第50話 メイドの姉は、自由人で波乱者

「た、ただいま……」


 恐る恐る鍵を開け、リビングの扉を開ける。


『雄二様。ご自宅のドアを開くときにはくれぐれもお気をつけて』


 雲雀が電話でそう言ったものだから、警戒している……。


「おかえりさないませ、雄二様」

「お、う。雲雀……」


 出迎えてくれたのは雲雀だけだった。

 

 なんだ、雲雀といた人……多分、お客さんだよな。帰ったんだな。


「雲雀悪いな。メールでも言ったが、今日は早めにご飯を食ってしまって夕食がいらないんだ」

「想定済みなので大丈夫です。結斗様たちと打ち上げでファミレスでも行かれたのでしょう」

「あ、うん……」


 本来だったらそうかもしれなかったが、今回はりいなからお礼として手料理をご馳走になった。

 伝えたいのは夕食がいらないってことだし、わざわざ言い直す必要はないよな。


「雄二様。お風呂は少々お待ちください」

「お、おう」


 お湯を入れ始めたところか? じゃあ今のうちに筋トレでも終わらせて……。


「はぁー! いいお湯だったあ〜」


 浴室がある方のドアが開いた。濡れた髪をタオルで拭いている女性が現れて……


「あっ、おかえりご主人くーん! 先にお風呂使っちゃったから〜」

「ああ、全然いいぞ………ってアンタ誰!?」

 

 自然に答えてしまったが、マンションに知らない人がいる!?


「あはは、いいリアクションだね〜」

「すいません、雄二様。こんな姉で」

「え、あ……姉!?」


『私には2つ上に姉がおります。性格は私とは正反対ですが』


 そういや朝、話の中で姉がいるって言っていたな……。


 よく見ると雲雀と顔が似ている。

 お姉さんは左目の下にホクロがあり、髪型はポニーテール。身長はややお姉さんの方が高いが、ならどっちがどっちか、見分けるのは難しいかも……。

 

「お姉様。混乱している雄二様にまずは自己紹介を」

「おお、そうだね〜。雲雀の姉の沙織さおりって言います〜。よろしくねー」

「あっ、はい。俺は笠島雄二です。えと、雲雀にはいつもお世話になってます……!」

「おお! 雲雀はメイドとして君に尽くしているか!」

「それはもう、毎日助かっています」

「もしや下半身の方も……?」 

「エッチなことはしてませんよ!?」

「あはっ、残念〜」

「残念って……」

「騒がしい姉ですいません」

「あっ、いや……はは……」


 沙織さんの勢いがすごい……。

 確かに雲雀とは正反対の性格をしている。


 でも……


「あの雄二様が押され気味です。もう少し落ち着いてください」

「アタシはテンションが上がってるんだよっ。なにせ雲雀が仕えているご主人くんだもんっ。話通りなかなかいい子そうじゃん〜」 


 雲雀は呆れた様子だが、嫌がってはいない。


『確かに私の学園生活は孤独なものでした。けれど、日常生活では少々騒がしい方といて退屈ではなかったです』

 

 なんだかんだで、沙織さんは雲雀の心の支えになっていたんだな。


「あーそうそう! 急に家に訪れて悪いね、ご主人くんっ」

「い、いえ。ゆっくりしてもらって……」

「ううん。アタシ、帰るから」

「えっ!?」


 もう帰るのか!?


「ご主人くんも残念って思ってくれるの? いい子だねー」

「雄二様はただ展開についていけないだけだと思います」

「あっ、そうなの? アタシも泊まっていきたかったんだけど、明日も急遽仕事が入ってさぁー。仕事場の近くのホテルに泊まれってうるさいんだよー」

「は、はあ……?」

「それに今日は、雲雀とたくさん話せたし、ご主人くんにも会えたし目的達成だよっ。それじゃあまたね〜」


 沙織さんは事前に纏めていたのか、端に置いてあった荷物を持って去っていった。


 パタンと扉が閉まり、いつも通り雲雀と2人になる。


「なんか嵐のような人だったな……」

「ああいう方です」

「そうなのか」

「はい」


 結局、沙織さんのことは明るくてめちゃくちゃ勢いがすごい人。ということしか分からなかった。あと、仕事が忙しそうだな。


「雄二様。中間テストお疲れ様でした」

「あ、ありがとう」

「つきましては、私からご褒美を」

「マジ!?」


 雲雀からご褒美を貰えるとは予想外。


 すると、3つの折り畳まれた紙を俺の差し出してきて、


「この中からひとつ選んでください。ご褒美の内容が書いております」

「ひとつしかダメなのか……」

「欲張りですね。3つ全部したら……私の身体が持ちません」

「一体何をしようとしてるの!?」

「ちなみこのくじは姉作成です」

「ええ、絶対なんかあるじゃん……」


 怪しみつつも、無難に真ん中の紙を選んだ。


「どうぞ開いてください」

「あ、ああ……」


 さて、何が書いてあるのやら……。


【メイドのご奉仕お風呂】


 ん???????


「筋トレ後、待ってますから」

「え……」

「もちろん、お風呂なので裸で来てくださいね」


 そう言いつつ、雲雀はメイド服のエプロンっぽい部分の後ろ紐を解きながら浴室がある方のドアへと歩いていく。


「ちょっと待って!? 色々と急展開すぎて頭がパニックなんだけど!?」

 

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