第26話 ノアシーからの暴言

 だとしたら、フォミィはもちろんの事、ノアシーもかなりの御立腹状態だ!


 そんな御立腹モードの二人を前にして、僕はどうしたらいいんだ?

 仕事の件はさておき、まずは、この修羅場をどうやってくぐり抜けるか考えなくては!


「嫁入り前の大事な身体である妹をハムスターが亡くなったのをいい事に、ここぞとばかりに接近して抱擁するなんて! しかも、立場上、妹は仕事先の対象者よ! そんな妹に対し、そんな無礼を働くとは! あなたには、大変罪深い事をしたという自覚が有りますか?」


 こんな剣幕で、言い返す隙を与えられずまくしたてられると、自分の取った行動がいかに軽率だったかを改めて確認させられてしまう……


 確かに、あの時、フォミィに対し、抱擁する必要性など、僕には全く無かったはずなのに……

 なぜ、自分は衝動的に、あんな行動に出てしまっていたんだ?


「それにつきましては、本当に弁解の余地が無いです。誠に申し訳ございませんでした」


 頭をしっかりと下げて素直に謝るのが、ここまで熱した人物に対しては効果的かも知れない……


 そう咄嗟に感じて、謝りはしたものの、心のどこかでは、自分は間違った行動を取っていないと、正当化している自分がいた。


 あの時のフォミィは……


 ハムスターの死で、その頼りなげな肩を震わせて、絶望し切っていたのだから……

 あの時、そばで誰かが支えてあげなくては、彼女はもっと打ちのめされていたに違いなかった!

 絶望して、自死を選ぶ事だって予想された!

 フォミィをそんな風にさせたくなかった!

 どうしても、それだけは誰かが止めなくてはならなかった!

 

 その誰かが、たまたま僕だったってだけなんだ……


 それに対しての批判ではなく、むしろ、ハムスターが亡くなったショックで、自分を見失っていた彼女を救った方に、焦点を合わせて欲しかったというのに……


 そう自分の中で願い続けても、フォミィ以上に頑固そうなノアシーには、決して通じないだろう……


「お姉さん、そんな風に言うのは止めて……抱擁という事実はともかく、帰りかけた彼を引き留めたのは、私の方なんだから!」


 そうだ!

 その通りだ!

 よくぞ、真実を語ってくれた、フォミィ!


 こんな言い難そうなタイミングで、僕の方を弁護してくれるとは、少し光明が見えて来たような気がする……


「それは、あなたが、ハムハムの死に気持ちを持って行かれ過ぎて、自分の取った行動の不自然さにも気付かないくらいに、パニック状態だったせいよ! あなたが、そんな風になっているのをいい事に、不埒にもこの男は……!」


 不埒……?

 そんなのは言いがかりだ!


 ……って、断言したいが、本当に、心にやましい事が無かったのか、自分自身きっぱりと言い切れない気がしている。

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