第6話 二日目

 朝起きると、もう8時近かった。寝室は遮光カーテンじゃないから、日光が部屋の中にも差していた。床はフローリングでインテリアもないもない、がらんとした空間。10帖の部屋にダブルベッドがぽつんとあるだけだ。ベッドを買った時は、そのうち、女性を連れて来るかもという予定で、その大きさのを購入していた。しかし、女性を同伴したことは一度もなかった。朝起きたばかりで、そんなことを思い出して情けなくなった。


 コツ、コツ


 ふと、小さな音が聞こえた。


 コツ、コツ

 コツ、コツ


 あれ?

 窓ガラスに小石がぶつかるような音がした。

 何だろう?

 まるで、雹でも降ってるみたいだ。


 俺はカーテンを開けた。外には何もない。軒下に鳥の巣でもあるんだろうか。

 昨日、子どもに覗かれていたこともあり、レースのカーテンを引いておいた。


 俺は寝ぼけたまま、リビングに移動した。そこもレースのカーテンにした。外の景色が楽しみでもあるのだが、さすがに覗かれていたら落ち着かないと思った。今は11月。冬休みにはまだ早い。こんなド田舎で、あの子は学校はどうしてるんだろうか。

 俺は朝食を食べないから、そのままソファーに寝転んだ。部屋の中ではずっと部屋着姿でくつろぐ。生地は洗いすぎでボロボロになっている。グレーのスエットの上下という典型的な部屋着だ。


 この休暇中は、ネットニュースは見ないと決めていた。世界で何が起きていても、危険地帯に取り残されても、俺は今は世の中と断絶したい。もう、俺の休日はkindle一択だ。昨日読んでいた、ホラー小説を再び読む。短編集だから、ストレスなく、ぐんぐん読み進める。久しぶりに本に集中していた。


 コツ、コツ


 あれ?

 またか・・・。


 俺は放置して、本を読んでいた。


 コツ、コツ、コツ、コツ


 何の音だろう。俺は立ち上がって、急ぎ足で近付くと、レースのカーテンをシャッと勢いよく開けた。


 そこには昨日の小学生が立っていた。

 上目遣いに俺見ながら、ものすごく伸びた爪で、窓ガラスをコツ、コツと叩いていた。俺は気持ちが悪くて、すぐにカーテンを閉めた。そこには子どもの影が灰色に映っていた。気味が悪い。俺は子どもが苦手で何と声を掛けていいかわからなかった。悪戯でやっているのか、俺の気を引きたいのかわからなかった。あんなに爪を伸ばしている時点で学校に行っていないことがわかる。


 俺は気にしないようにして、本を読んでいた。しかし、子どもは絶え間なく、窓をコツコツと叩き続けていた。気になって本の内容が入って来なくなった。俺は苛立った。立ち上がって、コンロでお湯を沸かした。落ち着くためにお茶を入れることにした。


 せっかくの休暇。わざわざこんな田舎までやって来たのに、ガキに邪魔されるなんて。俺は外から見て、どこにいるかわからないように、厚手のカーテンも閉めた。何のために来たのかわからなくなっていた。迷惑な訪問者を避けることに意識が行ってしまい、本を読むどころではなくなっていた。



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