第39話 苦し紛れの施行

 あんな風に尋ねてきたという事は、フォミィには、今のところ、全く何のビジョンも浮かんで来ていないという事なんだ……


 フォミィと接触している時間は、他の対象者に比べると、随分超過しているというのに……

 何故に彼女は、僕の528hz音声をこうしてずっと聴き続けていても、無反応のままなのだろう?


 彼女が、まだ僕に心を許していないという、強い警戒心の顕れだろうか?

 それとも、フォミィの微笑みに心が揺らいでいる僕の能力が、急下降したせいなのだろうか?


 今まで、この528hzの僕の声音には、誰もがリラックスし、魂に刻まれた記憶を呼び起こす事が出来ていた。

 それが、フォミィを相手にした途端、その効力を全く発揮していない!


 全く……というわけでは無いのかな?


 少なくとも、初対面の最悪の雰囲気に比べると、幾分もマシになったのだから。

 彼女は他の人々と比べて、何に関しても遅行型の人間なのかも知れない……


 それに、大事なペットが亡くなったばかりという悲劇も、彼女の心に深くガードを作っている状態に違いない。

 こういう人に限って、そのロックが解けたら、後はトントン拍子に進む可能性も有るのだから、まだ分からない!


 ここまで来た以上、僕には諦めるなんていう選択肢などはなく、前進あるのみだ!


「それは、ハッキリと鮮やかに、私が普段目にしている日常の光景のような感じで、私の目に見えて来るのですか……?」


 そんな風に問われる事すら、僕にとっては全く不本意で、今までの対象者達は、スムーズに難無く思い出せていたんだ。

 だから、尋ねられても、対象者達の立場ではどんな風に捉えられているのか、自分は説明出来ない!


 いや、焦るな!

 何とか、フォミィが納得できる説明を落ち着いて考えるんだ!


「いえ、そういうわけではなくて……ああ、そうですよね。きっと、フォミィさんは公園という場所にいるのが慣れていなくて、新鮮な情報を過多に拾っている状態になっているんです! 他の情報に気を取られていると、肝心な生まれて来た目的を知るという気持ちには、集中出来なくなります」


「そうですね、こういう環境は慣れないせいか、いつもより落ち着きません……」


 フォミィが同意を示してくれると、安心出来る。

 この前は、僕の発言にことごとく、言葉を返されていたから……


「その情報過多な状態を少しでも緩和させるように、目を閉じてもらえますか? 瞬きのような短い感じではなく目を閉じたまま、ゆっくり深呼吸してみましょう」


 今まで、こんな事細かに僕が指示しなくても、対象者は勝手にそのモードに入って、悟る事が出来たというのに……

 フォミィのような対象者の場合、僕の今までの経験をあてに出来ず、つい戸惑って試行錯誤してしまっているが、フォミィにその事を気付かれてないだろうか……?


「はい……」


 フォミィが素直に従ってくれて、ゆっくりと深呼吸してくれている。

 良かった……!

 

 けれど、これで、フォミィに何のビジョンも見えなかった場合は、どうすればいいんだ? 

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