第57話 花言葉を実現させて

「ピンクのスイートピーですか? 分かりました、持参します。何だか、気持ちだけでも嬉しくなりますね」


「えっ? どうしてですか?」

 

 フォミィは、僕の心を読んでいるはずなのに、こうしてよく読んでいないかのような反応で、さっきから尋ねている。

 僕の528hz音声を聴きながら、会話したいと思っているせいだろうか?

 それとも、もう既に、テレパシーから僕の能力への複製を終えていた?


「こんな事を言うのは、失礼かも知れないですが……元の婚約者さんとの間で、フォミィさんは、例え悲恋に終わっても、そういうピンクのスイートピーの花言葉『恋の愉しみ』のような素敵な時間が有った事だけでも、羨ましく感じるのです。僕達、男性能力者の立場では、望んでも得られない時間なので……」


 こんな事を言ったら、フォミィがどんな風に思うだろう?

 能力者のくせに、女々しい奴だと思われるかも知れない……

 そう思っていたから、次の瞬間、フォミィの口から発せられた言葉に、耳を疑わずにいられなかった。


「ラーニさん、私で良かったら、その花言葉を実現しませんか?」


 頬を紅潮させながら、真っ直ぐな瞳を僕の方に向けるフォミィ。


 今のは……?

 聞き間違えではない……?


 フォミィが、僕と……?

 

 聞き間違えではないのは、フォミィの表情を見たら、一目瞭然だけど……

 何か、早く、言葉を返さなくては……


「僕の気持ちなら、フォミィさんは、テレパシーで、とっくに気付かれてますよね? その上で、僕をからかっているのだとしたら……」


 そのまま鵜吞みにするには、僕とって、あまりにも都合が良過ぎる!

 何か盲点というか、気付けてない事が有りそうだと、つい疑ってしまう……


「私は、ずっと無能力者として生活してきましたから、突然テレパシーの能力を授かっても、正直、困惑してます! 一方的に相手の気持ちを知るのは、不公平に感じるので、むやみに使いたくないです!」


「テレパシーを使いたくない……?」


「テレパシーを使うよりも……特に、ラーニさんの気持ちは、心を通して知らされるより、こうして、ラーニさんの528hzの声で、聞き心地の良い事を言われたかったのです……」


 えっ……?

 今まで、フォミィは、僕の気持ちを読んでなかった!

 声でのやり取りを望んだのは、そのせいだったんだ!


 なんて事だ……


 せっかく素晴らしい能力が有りながら、それに頼ろうとせず、こんなアナログなやり取りで、話をつけようとするとは……

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