第16話 悪役とメイド=遊園地=主人公と美人姉妹

「雄二様?」

「え、あっ、なんでもないぞ……!」

 

 と、言いつつも改めて雲雀が連れてきた場所、遊園地を見上げる。


 なんか……意外だ。

 

 遊園地は誰でも童心に戻れて楽しめるスポットであり、行きたいところとして思いつく人は多いだろう。


 しかし……


「私が遊園地を選ぶなんて意外という顔をしておりますね」

「バレた? てっきり高級ブランド品を貢がされると思ってた」

「ブランド品もプレゼントして頂けるならお受けしますよ」

「あ、受け取るのね」


 ブランド品にも興味はあるらしい。ブランド品はあんまよく分からないし下調べが必要。誕生日とかにでも渡そう。

 

 そう考えていると、雲雀が続きとばかりに話す。


「大切なのは誰から貰ったか、だと思います」

「………。ふっ、そうだな」

「はい」

「うん……。ん? ということは今の話の流れからいくと、俺からプレゼントを貰うのは嬉しいってこと?」


 雲雀の言葉に同感だと頷いていると、ふと気になった。

 

 雲雀に視線を向けると、彼女も俺を見ていて、


「………」

「………」


 お互い無言で見つめ合う。

 雲雀をよく見ると、普段は強い瞳が今はくらくらと揺れている。顔は相変わらず真顔だが、動揺してるってことが感じ取れる。

 

 ずっと見つめていると雲雀が顔を背けた。と、その間。小さく頷くところを俺は見逃さなかった。

  

「ふっ、雲雀は素直じゃないなぁ〜」

「なんですかそのニヤつき。怖い顔で笑うとますます怖いですよ」

「おやおや照れ隠しかい? だが、今の俺は何を言われても平気なのだ」

「では、痴漢とでも叫びますか」

「やめてぇ! 俺が絶対不利じゃん!」


 なんて賑やかな会話をしながらチケットを2人分買って園内に入ると、すでに家族連れやカップルたちで溢れていた。そして目の前に広がるアトラクションの数々。


「うぉぉ、やっぱり中に入ると遊園地来たって実感湧くぜ! 雲雀。まずはどのアトラクションに乗る?」

「………」

「雲雀?」


 アトラクションを真顔で見つめているだけで何も発しない。表情を見ていると、眉が一瞬、への字になった。どのアトラクションにするか悩んでいるというよりは、見慣れないと困惑している様子。

 てか、俺。雲雀のちょっとした仕草で感情が割と読めてきたな。一つ下の屋根で暮らしている効果か。


「もしかして」

「お察しの通り、私は遊園地初めてです」

「なるほど」


 行ったことがなかったからこそ、遊園地を選んだってわけか。かという俺も遊園地に詳しいかというと、子供の頃と修学旅行の2回ぐらいしか行ったことがない。


「雄二様。今日は私へのお礼とおっしゃりましたよね」

「言ったな」

 

 雲雀は一拍空けて言う。


「遊園地が初めての私が楽しめるようにエスコートしてもらえないでしょうか?」


 じっ、と見つめる雲雀に、俺は「任せとけ」と笑いかけた。


 遊園地にてまず立ち寄ったのは、グッズ売り場。私服をグッズで彩って楽しむ準備をするのだ。お互いに一品だけ買うことにした。


「………カチューシャに犬の耳」

「言い方。もうちょい可愛く表現して」


 雲雀は犬のキャラクターをモチーフにしたカチューシャをまじまじと見ていた。雲雀にとっては珍しいモノなのだろう。

 

 一方俺はというと、


「こうくん。このギャップあたしに似合ってる〜?」

「うんっ。さゆたんに似合ってるよ〜」

「こうくんもお揃いにしよう〜」

「さゆたんの頼みならしょうがないなぁ〜〜」


 向かい側で商品を選んでいるカップルが目に入った。……人目を気にせずいちゃついてる。どこかの誰かさんたちと親近感。


 店内を見渡すと、お揃いで付けるグッズを選ぶカップルが多い。そんな甘い空間に、俺と雲雀も割と溶け込んでいて……。


 待てよ。遊園地で女の子と2人っきり……これって実質デートなのでは?


「雄二様といると安心できますね」

「えっ!?」

 

 タイミング良く雲雀が言うもんだから思わずドキッとしてしまい、変な声が出てしまった。


 雲雀って、もしかして俺のことが……


「雄二様はヤクザと勘違いされるのでナンパ避け対策には効果的面です」

「あ、そう………ってヤクザじゃないわ!」

「失礼しました」


 期待した俺がバカでした。

 俺と雲雀じゃ、冗談を言い合える良き友人関係がしっくりくるよなぁ。





 同時刻。——電車内 


「遊園地に誘ってくれてありがとう、まひろちゃん。りいなちゃん」

「結斗と一緒に行きたかったからね。っと、結斗。ちゃんと壁側にいないと電車の揺れで倒れてしまうよ」

「あ、ありがとう。まひろちゃんが僕の前に立ってくれているから大丈夫だよ。まひろちゃんの方こそキツかったら僕に寄りかかっていいからね」

「結斗……」

「はいはいお姉ちゃん、ゆいくんに惚れてないでもっと横にずれて……。ゆいくん。私にも掴まっていいからね♪」

「あはは、ありがとう」

「りいな。これじゃあ私が半分しか結斗とくっつけないじゃないか」

「半分もあれば十分でしょー」


 目の前で揉める2人に結斗はまあまあと宥めながら思い浮かべる。


(雄二くんとも遊園地行きたかったなぁ……)

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