第23話 悪役は王子様に頼まれごと……却下ァ!!!
階段を降りていくと、まひろが待っていてくれた。
「それじゃあ行こうか」
「ああ……」
まひろについて行くと、昼休みで人通りが少ない化学室付近の廊下で足が止まった。
「ここなら人が来ないし、いいかな。次は移動授業だし、極力教室から近いところがいいと思ってね」
まひろは俺と向き合い、
「いきなりに用があると連れだしてすまない。そして急だったのに受け入れてくれて感謝するよ」
「あ、いえ……」
「どうしたんだい? ふふっ、もしかして緊張しているの?」
「ま、まあ……」
ゲームでは馬乗りされて散々ボコられたトラウマがありますからねぇ……。緊張というよりちょっとビビっている。
そんな俺のことを知らず、まひろは話を続ける。
「笠島くんとこうやってちゃんと話すのは2回目かな」
『とりあえずここじゃ人目があって目立つし、別のところへ移動しようか』
そういえば、一回目も昼休みに話しかけてきたな。あの時も結斗は席を外していた。
だとすれば、今回も結斗に聞かれたらまずい話……。
「……もしかして
思い当たる可能性をこちらから切り出してみた。
言い終わると、お互い静かになる。生徒の声が微かに聞こえるだけの廊下に立っているだけ。
恐る恐る表情を伺うと……
「うふふ、はっはっはっ!」
まひろは上品に手を添えて笑い出した。
「え、え……?」
「ああ、すまない。笠島くんがおかしなことを言うからつい……。私がそんな非道なやつに見えるかい?」
「い、いやぁ……」
非道というか、ゲームでは結斗のためならばなんでもするヤンデレの面を散々見てますからねぇ……。
「私だって、人を見る目はそれなりにしっかりしているよ。第一、結斗が仲良くしている相手なんだ。そんな事言うはずがないだろう」
「なるほど。俺が結斗といても今のところ特に何も言ってこないのは結斗のためってわけか」
「それもあるけど、笠島くんのためでもあるよ。結斗を取られたら君だって話し相手がいなくなるだろう?」
「まあ、そうだが……」
結斗は友達になってくれて懐いてくれているが、クラスメイドのほとんどは、俺のことを怖がっていたり、いい印象を抱いていないだろう。
そんな中、結斗まで取られたら俺はぼっちに逆戻り。寂しさで学園に通わなくなり引きこもりになっているかも……しれない。まあその時は雲雀がなんとか学園に行かせようとしてきそうだけど。
「私も最初は笠島くんに興味はなかったけど」
「ハッキリ言っちゃうのね」
「結斗といる君をしばらく見ていて、笠島くんは顔に似合わず悪い人ではないと判断しているよ。むしろ結斗のいい友達をしている」
「そう思ってもらえて、どうも」
「いえいえ。勘違いされてしまうのは大変だね。でもその見た目じゃしょうがないよ」
「励ましの一つもないのかよ」
ハッキリ言いますね、王子様は。まあその通りだから反論しようと思わないが。
「変わらないものを励ましたってしょうがないじゃないか。それに、大事なのは中身だ。中身が違えば本来、見た目のまま勘違いされ続けられる人生を変えることができる」
「………っ」
中身だけ違う笠島雄二である俺に対して、突き刺さる言葉。まさにその言葉通りという現状。
あまりにも的確な言葉に俺は、まひろを見つめることしかできなかった。
まさか中身が別人と気づいて……るわけないか。初対面なんだし。
「話が逸れてしまったね、すまない。それで、笠島くんに用があると言ったのは、君に少し頼みごとがあってね」
「ああ、そういえば本題はまだだったな。頼みごと……俺にできることか?」
「簡単なことさ」
「ほう?」
簡単なことなら俺に頼まなくても良くないと思ったが何もツッコまず次の言葉を待っていると……
「林間学校での結斗を——"盗撮"して欲し……」
「あほか! 却下!!」
速攻でツッコミを入れた。
にこやかな笑顔でなんつーことを言っているんだ、この王子様……変態は! てか盗撮って堂々と言うなよ!!
そういや前回……
『君と話す結斗も実に可愛い。だから是非、君にその瞬間を撮って——』
なんか言いかけていたのはもしかしてこの事か! フラグを回収してくんなよ!!
まひろは指を顎に当てて、真面目な顔で言う。
「やはり盗撮はまずいか……隠れて撮る方が結斗の自然な可愛さをより収めることができるのに……」
「なんだが盗撮したことがあるような口調だが、俺はやらないからな!!」
「えー」
俺に即断られて諦めると思いきや、
「仕方ない。では笠島くんとのツーショット写真で我慢するよ」
「……それ、結斗の部分だけスクショして元の写真はゴミ箱行きだろ」
「良く分かったね」
すぐに察するし、そもそもゲームの中でそういう場面があったからな。
ちなみに正ルートである結斗の最後はというと、
『ねぇ、結斗……私はこんなに好きなのにどうして気づいてくれないのかなぁ。気づいてくれないのなら……もうその身体に教えるしかないよね……♡』
鈍感すぎて分からせ監禁エンド。監禁されるという面は悪役、笠島雄二と同じだが、違いは、馬乗りにされてボコボコにやられるか、性的にヤられるか、である。
……あれ? どっちにしろ羨ましくないような気がするのは気のせいだろうか。このエロゲは、ヤンデレ好きファンの需要に向けて作られたに違いない。
「3枚でいいんだ。結斗が写っている写真をくれないかい?」
「結斗のことになると、ほんと……」
「結斗に惹かれた理由とか聞きたい?」
「いい。大体……想像はつく」
そもそもゲームをプレイしていたから知っているし。惚れ方も結構独特で……って、今は思い出さなくていいか。
しかし写真の件は、このまま断ってしまうと機嫌を損ねかねないなぁ……。
「渡すとしてもプリントアウトか?」
「いや、写真送信で……と。そういえば連絡先を交換していなかったね。はい、これ私の連絡先のQRコード」
「ちょっ……」
なんと躊躇いもなく、スマホを開いてQRコードを差し出した。
「……このためだけに交換するのか?」
「もちろん」
当然とばかりに微笑む。
「……はぁ、分かったよ。ちなみに送るのは、みんなで写ってるやつだからな」
仕方なく、QRコードをスマホで読み取り、まひろの連絡先を入れた。
「3枚も無理だ。せめて……2枚にしてくれ」
「分かったよ。足りなかったら自分でなんとかする」
「なんとかするな!!」
まひろは俺の連絡先がちゃんと登録されているか確認すると、満足したようにスマホを閉じて、
「用というのはこれで達成したから終わりだね。付き合ってくれてありがとう。私は飲み物を買うから下へ行くよ」
手をひらひら振りまひろは去っていった。
まひろの姿が見えなくなると……肩荷が下りた。
「はぁぁ〜〜緊張したぁー……。つか、用があるってそっちかよ。結局とんでもなかったわ……。しかし、ほんと結斗のことになるととことん積極的だよなぁ」
さすが、のちにヤンデレ化して主人公を監禁する姉妹の1人だ。
「〜〜♪」
まひろはスマホを顎に当て、鼻歌を歌いながら上機嫌に歩く。
自動販売機に着いて飲み物を買うと、
「ふふ、うまく連絡先を交換できて良か
ったよ」
スマホを触り、連絡先の欄にある『笠島雄二』の文字を見つめた。
『まあ結斗のお友達という彼はそれほど警戒しなくて大丈夫だよ』
『私は最初から興味もないよー』
「あの時の言葉は、お互いに訂正してるよね、りいな。結斗のことは私たちが一番分かっている。そんな結斗がここまで夢中になる相手……興味を向けざるをえない。林間学校が楽しみだ……ねぇ2人とも」
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