第4話 読書
俺はそのまま本を読んでいた。読んでいたのは大好きなホラー系の小説だった。休暇中は、仕事に関係ない、自分が本当に読みたい本を読むことに決めていた。
普段は本を週2、3冊読んでいた。本と言っても小説とかじゃなくて、ビジネス本。激務にも関わらず、職場では本を読んでるのが普通だった。何でそんな生活ができたかというと、その頃の俺には野心と向上心があったからに他ならない。ちょっと努力したら、予想していたより成果が上がって、気が付くと上へ上へと巻き上げられていた。その会社ではいつもそうだった。見えない何かが俺を助けてくれていた。もう、やばい・・・と思っても、最終的には何とかなった。上司は江田君の案ならと、大体、俺の意見を通してくれた。
俺は集中できなかった。
小説を読んでいても、会社のことを思い出してしまう。忙しい、しんどいと思っても充実していたのは確かだ。給料もかなりもらっていたし、不満はなかった。俺なんか一時は派遣並みの給料しかなかった。その頃と比べて、随分、年収が上がったと思う。長く働いて経験値が上がったのは確かだが、それでも年収は運によるところが大きいと思う。小さな会社でも、優秀な人はいて、そんなところで働いてて、もったいないなと思うけど、その人はやめる気なんてない。俺は仕事を一通りこなせるようになると、もっと給料の高いところに移りたくなる。俺は今いる会社が上がりだとわかっていた。これ以上の待遇はもう無理だ。
おじさんの妄想は止まらない。
俺は女にはモテまくっていた。紹介してくれる人も複数いた。周りに遊んでいる人が多かったからだと思う。会う人、会う人、美人ばかり。しかも、誘うと断らない。
「忙しいから、2時間くらいしかないけど、ホテルに来てくれない?」と言うと、本当に来る。あちらは、俺と付き合っているつもりなんだろうけど、多分、俺みたいな花婿候補が他にも何人かいるはずだ。
俺が別荘に行くと言ったら、「浮気してるんでしょ?」と言われた。そういう相手が複数いた。みんな俺の収入を当てにして、枕営業を頑張っている女たちだ。俺がカスだから、集まって来るのも中身のない子たちしかいない。同僚はきれいな奥さんか、キャリアウーマン、資産家令嬢なんかと結婚して、子どももいて、仕事にまい進していたが、浮気をしている人も多かった。忙しいと浮気できないかというと、そんなの関係ない。忙しければ、今日は残業という言い訳ができる。
俺はそういう風にうまく立ち回れないし、家族を裏切っている状態に耐えられそうになかった。美人というのは飽きる。みんな性格が良さそうなふりをしていて、料理がうまいとか、習い事をしてるとか、実はお嬢様で・・・なんて、美点を並べても、みな似たような感じだ。その人でなくてはいけないという理由はない。みんな彼女はどうやって選ぶのか。決め手は何なのか?俺にはそれがわからない。
俺は本を読んでいても、どうでもいいことが浮かんで来て集中できない。もともと集中力がない。それに気が付いて、また、本を読み始める。
東京に戻っても俺を待っているのは、終わりのない内階段を上り続ける生活。ずっと上へ上へと昇り続ける。変わらない景色。毎日、もう無理というところまで行く。せっかくの休暇なのに、俺は仕事のことばかりが頭に浮かんだ。あのプロジェクトはどうしようかな・・・。〇〇社長どうしてるかな・・・。
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