第10話 六日目

 明け方、外が少し明るくなって来たと思った頃だった。

 外でパラパラと雨が降っていた。

 もう寒いからな。雨の日もいいなという気持ちと、ますます閉じ込められているという不安がせめぎ合っていた。

 俺は起き上がるのが面倒で、暖かい布団の中でしばらくまどろんでいた。


 あれ?

 あれ?あれ?あれ?あれ?


 雨の音に交じって、コツ、コツという爪でガラスを叩く音がした気がした。

 こんな雨の日にまさか。

 まだ朝も早い。


 俺は無視して、そのまま布団を頭からかぶった。


 次に意識が戻った時、俺はインターホンで起こされた。

 あの夫婦だったらどうしよう。居留守を使おうか・・・俺は迷った。

 差し入れなんか持ってこられた日には、お礼に部屋にあげないといけないだろう。


 俺はまたカーテンの隙間から覗いた。

 そこには、あの子どもが立っていた。

 俺はぎょっとした。


 俺は居留守を使うことにした。一度家にあげてしまうと毎日来るかもしれない。

 子どもは何度も何度もインターホンを押し続けていた。

 気が狂いそうなほどだった。


 それが1時間ほど続いたが、飽きたようでいなくなった。


 その後は、窓ガラスをコツコツ、コツコツという音が日が暮れる頃まで続いていた。


 俺は1日中、布団の中で過ごした。彼に対して居留守を使うためだ。

 でも、車が外にある。

 家にいるのは明らかだった。


 あの子は一体どこの子なんだろう。

 子どもがいたら目立つだろうに、あの夫婦はその存在を知らないと言う。

 そんなことがあり得るんだろうか?


 俺は薄暗い中でパソコンを見ていた。ネット記事を読んでいたと思う。時間がもったいない。ベッドの中で、眠くなって、うとうとして、寝るを繰り返していた。気が付くと夕方だった。コツコツという音にはなれつつあった。俺はそれしきのことで音を上げるような人間じゃない。


 爪の音がしなくなってから、俺はスーパーで買った冷蔵庫から総菜を出してきて食べた。夜になってガキも家に帰ったんだろう。すでに寒いからエアコンをつけているくらいだ。あんな薄着だったら風邪を引いてしまう。


 俺は風呂に入った。湯舟にお湯を入れた。山梨は水がきれいだから、水道水でも気持ちがいい。勝手に思ってるだけかもしれないが。

 ビタミンCを入れてカルキを抜いて入浴する。


 湯船から出て、素手で体を洗っていると、ちょっとモヤモヤしてきて、下半身に泡をつけて自ら慰めていた。目を閉じてハアハア息をしていると、風呂の窓ガラスをコツコツと叩く音がする。


 げ・・・っ。


 暗がりにぼんやりと指の跡が見えた。こんな遅くまで子どもが外にいるなんて・・・。


 最悪だった。あちらからは見えてないんだ。

 俺は気にしないようにして、取り敢えず風呂から出た。あの子が風邪を引こうがどうしようが関係ない。勝手に外にいたらいいんだ。

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