第54話 どの花言葉を

 話はそれだけだったら、友人達を立ち去らせて、僕だけがここに残るまでも無かったような気がするが……

 フォミィは、この能力者社会には慣れていないし、シャイな性格のようだから、敢えて、そんな手段を取ったのだろう。


「そのような事でしたら、お安い御用ですから。改まって、お礼してもらえるような事でも無かったですよ。では……」


 花言葉についての小言で呼び止められたのかも知れないが、そうならないうちに、退散してしまうという手も有る。


「あっ、待って下さい! まだ、私、話し終わっていないです……」


 呼び止められてしまった……

 面倒臭い話にならないうちに、切りが良さそうなところで、退散したかったが……

 

「早とちりしてしまい、失礼しました! それで、ご用件は……?」


「花言葉の件です……」


 やっぱり、その件で文句を言いたかったんだ……

 まずは先手を打って、謝っておこう!


「その件でしたか、大変申し訳ありませんでした! 僕は、花屋の店主からは、スイートピー全体の花言葉については伺ってなかったのです! まさか、ハムスターさんとのお別れを連想させる、ネガティブな言葉が有ったなんて知らずにいたのです!」


 何度も、頭をペコペコと下げた。

 僕の心を読めるなら、もうとっくに気付いているだろうとは思ったが……


「ラーニさんが、そんなに謝らなくてもいいです! 私が気にしたのは、ピンク色のスイートピーの花言葉の方です」


 ピンク色のスイートピーの花言葉……?


 『繊細』、『優美』、『恋の愉しみ』という3つの花言葉。

 フォミィが引っかかったのは、多分、『恋の愉しみ』という言葉だろうな……

 これについて、僕は、どう言い訳するといい?


 他の二つが、フォミィのイメージだったから、後の1つはまあ重要視しない程度でいたが……


 まさか、その部分に、フォミィがこんなに固執してしまうとは!


「それは……『繊細』とか『優美』という花言葉がフォミィさんのイメージにピッタリだったので……」


 敢えて『恋の愉しみ』という花言葉は触れないようにした。


「ありがとうございます。ピンク色のスイートピーは、元婚約者がよくプレゼントをしてくれた花だったのです……」


 えっ……!

 プレゼントしていた花が、元婚約者がプレゼントしていた定番の花と被っていたとは……何たる、失態!

 これはもう、決定打だ!

 フォミィに対して、随分と無神経過ぎる仕打ちをやらかしていた……

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