第12話 八日目
俺は怖くなった。彼は復讐しに来たのかもしれない。
わかってる。俺は殺されても仕方ないことをしてしまった。
性犯罪の最高刑は死刑でもいいくらいだ。
レイプは魂の死と言われる。俺も似たような経験がある。一時的に風俗に入れ込んで、大金を溶かしてしまったが、立ち直ることができた。それは、俺がもう大人だったからだ。
彼に精神誠意謝罪する以外に、俺ができることはない。
八日目の朝、インターホンが鳴った。
カーテンの隙間から覗くとあの子どもだった。
俺はすぐにドアを開けた。
子どもはいつも通り無表情だった。
その時は、青の格子柄の白いシャツを着ていた。
ちゃんと着替えてるんだ。俺は意外に思った。
「入る?」
子どもは黙って家に入って来た。俺はその背中を見ていると、そのまま部屋を横切って、キッチンに向かった。俺の家を知り尽くしているようだった。包丁を取り出して俺を刺すんだろうか。緊張しながら成り行きを見ていた。
彼はキッチンのシンクの下を開けた。
そして、中にあったお菓子を全部取り出すと、キッチンのテーブルの上に置いた。そこには、山梨でしか見ないような袋菓子やお土産用の物も含め総額3500円分くらいあったと思う。その子は、袋を開けるといきなり手を突っ込んで食べ始めた。
「手、洗えば?」
俺が勧めると、子どもは素直に従った。
「物を食べる前は、石鹸で手を洗わないと汚いよ」
子どもは一心不乱にお菓子を食べていた。まるで何日か食べ物を与えられていないかのようだった。俺がせっかく買い置きしておいた、地元のお菓子なのだが、どうでもいい。また買えばいい。
「名前は?」
その子は答えなかった。耳が聞こえないか、口がきけないみたいだった。
俺はその子がお菓子を食べている姿を見ていた。次々と袋を開けて行くのだが、子どもにそんなに一度にお菓子を食わせていいのかわからなかった。親が知ったら、夕飯を食べなくなると言って怒るかもしれない。
男の子はお菓子を全部食べつくすと、片付けるわけでもなく、黙って家から出て行った。一体なんなんだろう。俺は不思議だった。ずっと窓をコツコツやっていたのは、お菓子が欲しかったんだろうか。夜中までずっとやるほど飢えていたのか?
しかし、俺はほっとして胸を撫でおろしていた。亡くなった友達の霊かと思って怖がっていたのに。ただ、無礼な腹をすかせた子どもだった。明日からもお菓子をあげよう。彼が全部食べてしまったから車で買いに行こう。俺は思いつくと、すぐに車を走らせた。スーパーに行くと、今日食べたお菓子以外を次々とカゴに入れた。彼に親近感を抱き始めていた。どこの子どもなんだろう。もっと彼を知りたくなった。
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