第9話 五日目
俺は朝起きて、ベッドの中にいる。昨日は、窓をコツコツされなかったなと思う。
でも、パソコンの蓋が開いていた。誰か家に入ったのかもしれない。
俺は布団から出られないで、しばらく、ぼんやりしていた。
この家にいると、壁がマジックミラーになっていて、外から丸見えなんじゃないかという気がしてしまう。俺はそれに気が付かないだけで、誰かに監視されているんじゃないか。その人の目的はわからないけど、好奇心か何かでそうしているんだ。
自慢じゃないけど、俺は昔から見られてることが多かった。よく、イケメンですねと言われる。「ハーフですか?」、「そういうお仕事されてるんですか?」と聞かれたりする。最近はないけど、20代の頃は知らない女からいきなり話しかけられて、戸惑うことも多かった。うまく断れないから、慌てていると、喋れない人か、外国人だと思われることもあった。そうやってると、相手が面倒になって去って行くことがわかった。相手がタイプじゃない時はそうしていた。
それに、目立つせいで、変な女からストーカーされたことが何度かある。もともとビビりだから怖かった。今もその時のような、得体のしれない恐怖を感じている。都会のマンションならいいのだが、特に田舎の掘っ建て小屋では逃げることも隠れることもできない。
今、俺を見ているのは、変な子どもだけなのだが、それでも不安だった。子どもが不気味なのだ。何かして来たら、殴るとかして、逃げることもできるだろう。でも、怖くてたまらない。
俺は部屋を片付けた。何かあったら、もう東京に戻ろうと思った。
旅行だから持って来ている物が少ない。すぐに片付いた。それが済むと、もうやることがない。
その次は台所に出ている調味料を並べなおした。
冷蔵庫に入っているみそ汁はまだある。
あ、そうだ。人気のあるスーパーがあるから、車で買い出しに行こう。
ついでに昼は外食しよう。うまい物を食べれば気分転換になる。
せっかく来たんだから、うまいほうとうの店に行きたいし、名物の富士桜ポークや牛肉もおいしい。車を走らせれば、お洒落なフレンチの店もある。
俺は着替えて、外出することにした。ランチだと安いからだ。夜は怖いから、暗くなる前に戻って来よう。
俺はその日、ちょっといい店でランチを食べて、スーパーでおいしそうな総菜や、地元のお菓子なんかを山ほど買った。その頃には、家の近くに不気味な子どもが出ることや、感じの悪い隣人のこともすっかり忘れていた。
車のトランクから荷物を出して、さあ、家に入ろうと思った時だ。
玄関の鍵がかかっていなかった!
え!俺、鍵かけ忘れたのかな・・・覚えてない。
本当に俺は馬鹿だ。自分が嫌になった。
ランチのことで頭がいっぱいで、掛け忘れたのかもしれない。
家の周りに変な子どもがいるのに・・・。
俺は頭を抱えた。全身に鳥肌が立っていた。
取られて困るものと言ったら、パソコンくらいしかない。
13インチで、11万円くらいのモバイルノート。
主にネットサーフィンに利用している代物だ。
俺の家計簿やクレジットカードの明細のダウンロードなどが入っている。
バックアップがないから、はっきり言ってなくなったら困る。
俺は慌ててパソコンを見たが、そのままリビングの棚の上にあった。パスワードがいるから開けられないだろう。俺が困るのは、パソコン自体より、情報だ。
俺は憂鬱な気分になって、買って来たものを冷蔵庫にしまった。
そして、イライラして菓子を食べながら、キンドルを読む。
まったく頭に入って来ない。
その前に、パソコンが無事か見てみよう。
電源を入れると普通に起動した。
ああ、よかった!
何ともない。
俺はほっとした。
なぜか、泣きそうだった。
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