第24話 「放課後は私の時間ですよね」
5、6時間目は林間学校のことで授業が潰れた。勉強がカットされてこういうイベントごとに時間を使えるのは、学生ならではの楽しい思い出の一つだよな。
楽しいことをしている時はあっという間に時間は過ぎていき……
「少し時間を過ぎてしまったな。今日は林間学校の主な流れについての説明だったが、明日は班で役割分担を決めるからな。各班のリーダーも決めることも頭に入れとけよー。じゃあ、さようなら」
担任の竹林先生は、そう言い残して教室を出た。
「まじで林間学校楽しみだよな!」
「歩いたり、動いたり色々疲れそうなことはあるけど、みんなでお泊まりっていいよねぇ〜」
放課後になったクラスの話題は、先ほどまで説明が行われていた林間学校のことで盛り上がる。
俺は雲雀を待たせているので早く帰ろうと、教材をバッグに入れていると……先に帰る支度が終わった結斗が俺の席にきた。
「林間学校楽しみだね、雄二くん!」
「1日目は確かハイキングだったな。なんか初日から疲れそうだけど」
「その後のみんなで作るカレーは楽しみだよっ」
「だな」
想像するだけで俺も楽しみだ。
帰る支度を終えて、結斗と一緒に教室を出る。
「今日はまひろさんとりいなさんと一緒に帰らなくていいのか?」
「2人とも用事があるから先に行っててって言われたよ」
「ふーん」
今日は随分と忙しそうだなー。
「あ、そうだ。結斗、良ければなんだけどさ」
「うん、いいよ」
「まだ何も言ってないけど!?」
「雄二くんの頼みならなんでもOKだよ」
ほんと、人を疑わない純粋やつだなぁ……。
「へぇ……じゃあ昼休みのアレでも?」
純粋だからついつい意地悪してしまう。
「そ、それは……恥ずかしいからダメ……」
口の前で指でバッテンを作り、昼間のことを思い出してか、少し頬を染める結斗。
たまに思うけど、結斗が裏のヒロインとかないよな……? ヒロイン力が凄い。
「雄二くんの頼みごとって、アレなの……? いくら雄二くんでも……でも雄二くんがどうしてもって言うなら……」
「違う違う! 結斗さえ良ければ連絡先交換して欲しいなと思って。遊びにも誘えるしな」
「もちろんだよっ!!」
結斗はぱぁと、笑顔になった。
無事連絡先を交換できたのであった。
靴箱で履き替えて敷地を歩いているといつも通り校門近くで待ってくれている雲雀が見えたのだが……
「メイドさんって現実に実在するんだっ。やべぇ……ずっと見てられる……」
「この学園にこんな美人メイドさんを雇えるお金持ちがいるってこと?」
「ほんと綺麗……お近づきになりたい……」
いつもと違うのは、雲雀の横を通り過ぎる多くの生徒たちが、彼女に好奇の視線を向けていること。
今日は林間学校のことで時間が少し長引いてしまい、下校する生徒が多い時間帯と被ってしまったからだ。
そもそも、制服を着ていないどころかメイド服という明らかに部外者な美人が、ポツンと校門前に立っていたらそりゃ目立つに決っているか。
「…………」
ちなみに雲雀はというと、相変わらずの真顔で立っている。だが、その姿でさえ美人が引き立ち人は魅力される。
「雲雀さん今日も綺麗だね」
「だなぁ」
改めてこんな美人メイドが毎日お世話してくれるって贅沢だよなぁ。中身は少々クセがあるが。
「待たせてるし、早く行かないとな……ん?」
ふと、雲雀から少しだけ距離があるところにいる男子生徒たちが目に入った。
「……話しかけてみようぜ」
「いや、でも相手にされなそうだし……」
何やらコソコソ話していたと思えば、雲雀に近づいて……
「悪い結斗。ちょっとめんどくさいことになりそうだから、自慢の強面でアイツら散らしてくるわ。またな!」
「雄二くんの顔も含めて僕はいいと思うけどなぁ。うん、またね」
駆け足で雲雀の元へいく。
雲雀は過去に……
『お姉さんってばっ。無視しないでよ——ひんぎッ!?』
ナンパしてきた男の股間を容赦なく蹴り上げたことがあるから、男たちが危ない!!!
「うわっ!? なんかやべぇ奴が来たぞ!」
「こわっ!? ……に、逃げろ〜!!」
眉間にシワを寄せてわざと足音を立てていくと、狙い通り雲雀に近づこうとしていた男たちは逃げるように去っていった。
「雄二様お疲れ様です。今日は一段とお怖い顔で」
「美人だからモテる誰かさんのおかげでな。はぁ……」
「雄二くんと雲雀さんは相変わらず仲がいいなぁ〜、ふふっ」
雄二と雲雀を微笑ましく見守る結斗。
その後ろから……まひろとりいなが近づく。
「笠島くんは自分の短所を上手く利用しているようだね。ふふ。ナンパ対策にはもってこいってところかな」
「あんな強面が後ろからきたら誰だって怖いでしょ〜」
「まひろちゃんとりいなちゃん! もう帰れるの?」
「少しだけりいなと話をしていただけだからね」
「ところでゆいくん。あの美人さんのこと知ってるの?」
「彼女は雄二くんのメイドの雲雀さんだよ。雄二くんとすごく仲がいいんだぁ」
「へぇー」
「結斗はああいう女性がタイプかい?」
「うーん、僕は優しい人がタイプかな」
「あの美人さんが好みかな、って質問だったけど……結斗が可愛いからいいか」
「?」
首をかじける結斗をまひろが微笑ましく見ている間……りいなは雲雀を興味深そうに見つめていた。
「美人で、それも笠島雄二と仲がいい……もしかして遊園地での女の子って……ふーん」
「りいなちゃん?」
「なんでもないよ、ゆいくんっ。さぁ私たちも帰ろっか♪」
「…………美人姉妹。その名の通りですね」
「ん? 雲雀帰らないのか?」
車の方に進んでいたが、振り返ると、雲雀は俺と後についてきておらず、どこかを見つめているようだった。視線の先は……結斗たち?
「行きましょうか」
「? お、おう」
◆
「雄二様到着いたしました」
「んぁ……?」
雲雀の声で目を覚ます。自宅に着くまで、目を閉じてリラックスしていたつもりが、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「どうぞ」
「ありがとう……ふぁ〜〜」
雲雀がドアを開けてくれる。まだ眠たい目を擦りながら車を降りて……
「えっ、ここどこ」
一気に目が冴えた。
てっきり自宅であるマンションについたと思ったが……今いる場所はどこかの駐車場。
「放課後は私の時間ですよね」
「え、え?」
「では行きましょうか」
「どこに!?」
「もちろん……放課後のお出かけですよ」
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