第33話 返答に詰まっている時に

 ノアシーの言い分は分からなくないが、彼女の言いなりになっていると、せっかくフォミィが、僕の為に声を上げてくれた意味が無くなる。


「僕達の仕事は、細かく制限時間が決まっているわけではありませんから、ノアシーさんのご要望に、応えたい気持ちも無いわけでは無いですが……」


「だったら、何も問題無いじゃない? フォミィを納得させる為に、まずは、この私を実験台にして!」


 僕には断るべき理由が無いと決め付け、しぶとく要求して来るノアシーの態度にはウンザリさせられるが……

 彼女は、フォミィの姉だから、邪険にも出来ない……

 

 この先、どう進めていいか困惑していた時、突然、フォミィが僕の手を引いて、走って家を出た。


 そよ風のように軽やかなフォミィの動き。

 あの時のノアシーの呆気にとられた顔を思い出しただけで、笑えて来る。


 これは、どういう事なのだろう?

 フォミィは、僕に助け船を出してくれた?


 どうして……?


 ノアシーは家のドアの所で怒鳴っている声がしばらくしていたが、諦めたらしく、追って来そうな気配は無かった。


 駆けていたフォミィの速度が、急に緩まった。

 彼女もノアシーが追って来ない事に気付いたのだろう。


「フォミィさん……」


 普段、走る事などそうそう無く、片手にカバンを持っていた分、身軽なフォミィに比べ分が悪く、息切れ気味になっていた。

 そんな情けないところをフォミィに見られたくなかったが……


「あっ、ごめんなさい。私、つい、自分のペースで走ってしまって……」


 僕が息切れしている様子を気の毒そうな目で見ているフォミィ。


「いえ、こちらこそ、恥ずかしながら、ここしばらく運動不足だったもので……」


「ラーニさんが、姉の要求で困っていると思ったので……こんな所まで、走らせてしまってごめんなさい」


 そうか、やっぱり、フォミィは、僕がノアシーへの返答に困っていると思って、こうして、外に連れ出してくれたのか!

 フォミィは、頑固者だなんて、ずっと思い込んでいたけど、とんだ誤解だった!

 彼女は、こんなにも思いやりがある女性なんだ!


 これも、僕の528hz声のなせる技だったとしても、かなり良い徴候に進んでいる事に間違えない!

 ノアシーという邪魔者無き今、フォミィの説得に情熱を傾けよう!


「正直、ノアシーさんのご要望に対して、どうお答えするのが良いのか悩まされていたので、大変助かりました! ありがとうございます!」

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