第23話 選んだのは、スイートピー

 見た感じは、花屋の店員のイメージとは遠い気がするが、素人の僕が適当に選ぶ事に比べたら、プロに委ねた方が良いに違いない!


「若い独身女性に贈る花なんですが……」


「その女性とは、お兄さんの恋人とか、片想いの相手ですかね?」


 ニヤリとしながら、こちらの様子を探って来る男性店員。


「えっ、あの……恋人とかじゃなくて、仕事で訪問先の女性なんです。まだ今回の訪問が2回目のあまりよく知らない女性なんですが、そういう場合は、どんな花が良いのでしょう?」


 やはり、自分の置かれている状況を説明して、それに合いそうな花をきちんとプロ視点で選んでもらうのが無難だ! 


「う~む、そうですね~。実は、当店はいつもはなら、家内がいるんですよ。生憎と今日は、体調が悪かったもんで、このわしが代わりに店番しているのですよ」


 僕の状況を説明するなり、男性店員は困り顔になった。


 この人は、あまりお花について詳しくなさそうだな……。

 他の店をあたった方が良いのかも知れないけど、そうなると、フォミィの家に着くのが随分と遅くなってしまうし……


「あの、じゃあ、奥さんがお好きな花とかは有りますか?」


「家内は、今でしたら、ゴージャスなバラが一番喜んでいますが……それでも、若い頃は、スイートピーとか、小ぶりの可愛い花が好きでしたよ」


「スイートピー?」


 聞いた事は有るが、どんな花なのか思い付かない。

 すると、男性店員が、沢山並んだ花の中から、ピンクのフリルのようにヒラヒラした花々を見せてくれた。


「こんな感じの大人しい感じの花で、わりと幅広い年齢の女性に好まれている花なんですがね……」


 確かに……さり気ないけど、姿形が柔らかそうで印象的な感じで、フォミィのあの家に飾るとしたら、雰囲気にもピッタリかも知れない。


「スイートピー、確かにいい感じですね! それで、スイートピーの花言葉というのが、分かりますか?」


「ええ~と、それはですね……」


 店の奥から、花言葉の本を取って戻り、目次を開いて、スイートピーのページを探していた男性店員。


「有りました、有りました! スイートピーのピンク色は、『繊細』、『優美』、『恋の愉しみ』です。良い感じの花言葉ですね~」


『恋の愉しみ』というのが、何だか意味深な響きだが、男性店員もそういうのだから、それで決定で良いだろう!


「では、それを10本ほど花束にして下さい」


 その時、僕は気付かなかった。

 男性店員の口調から、スイートピーには、ピンク以外の花が有るのは見当が付いていながら、全体的なスイートピーの花言葉を知ろうともしなかった事に……


 後から知る事になるが、スイートピー全体の花言葉には、「門出」、「さようなら」、「永遠の別れ」、「私を忘れないで」という、今のフォミィに手渡すにあたって、禁句的なキーワードが入っていた。

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