第19話 参考になったのは……

 僕やワーサルのような先天性能力者では、経験し得ない貴重な体験を途中で覚醒したイーマンは、既に体験済みだった。

 が、一般人の他の人々は、どんな状態なのだろう?

 僕からは、見当が付かないが、その辺の事情にも、イーマンは通じているだろう。


「ここでの制約が信じられないくらい、一般人は解放的だぜ! 結婚後も、男女共にそのパートナーだけに固執する必要が無いからな! 理性よりも本能で動く人々の方が多いし、それを咎めるような風潮も無い」


「一般人は、そんな乱交状態なのか?」


 ワーサルが、羨ましそうにヒューと口笛を吹いた。


「まあ、大方そんな感じだよ~。俺が飲みに行った時に出逢った女達は、その後の時間も誘うと、断られた試しが無かった!」


「それは、夜、飲みに行って、イーマンが声かけるようなイケてる感じの女性に限ってだろう?」


 話を盛っているようにしか感じられなかった。


「いや、そんな風に限定しなくても、例えば、夜に限らなくても、一般人は解放的な感覚なんだ! 俺以外だって皆、相手に困らなかった!」


「俺も、お前のように、後天的な能力が出て来る体質に生まれたかった~! そういう思いを一度でいいから、体験してみたいもんだな~!」


 ワーサルからは、一般人の恋愛事情への憧れがありありと感じられた。


 僕だったら、どうだろう?

 そんな解放的な境遇に、自分の身を置きたかったか?

 

 僕の考え方は古いのかも知れないが、出逢ったばかりのよく分からない女と、一夜限りの関係を持ちたいなどという気持ちにはなれない。


 相手の事をだんだんと知って、恋愛感情が育まれるのを待ってからという順序が大事だと思っているが……

 残念ながら、僕のような能力者達は、そのような恋愛とは、程遠い環境に属している……

 生まれつきの能力者である僕は、そういった自分の憧れの恋愛パターンなど期待するだけ無駄だった。


「詰まんない人生だよな~、能力者って! こんな規則なんかで、がんじがらめにされて、恋愛の自由を奪われているなんてさ!」


 どちらも体験済みで、比べられる立場のイーマンだからこそ、言えた言葉なのかも知れない。

 能力者としての人生しか体験をしていない僕には、その真偽が分からないから何とも言えないが、ワーサルの一般人への羨望は、強く感じ取れた。

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