまひろでも、万が一があるかもしれない……。
「大丈夫だと思うが、一応なぁ……」
それに、見て見ぬフリはできない。
俺はバス停の列から外れて信号を渡って向かい側につく。
背後から見守るだけ……危なくなったら割って入ればいいよな。
近づいたことにより、会話も聞こえてきた。
「何度も言うが、私は君たちと遊びには行かないよ」
「え〜、そんな悲しいこと言わないでよ〜」
「見たところ、連れもいなさそうだし」
見た目で判断するのは申し訳ないが、髪を染め、耳ピアス、チラチラした雰囲気……いかにも遊んでそうな大学生っぽい男たちだ。口調も、ラノベや漫画に出てくるナンパ野郎そのまんまだし。
でも、まひろは美人だしナンパしたくなる気持ちも分かるな。敵に回したら怖いけど。
そのまま見守っていた時だった。
「あん? 何見てんだよ」
「あ?」
俺の存在に気づいた男たちがガンを飛ばしてきた。反射的に俺も睨み返してしまう。
こういう展開だと、俺は殴られるよな。3対1……1人をなんとか倒せば、残りはびびって逃げ出すよな。
ゴキ、ゴキと指を鳴らして気合いを入れてみる。
「……なぁ」
「………ああ」
「……ごくり」
何やらコソコソ話している。作戦会議か? まあなんでもいい。
殴るならさっさとこい、ナンパ男ども。俺には雲雀から教えてもらった必殺技が———
「もしかして……お知り合いですか?」
「ああ、そうだけど?」
急にへりくだったように聞いてきた。
あっ、これだけだと勘違いされるか。
高校のクラスメイト、と補足しようと時だった。
「「「しし、失礼しましたぁぁぁぁ!!」」」
「………はい?」
ビクビクと震え出したと思えば、男たちはその場を退散していった。
ええ……殴りにくるんじゃないのかよ……。
呆然としている俺にまひろが近づく。
「ありがとう、笠島くん。君のおかげでやっと彼らが諦めてくれたよ」
「いや、俺……何もしてないんだけど……」
ただ突っ立っていただけだし。
「そんなことはない。笠島くんが睨んだり、指を鳴らすのはとても迫力があって怖いからね」
「そういえば、俺って顔面が怖かったな」
雲雀や結斗たち以外に俺の顔面は武器だというのを忘れてたわ。
「しかし、まひろさんも大変だな。告白もされるし、ああいうナンパも日常茶飯事か?」
「よくあるとことだね」
さすが王子様。モテモテだ。
「結斗を遊びに誘おうと、返信を待っていたところに彼らが現れてね。まあ結斗には、用事があると言って断られたよ」
「奇遇だな。俺も結斗を遊びに誘おうと思ったけど、そう言われたわ」
「お互い、1人で寂しいということだね」
「まひろさんは、りいなさん誘えばいいじゃないか?」
「りいなはああ見えて、外出はあまりしない派なんだ。今頃は、家でコロコロしてるんじゃないかな」
「へぇー」
手料理の件で家に上がった時、りいなはだぼだぼのパーカーを愛用していたな。あれを見ると、家ではゴロゴロしてそうなのも納得がいく。
「ふふ。笠島くんはりいなとも仲が良くなっている感じだね」
「そうか? 分からん」
りいなは読めないからな。メスガキ口調はぐっとくるのもがあったが……。
馬乗りされて体力がなくなるまでやられるよりかは、マシな関係がいいが。
「笠島くん。今日の予定はなんだい?」
「え? 今日はショッピングモールで水着選びだけど……」
いきなりなんだ……?
「そうかい。なら私もついていっていいかい? ちょうどショッピングモールに行く予定だったんだ」
「え、ええ………」
「嫌かい?」
「いや、いいけど……」
「ありがとう」
バスでショッピングに向かうまで。ということで、あとは別行動だろう。
「じゃあ行こうか」
「お、おう……」
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