第38話 公園にて

 フォミィのようなタイプの女性に対しては、早急に進めないでおこう!

 ベンチに座って間を設けるだけでも、小鳥達のさえずりが、少しずつ、フォミィの固まった心を解してくれるかも知れない。


「フォミィさんは、公園にはよく来られるのですか?」


「私は、通りかがるくらいです。家と職場の往復くらいしか、外に出ないので……」


 そりゃあ、あれだけベタ惚れしていたハムスターを飼っていたのだから、いつも一刻も早く帰りたかったのだろう。


「可愛いハムスターさんが家で待っているなら、寄り道せずに、家に直帰しても当然ですね」


 自分としては、気遣いのつもりで言った言葉だったが、ハムスターを亡くして間もないフォミィの心境を考えると、また余計な一言だったかも知れない。


「……」


 ハムスターという言葉で、フォミィの表情に影が差した。


「すいません、フォミィさんのお気持ちも考えず、つい無神経な発言をしてしまいまして……」


「いえ……私が、いつまでもこんなジメジメしていると、ハムハムも浮かばれないので……これでも、早く立ち直ろうと努力しているのです」


 フォミィの口から意外と前向きな言葉が出て来て、少し安心した!

 ハムスターの事を忘れようと努力している……

 到底無理だと思っていた僕の話に乗ってくれているのも、その気持ちの顕れなのかも知れない。


「いや、あんなに可愛がっていたのですから、まだまだ心に留まっていても無理は無いですよ。自分の感情を押し殺さず、自然に任せていいと思います。その生きる方が、きっとフォミィさんの生まれて来た目的に近付く生き方だと思いますよ」


 僕の言葉に、少し口元だけ微笑んで見せたフォミィ。

 この控え目な笑顔と、初対面での険し過ぎた表情とのギャップに、すっかり打たれてしまいそうになってしまう僕……


 しっかりしろ!

 

 僕のこの感情は、僕の能力にどう影響を与えるのだろう?

 今まで未体験の状態だから、能力に支障が有るのかどうかも分からない……

 こんな事で、自分の仕事を全うする事が出来るのだろうか?

 

 いや、そんな不安な事を考えてはいけない!

 表情に出ないようにしようとすると、余計な力がそっちに働いてしまって、能力の妨げになってしまう!


「私の生まれて来た目的って、どうやったら、思い出せるのですか?」


「以前申し上げました通り、僕の声は528hzで話しておりますので、皆さん、リラックスして、自分の内側に入る事が出来るようです。今まででしたら、こうして僕と話しているうちに、対象者様が自ずと思い出されてくる様子でした」


 そう答えつつ、はたと我に返り、疑問が沸々と湧き上がって来た!


 僕は、今まで施行して来た他の対象者よりも、既にフォミィと一緒にいる時間は長くなっている!

 だというのに、フォミィには、まさか、その徴候すら現れていない……?

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