第16話 不覚にも……
思わず、この僕が、あのフォミィを抱き締めてしまっていたとは……!!
同情……だろうか?
生き甲斐だったペットの死を前に、心打ち砕かれている様子のフォミィ。
そんな彼女を放っておけなかっただけだ!
僕に対しては、あんなに気丈な態度を崩さなかったフォミィが、いきなりあんな弱気な面を見せてたりしたから、そのギャップでつい……
世の中には『ギャップ萌え』などという言葉も有るようだが、決して、そんな感情では無い!
自分は、そんな公私混同するような人間ではないのだから!
ただ、あの時のフォミィの頼りなげな細い肩を震わせて鳴いている様子が、さすがに、気の毒に感じられた。
そして、抱き締めた時の顔に当たった亜麻色の波打つ髪の毛と、骨ばって見えるくらい痩せっぽっちに見えているのに、思っていたよりずっと柔らかい感触……
ああ、そうか……
僕は、女性をこんな風に抱き締めた事など、例え仕事上とか、何かのはずみとかでも、今まで一度たりとも無かった。
だから、その初めての感覚に戸惑いを覚えてしまっているんだ……
「はぁ~っ……」
声に出すつもりは無かったのに、溜め息から声が漏れてしまい、そこにたまたま居合わせた、仕事仲間のワーサルに見られてしまった。
なんか、ニヤニヤと面白そうな表情で近付いて来る。
「なんだ、ラーニ? トップエリート能力者のお前でも、フォミィは手ごわ過ぎたのか~?」
「ああ、そうだよ! 小動物オタクの関心をさらう事くらい、お手の物だと高を括っていたが……」
いつもは、本心を晒さず、ポーカーフェイスの自分だが、もうヤケになって、本音を漏らしていた。
「なになに、珍しくラーニが振り回されているのか~?」
僕が弱音を吐いたのが、よほど嬉しかったのか、僕と並んで好成績を叩き出しているイーマンも野次馬根性を丸出しで近付いて来た。
「イーマンもフォミィ相手に、失敗した事例の一つだったんだろう? ベットの言葉を操っても、彼女はハムスターしか目に無かったんだっけ?」
「ハムスターオタクだからこそ、そのハムスターの言葉なら、少しは耳を傾けるだろうと思ったんだけどな~! まあ、いくらハムスターの姿で、あれこれ話しても、所詮、フォミィにとっては、ハムスターが一生懸命、自分の為に語りかけて来て、可愛い~! みたいな感覚で終わってしまうわけよ」
フォミィ以外なら、イーマンの作戦は、今まで成功率がほぼ100%に近かった。
それが、打ち砕かれた事を根に持っている口調のイーマン。
だから、ライバルの僕の苦言を聞くのは、尚更、愉快に感じるのだろう。
イーマンも僕に対して感じているように、僕もまたイーマンの言動が、何かと癪に障る!
いつか、イーマンに圧倒的差を付けて、出し抜きたい!
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