第16話 十八日目
彼は俺の家にいて、来る日も、来る日も、同じような生活をしている。風呂に入らない、着替えない、歯も磨かない。テレビを見たりもしない。ずっとベッドに寝ている。この子の親という人は、育児に疲れ果てて、少年がいなくなってほっとしているんじゃないかという気がしてくる。
もうすぐ休暇が終わる。そしたら、彼を外に放り出して、俺は車で帰ればいいだろうか。それとも、最寄りの交番や警察署に連れて行ったらいいだろうか。そうしたいのはやまやまだが、すぐ連れて行かなかった理由をどう説明したらいいだろうか。子どもがかわいかったから、手放したくなかったなんて、そんなことが許されるだろうか。
1週間風呂に入らなかったら、俺は体が痒くていられない。いい加減風呂に入れよう。その時、ちょっとおさわりして楽しみたいという気持ちもあった。
俺は彼のために、安い服の店で着替えを買ってきた。彼が着ている服とは比べ物にならないくらい、安っぽい服ばかりだった。長袖のトレーナーと半袖のTシャツ。ベージュのパンツ。下着も購入したが、車のプリントがあったりして、全部ダサい。選んだ理由は単に安かったからだった。
俺は彼に黙って、風呂の準備を進めた。湯船にお湯をためて、浴室を温めた。そして、ベッドルームに寝ている彼を抱きかかえて、脱衣所連れて行った。彼は大人しく俺の腕の中にいた。服を脱がせる所でも、嫌がっていなかった。体はまだ全身ツルツルだった。さりげなく下半身を触った。彼は黙っていた。俺がやったことに気が付いていない。よし、チャンスだ。俺は小躍りしたい気分だった。
小学生の頃のことを思い出す。自殺した同級生。
男の子をかわいがっても、相手から好きになってもらえる可能性は多分ない。それでも、愛されたいと思ってしまう。俺が本当に望んでいるものは決して手に入らないのだ。
俺も服を脱いだ。俺も裸にならないと体を洗ってやれない。俺はそう言い訳した。
そして、少年を抱きかかえて風呂場の中に入った。肌と肌が淫靡に触れ合う。
俺が興奮していることを子どもに気付かれないように、さりげなく振舞っていたが、芯から何かが溢れ出し、俺は平静を保てないほどだった。
俺たちは風呂場の中で向き合った。
俺は彼の背中を抱いた。
すると、子どもはものすごい力で俺を拒み始めた。両手で俺の体を押す。
「風呂に入らないと汚いだろ?」
俺は彼を抱きしめようとした。
しかし、彼は異常なほど暴れ出して、俺を引っかき、叩き、攻撃してきた。
俺もそれをよけるために、彼を押し返す。
彼が俺の顔を引っかいた。
顔に傷ができたらまずい。「どうしたのか」と真っ先に聞かれる。
俺はかっとなって、その子をバスタブに突き飛ばした。
すると、彼はよろめいて、延髄辺りを、バスタブのふちに頭をぶつけてしまった。
ほんの数秒だったと思う。気を失ったまま、風呂の中に倒れ込んでしまった。
俺は焦った。
人を殺してしまったかもしれない。
俺はその子の顔をお湯の中に沈めた。
全然、目を覚まさない。
もう、死んでるんだろうか。
事故だ。俺が殺したんじゃない。
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