第18話 一般人時代のイーマン

 我が社の規則では、対象者に対する30cm以上の接近すら禁じられていた。


 が……接近どころか、僕は、抱擁までしてしまっている!


 今回の件で、もしも、フォミィが通告した場合、僕は即座にクビとなる。

 フォミィからの状況説明次第では、クビだけでは済まされず、懲役刑になるかも知れない……


 もしも、抱擁したのが相手からなら、まだ酌量の余地が有ったかも知れないが、残念な事に、行動に出たのは僕の方からだった……


 誰よりも確実に職務をこなしていた僕が、まさか、こんな成り行きで窮地に追いやられる事になろうとは、誰が想像出来ただろう?


 フォミィのような頑固者が対象者にさえならなかったら、僕は、こんな危ない橋を渡らずに済んだはずだ!


「何だか深刻そうだな~!」


 ワーサルと悩まし気に話している様子が、またイーマンの目には興味深く映ったようで、物見遊山な笑顔を浮かべて近付いて来た。


 自分にとっての好敵手であるイーマン。

 こいつにだけは、自分の落ち度を知られたくなかったが……

 けど、考えてみると……イーマンこそが、この会社では一番、女に対しての扱いが慣れているかも知れない。


 何しろ、彼は、男にしては珍しく、後天的に能力が開花した人物なのだから!


「イーマン……君に尋ねたい事が有る。君は、能力の開花前は、一般人として生活していたのだろう?」


「まあな、俺の生き方が、ごく一般的な生き方だったのかどうかは疑問だが……で、何が聞きたい?」


 自身が、一般人として生きて来た時代を思い出している様子のイーマン。

 イーマンのような女ウケのするルックスで、フレンドリーな性格をしているならば、普通の一般人よりは、恋愛方面に関し、明らかに経験豊富だろう。


「イーマンなら、もちろん、抱擁の経験が有るのだろう?」


「抱擁……? ああ、ハグとキスは挨拶代わりみたいなものだからな!」


 得意気なイーマンの言葉に、僕とワーサルは、一瞬、ポカンと口が開いた状態にさせられた。


「ああ、そうか……挨拶レベルな事だったのか! しかも、キスまでが! けど、それは君の感覚であり、一般人とはいえ、個人差が有るのだろう?」


 男性能力者達にとっては、そんな事は法に触れる、かなりの難関だというのに、イーマンには、そんな軽々しくあしらわれてしまうとは……!


 けど、確認は必要だ!


 一般人の皆が皆、それらスキンシップなどに対し、挨拶感覚で交流しているわけではないのかも知れないのだから!

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