第24話 待っていたのは……

 この仕事に就いて以来、対象者宅の再訪は初めての事。

 

 そのせいなのか、妙に緊張している!

 ここしばらく味わってなかった、新入社員の時のような感じで、新鮮なくらいにまごついている気持ちの自分。


 制服の乱れも無いし、カップリング契約書類も一揃い有るし、キレイにラッピングされたスイートピーの花束も持参した!


 よ~し、これで、何も落ち度は無いはずだ!

 ここは、自信をもって突き進もう!


 呼び鈴を一回鳴らした。

 ちょっと控え目だったかな?

 これじゃあ、フォミィに気付かれないかも知れない……


 などというような疑問は全く必要無いくらい、まるで、このタイミングで来る事が分かっていて、すぐ玄関口で待ち構えていたかのように、玄関のドアが開いた!


 そのドアの開いたタイミングの速さにも驚いたものの、何よりも驚かされたのは、ドアを開けたのは、フォミィではなかった事だ!


 ドア口にいるのは、フォミィより年上の世慣れた感じのきつそうな目付きをした女性だった。


 フォミィとは似ていない事は無いが、口調によってはきつく見えない事も無いが、フォミィの目は、元々は少し下がり目だ。

 この女性は、言葉を発する前から、その目尻が上がっているのが分かる。


 当たり前のように、ここにいて、ドアを開けるとは……

 一体、誰なんだ……?

 フォミィとはどういう関係なんだ……?


「М&Bカンパニーのラーニ・テサムンですが、あの……」


 僕の戸惑いが先方にすぐ伝わったらしい。

 フォミィはどうしたのだろう……?


「いらっしゃい! 待っていたわ!」


「フォミィさんから、お電話でお話が有ると伝えられたのですが……」


「あっ、失礼! 私は、フォミィの姉のノアシーよ、よろしくね!」


 フォミィとは対照的なほど快活な口調で話しかけて来る。


 フォミィの姉……ノアシー……?

 なぜ、フォミィの姉がここにいるんだ?


「あの……フォミィさんは……?」


 僕が部屋に入るのを戸惑っていると、ノアシーが微笑んで来た。


「大丈夫よ、フォミィもいるから! さあ、中に入って!」


 ノアシーに招かれるまま、部屋に入った。

 先日と違うのは、ハムスターのケージが片付いている事。

 そのせいか、この前よりも、部屋が広く閑散として見える。


 フォミィは台所にいたが、よく眠れて無いのか、少しやつれた様子。

 心配で、姉のノアシーがフォミィの様子を見に来たのだろう。


「今、お茶を用意しますね」


 無言のままかと思ったが、僕の姿を見て、一声かけてくれたフォミィ。


「ありがとうございます。あの、来る途中で見かけたものですが……」


 さり気なく手渡したつもりだった。

 が、一瞬、フォミィとノアシーが目で合図している事に気付いた。


「ありがとうございます、せっかくなので、すぐに飾らせて頂きますね」


 フォミィが受け取ると、お茶の前に、小ぶりの花瓶に移し、テーブルの中央に飾った。


「妹が、お茶を用意している間、私が代わりにお話しをさせていただいて、良いかしら?」


 再び、お茶の用意にフォミィが向かったタイミングを狙い、ノアシーが話しかけて来た。

 フォミィとはまた別の意味で手強そうなノアシーだから、遠慮願いたいところだが、この状況では、そういうわけにも行くまい……

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