第46話 悪役と小悪魔ヒロイン。メイドと???
「雄二様。テストの手応えはどうだったでしょうか」
「まだ全部受け終わってないぞ! 今日が最終日だ!!」
朝食を食べながらちょっと行儀は悪いが、英単語を急いで覚えていた。英単語って寝ると覚えたスペルが微妙に飛んでいくんだよな。
勉強会が終わった後も、結斗とは図書館で。家では雲雀に勉強を教えてもらった。テスト勉強期間はしっかりと解いて復習の反復を徹底するように……まひろに言われたことも徹底したし、ここまですれば赤点は回避だろう。
「最後まで頑張ってください」
「ありがとう! そしてご馳走様!」
今日の朝食も米粒ひとつ残さず綺麗に完食。
よし、中間テスト最終日も無事に乗り越えるぞ!!
「最近の雄二様は学園生活を満喫なさってますね」
「そうか?」
「以前は私に、学園を休む言い訳を考えてくれと、無理矢理身体に教え込んできましたのに」
「待て待て。後半の情報はどこからきた」
相変わらず雲雀は、謎のパワーワードを生み出すなぁ。
『雲雀頼む。いい言い訳考えてくれ』
『言い訳考えるのめんどくさいので学園に行ってください』
『ええ!? ちょっとは考えてくれたっていいじゃないか! 頭良さそうな感じだし!』
『第一、いい言い訳を考えても無駄だと思いますよ』
『無駄?』
『雄二様は感じが悪そうな顔しているので、休んでしまったところで『やっぱりアイツは不良だ。もう関わらないでおこう』と悪い印象になるだけです。その翌日からはまた冷たい眼差しで見られ……ついには居場所がなくなり3年間ぼっち確定——』
『ああああ! マジでそうなりそうだからそれ以上は言うなぁ!!!』
と、まあ最初の頃は不安で嘆いていたが。
「今、学園生活が楽しいのもあの時、学園に行くように言ってくれた雲雀のおかげだな。ありがとうな」
「雄二様のお力になれたのなら良かったです」
そう言って、雲雀は食器を片付け始めた。
「………」
たまに、雲雀の学園生活はどうだったのだろう……と思う。けれど聞けない。安易に触れてはいけない過去というか、聞きづらいというか……。
「雄二様は顔に出やすいですね」
「うぇ!? な、何も考えてないぞ!」
「変に気を遣わないでください。逆に傷付きます」
「ゔっ……す、すまん……」
「冗談ですよ。今となっては過去のこと。あまり気にしてません」
「そ、そうか……」
「確かに私の学園生活は孤独なものでした。けれど、日常生活では少々騒がしい方といて退屈ではなかったです」
「ほう?」
雲雀が騒がしい人と絡む……。イメージがつかないな。いや、俺が騒がしい方だし、意外と相性がいいかも。
「私には2つ上に姉がおります。性格は私とは正反対ですが」
「あ・ね!」
雲雀に姉がいたのか! 雲雀がこれだけ優秀で美人なのだから、お姉さんもきっと凄いに違いない……。
「それで雄二様」
「ん?」
「急なのですが、本日のお迎えは急用により、できなくなってしまいました」
「ほんとに急だな。了解。たまには歩いて帰るよ」
「ありがとうございます」
「終わったぁぁぁーー!!」
「遊びに行こうぜー!」
全ての教科のテストが終わったお昼前の放課後。クラスは安堵のため息と、これからどこに打ち上げにいこうか、ということで盛り上がっていた。
俺も今日まで頑張ったし、自分へのご褒美でも……。
「笠島」
「ん?」
いつもなら俺の席に真っ先にくるのは結斗なのだが……今回はりいながきた。
「今からでもいい?」
「もしかして……」
「そう」
「分かった」
この少ない会話で、放課後何が行われるか察する。
事前にりいなからのメールで、今日か明日に例のお礼とやらをしたいと言われていたからな。
「それじゃあ行こっ」
「おう」
俺もスクールバッグを肩に掛け、2人して教室から出ようと歩く。
しかし、俺とりいなという珍しい組み合わせにクラスメイトが黙っているわけがなく。
「りいなちゃんが笠島といるぞ!?」
「なにぃぃ!? まさかりいなちゃん……笠島と遊びに行くとか……?」
「そ、そんなはず……。でも今日は2人っきり……」
「わたし、笠島くんは佐伯くんとデキていると思ったのに〜」
最後のは聞き捨てならないが、みんなが驚くのも無理はない。
りいなは今まで遊びに誘っても全部断ってきた。女子でさえもだ。そんなりいなが、クラスで腫れ物扱いされている俺という一番ない存在と2人っきりでどこかに出かけようとしている。驚くを通り越して唖然としている生徒もいた。
結斗とまひろは日直のために、ちょうど教室にいなかった。というよりか、りいなが2人が教室にいない隙に俺に声に掛けた。結斗とまひろには秘密らしい。
「美人メイドさんのお迎え。断らなくてもいいの?」
「あー、急用が入って迎えにこれないだとさ。なんの用事かは分からないけど」
「ふーん。じゃあ遠慮なくできるね」
「遠慮なくって……お礼だよな?」
「そうだけど」
ええ……なんか怖いんだけど……。つか、美人姉妹の妹と2人っきりって……何気にヤバい……?
―――同時刻。空港にて。
雲雀は指定されたターミナル内にある時計台で待っていた。そして、今日はメイド服ではなく、私服である。
「……相変わらず人使いが荒いですね。迎えがいるのなら前日までに連絡を、と言っているのに」
少しの不満を漏らしながら雲雀は腕時計を見る。飛行機が到着して5分経った。そろそろ……
「っ」
雲雀の身体がビクッと反応する。
背後からぬっと、現れた両手に胸を揉まれたからである。
「ふむ。ちゃんと育っているねぇ〜」
「こんな公衆の面前で妹の胸を揉まないでください」
「これはアタシなりの挨拶なんだけどなぁ〜」
雲雀の胸を揉むのをやめ、雲雀の正面に悪戯っぽい笑みで現れたのは、雲雀の姉である。
「ただいま、雲雀〜」
「おかえりなさいませ、お姉様」
「そんなお姉様とかお堅いのじゃなくて、昔みたいにねぇねぇって呼んでよ〜」
「呼んだことありません。早く帰りますよ。私もメイドの仕事があるので」
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