第45話 主人公とモブメイド。悪役とメイド。一目瞭然

「ただいま戻りました」

「ただいま〜」


 雲雀と結斗が帰ってきた。

 リビングに入ってきた2人。結斗の手にはテイクアウトしてきたお寿司の袋が2つ。雲雀は……スーパーで買ってきたような袋を持っている。


「雲雀さん、ありがとうございました。また話しましょうね!」

「私もお話できて良かったです」


 なにやら仲良さそうに話している。雲雀の方は相変わらず真顔だが。


 ツンツン


「ん? ええ……」


 背中を突かれたので見ると、りいなが目を細め、何やら不機嫌そうな顔。視線の先は、結斗と雲雀だろう。


「………なんであんなに仲良くなってんの」

「知らん」


 俺はりいなと違って、結斗と雲雀が仲が良くなってもいいと思うけど。

 でもあれは、どっちかというと……女子同士できゃっきゃっしている感じに近い気がする……。


「………む」

「そんなに気になるなら聞きにいけばいいだろ」

 

 俺がそう言うと、りいなは目を泳がせ、


「ゆいくんが楽しそうにしているのを邪魔するのだけは……ダメ」

「はいはい。りいなさんはそういう人だったな」


 結斗の笑顔が一番優先ですもんね。


「じゃあ大人しく見守るしかないだろ」

「………む」

「いや、不満そうな顔するなよ。りいなさんって意外とめんどくさい性格してるな……」

「私はめんどくさくないですー」


 べー、と舌を出すりいな。

 そういう認めないところがめんどくさい……と言ったらまためんどくさいことになるのでやめとこう。


「2人で何を話しているんだい?」

「あっ、お姉ちゃん。あれ見てよ」


 と、まひろもやってきた。


「結斗とうちのメイドが仲良くなっているのが気に食わないってさ」

「そこまで言ってないし!」

「私からすれば、笠島くんとりいなが仲良くなっているのも不思議だけど」


 ニコッと微笑むまひろに、りいなはなにやら難しい顔。


「別に、仲良くないもん」

「林間学校から笠島くんに随分と関わるようになったじゃないか」

「それはゆいくんの友達だからで……」

「ふーん」

「お姉ちゃん、その心の中でニヤついてる感じウザい」

「りいなも素直じゃないねー。興味が出たって言えばいいのに」

「お姉ちゃん……!」


 美人姉妹がなにやら言い合っている。

 というか、なぜ悪役の俺が美人姉妹に挟まれているのだ。結斗、早く本来の立ち位置に戻るんだ。

 

 俺は立ち上がって結斗と雲雀の元へ。


「おう、おかえり。結斗、あとは俺がやるからお寿司受け取るぞ。雲雀の付き添いありとうな」

「うんっ。じゃあお願いするね」


 結斗からお寿司が入った袋を受け取る。あとは、と言っても袋から出して蓋を取るだけだけど。


「雲雀は何を買ってきたんだ?」

「ちょっとした料理を作ろうと思いまして」


 男が4人もいるし、お寿司じゃ若干、物足りない気もするな。


「雄二様も手伝ってもらえますか」

「お、おう。いいぞ」


 チラッと結斗を見ながら答える。結斗は……美人姉妹と話していた。

 今度は手伝う、と真っ先に言わないんだな。


 俺は長袖を捲り、雲雀とともにキッチンに立つ。


「なにを作るんだ」

「お寿司に合う副菜とサラダです。雄二様は炭水化物ばかり食べていると太りますので」

「ゔっ……はい……」


 炭水化物ばかり食べても太らない体質になりてぇー……。

 

「雄二様は野菜はなにがお嫌いですか?」

「ナスとゴーヤ」


 この2つだけはどうしても好きになれない。ナスは特有の果肉の食感とちゃんとアク抜きされてない時にある、口の中の乾くような不快感が割とトラウマ。

 ゴーヤはあの独特な苦味が好きにないれない。近くにいるだけでトラウマ。


「では、それらを使ったサラダにしましょう」

「どう考えてもサラダに使う材料じゃねぇだろ。てか、食卓に出たら泣いちゃうよ俺」

「冗談です。鮭のお味噌汁と豆腐と水菜の和風サラダにしようと思って材料を買ってきました」

「最高じゃん」

  

 冷たいお寿司に合いそうな、鮭のコクが染みた温かい味噌汁。

 豆腐と水菜の和風サラダは箸休めにペロリと食べれそうだ。


 早速、調理に取り掛かる。

 俺はサラダの方。といっても、切って混ぜるだけで完成する。

 

 お互いスムーズに作業をしていると、


「なんかお前ら、夫婦みたいだよなー」

「え?」


 テーブルに顎を置いて、こちらを眺めている田嶋が突然言い出した。


「慣れた共同作業見せつけやがって。俺なんかが付け入る隙がねぇし……ぐぬぬ……」

「まだ諦めてなかったのかよ」

「気にしないでくれ笠島。こいつ、アホだから」

「ああ、分かってるぞ」

「アホってなんだよコラァ! 今の会話のどこにアホ要素があるんだよ!!」


 ぎゃあぎゃあ騒ぐ田嶋は、里島に任せておき、調理を再開しようとしたが、また視線を感じた。前を見ると、結斗と目が合った。


「どうした結斗?」

「ううん。なんでもないよ。やっぱり2人を見ているといいなって」

「お、おう?」

「ありがとうございます」

「どういたしまして。ふふっ」

「え、今お礼を言うところだったの!?」


 俺が鈍感ってわけじゃないよな。ただ、2人が分かり合っている、みたいなだけだよな。

 結斗と雲雀……ほんの40分くらいで何があったんだ?





 メインのお寿司。そして鮭のお味噌汁と豆腐と水菜の和風サラダもテーブルに並んだことで、華やかな昼食になった。

 1日テスト勉強をやるとなって、一番楽しみなのは、みんなで昼飯を食べることだよな。

 ちなみに雲雀も一緒に食べないかと誘ったが断られてしまった。






 勉強会、午後の部。午前中よりも長い時間勉強したため、終盤はシャーペンが止まったり、と集中力が切れ始めていたが、


「はい。今日の勉強会はこれで終わり。みんなお疲れ様。今日勉強したからと余裕ぶってはダメだよ。テスト勉強期間はしっかりと解いて復習の反復を徹底するように」


 まひろがそう言って締めた。

 こうして無事に勉強会は終わったのだった。


 みんなをマンションの入り口で見送って部屋に戻る。雲雀はコップなどを洗っていた。


「はぁ、結構疲れたなぁ。ガッツリ脳みそ使ったって感じ」

「お疲れ様でした。ちゃんとした勉強会でしたね」

「俺もてっきり勉強にならないと思ってたしな」


 結斗を美人姉妹が取り合って勉強にならないと思っていたが、3人とも黙々とやっていたな。メリハリってやつか。


「それにしても、結斗と仲良くなったように見えたけど、たくさん話して結斗の良さが分かったとか?」

はそこまで話していませんよ」

「ふーん」

「でも、雄二様ではないので話しづらさはありました」

「俺じゃないから?」

「はい」


 俺は話しやすいと思ってくれているという認識であっているか? それなら嬉しいが。


「勉強もしっかりしていただきたいですが、林間学校前にした約束、覚えてますか?」

「約束……ああ」


『今度は遊園地やショッピングモール以上に、もっと楽しいところに行こうな』


 もちろん覚えている。だって雲雀が素直になってお願いしてきたことだから。


「任せとけ。また一緒に楽しい思い出、作ろうな」

「はい」


 雲雀のほんの僅かの微笑みは、まだ俺しか見れてない。

 なんて自慢げに思ってしまうのは何故だろうな。





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