第49話 小悪魔ヒロインの手料理

 だぼだぼパーカーの上にエプロンを付けたりいなが早速、調理に取り掛かった。

 

「何を作るんだ?」

「メニューを先に聞いちゃう? まあいいけど……。メンチカツ」

「ほう」


 メンチカツってうまいよな。俺は好きだ。こりゃ楽しみだ。


 キッチンが見える位置にテーブルがあるので覗くと、りいなは事前に作っておいたメンチカツのタネを冷蔵庫から出した。一つ一つラップでしっかり包んでおり、ジップロックしている。


 メンチカツのタネにパン粉をつけてから油に入れると、ジュワァー、パチパチと揚げるいい音がする。香ばしい匂いもしてきて、夕食時にはまだ早い時間帯だが、お腹が空いてきた。


「タネの具は?」

「合いびき肉、玉ねぎ。それとうちは、にんじんを入れる」

「メンチカツにかけるのは」

「王道のウスターソースもいいけど、うちはケチャップ」

「付け合わせは」

「千切りキャベツだけ」

「なるほど」


 やばい……好みがドストライク!!


「やはり、りいなさんは男たらしであったか……」

「は?」

「あ、いや、料理で男の心を鷲掴みにするタイプって意味での……。だから包丁をこっちに向けないでくれ!」


 怖いのよ! ゲームで悪役、笠島雄二の そういう凶器持っていたから余計に!!


 やはり美人姉妹を不機嫌にしたり、怒らせたら怖いな……。


 そして調理が終わり、


「はい、メンチカツ。それとご飯とたまごスープはおかわり自由だから」

「おお!」


 完成した料理を見ると改めてテンションが上がる。

 綺麗な小伴型に上がったメンチカツ。ケチャップがかけられている。付け合わせはシンプルに千切りキャベツだけ。白米に、たまごスープ……。これ絶対うまいやつだ。


「いただきます!」

「はいどうぞ」


 手を合わせて早速メンチカツにかぶりつく。


「ん! うまぁい!」

 

 やっぱり揚げたが一番美味い!!

 サクッとした衣の中からは、ジューシーな肉。そして、野菜多めなのでやさしい味わいで、そんなに重たくないメンチカツに仕上がっている。


「むぐっ、うん! めちゃくちゃうまい!」


 白米を食べる箸が止まらない。箸休めにたまごスープを飲む。こちらも具はたまごしか入っていないシンプルなものだが、落ち着く味だ。


「笠島って美味しそうに食べるよね」

「そうか? 美味いものを食べたら顔に出るだろ」


 美味しい料理は人を笑顔にしますからね。


「いただきますや美味しいとか、ちゃんと言えるのもいいと思うよ」

「別に普通のことだと思うが……」


 自然と言葉に出るものだし、そもそも礼儀だしな。


「それより、白米とたまごスープ。おかわりしていいか?」


 3つあるうちのメンチカツを1個と半分残してのおかわり。我ながらペース配分は完璧だ。


「あっ、うん。私が行くよ」

「おお、そうか。ありがとう」


 りいなが席を立ち、白米とたまごスープのおかわりをよそってくれた。


 帰ってからの夕食は、お腹いっぱいで食べれなそうだし……事前に雲雀に連絡を入れておかないとな。


「はい、おかわりどうぞ」

「ありがとう。んぐっ、もぐもぐ……」


 うん、2杯目もうまい。


「お礼、堪能させていただいています」

「それなら良かった」


 結局、白米は3枚おかわりした。

 食後はりいなが淹れてくれたコーヒーを飲み、ほっと一息。


「料理ありがとうな。めちゃくちゃ美味かった」

「満足してもらえたようで良かった」


 洗い物を終えたりいなも対面に座り、紅茶を飲む。


「…………」

「…………」


 最近、話し始めたとはいえ、俺とりいなじゃ間が持たないな……。


「あー……結斗の話でもする?」


 本当に話題がないのでとりあえず結斗の話を出す。


「ゆいくんはカッコいい」

「ほう」


 早速食いついた。


『結斗は可愛いんだ。そう、世界一かわいいぃ♡』


 姉のまひろと違って、りいなは結斗のことをカッコいいと言うよな。うーん……。


「結斗はどっちかというと可愛いじゃない?」

「ゆいくんはカッコいい」


 おや。ここは断固として譲らないという目をしている。


「たとえばどういうところがカッコいいんだ?」

「人を見た目で判断しないところがまず一個」

「丁寧に一個目って言ってくれてありがとう。あー、確かに。アレは惚れますわ」

「笠島もやっぱりゆいくんを狙って……」

「男としての尊敬みたいな感じで!!」


 なんでわざわざ説明しないといけないんだ! 俺と結斗のラブコメがあるわけねえだろ!


「ふーん。どうだが」

「おいおい。そこは真剣に考えることじゃないぞ」


 ほんと、結斗のことになるとヤバイ思考なんだから。この話題は喧嘩になりかねないので、変えよう。


「まひろさんのことはどう思ってるんだ?」

「お姉ちゃんは……恋愛ではライバル。でも、素直に姉として尊敬してるし、好きだよ」

「ライバルか。普段見ていてもそんな感じがするなぁ。はは……。尊敬は……まひろさんはなんでもできる完璧なお姉さんだもんな」

「お姉ちゃんは別に完璧超人ってわけじゃないよ」

「そうなのか?」


 りいなは頷くと、紅茶を飲みカップを戻すと、


「お姉ちゃんは昔、身体が弱かったの。激しい運動はおろか、酷い時には学校に通うこともままならない程にね」


 今のまひろからは想像できないな。あれ、これ。ゲームのまひろの過去ストーリーとして聞いたことがあるような……ないような……。


「昔の弱さを見ているから、今のお姉ちゃんが完璧って言われてても……なんか違和感があって。その二文字で片付けられるものじゃない、ってね」

「言わんとしていることは分かる。あのまひろさんでさえ、苦労してきたんだなぁ」

「私もお姉ちゃんもゆいくんも……そして笠島も。みんな色んなことで苦労してきた」

「そうだなー。まだ若いはずなのになぁー」

「でもメンタルは今のうちに鍛えられいるから将来役に立つかも」

「だな」


 俺なんか、ゲームの世界にきてどれだけメンタル鍛えられてきたか……。


「てか、俺の前だと、ほんと普段と違うよな。ギャップに風邪引きそう。別に素でもいいと思うが……俺も小悪魔欲しい」

「なにそれ。変態」

「好みと言ってくれ」


 呆れた……というか若干引いていた、りいなだったが、こほんっと一息つき、


「……一瞬だけだから。笠島の変態♪ ざーこざーこ♪」

「誰もメスガキ口調で言ってくれとは頼んでないが、リクエストに答えようとしてくれてありがとう」


 でも今のもなかなか……。

 猫撫で声で煽る口調……ああ、いい。なんか憎めない。






「ふぅ、世話になったな」


 気づけば夕方。まひろがまだ帰ってこなくて良かった。


「料理マジで美味かった。じゃあな」

「うん」


 短い会話を終えて美人姉妹を家を去った。




 雄二が帰った後。りいなは夕食の準備をしながら呟く。


「アイツと会話すると、なんでついつい話し過ぎちゃうのかな……」


 鉢合わせた遊園地の時も、林間学校の時も、さっきも……それほど親しくないのに、何故か話してしまう。


 そして………。


『俺たちが必死こいてみんなと平等に関わろうとしてんのに、邪魔するんじゃねぇぇぇぇぇ!!!』


 落ち着くたびに思い出す。別に私のために言ったわけでもないのに、脳裏で何度も繰り返し流れる。


 ゆいくんの友達ってだけなのに。

 見た目で勘違いされやすい同じ境遇の人間ってだけなのに。

 

 アイツに関わるほど、なんか……。


「笠島に何かしら魅力でもあるのかな……」





 


 美人姉妹の家から5分くらい歩いたところで雲雀に電話をかける。


「もしもし雲雀。今から帰る」

『ではお迎えに』

「いや、いいよ。すぐ着くし」

『左様ですか。ではおかえりをお待ち……』

『えっ、ご主人くん帰ってくるの! やったじゃん!!』

「!?」


 雲雀以外の声がする!? 


 耳をすましたが、その声は聞こえず、代わりにガサガサっと物音のようなものがした。


「……雲雀? 大丈夫か?」

『はい。大丈夫です。雄二様。ご自宅のドアを開くときにはくれぐれもお気をつけて』

「お、おう?」


 ここで電話が切れる。

 

「俺の家で一体何が起こってるんだ……?」






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