第15話 今なら上手く行きそう!

 いや、もしかしたら、僕のタイミングでも上手く行くのかも知れない!


 ハムスターがこんな事になって、フォミィがすっかり我を失って、さっきまで敵視していたはずの、この僕を家に招き入れたのだから!


「どうしよう……?」


 ショックが大き過ぎて、どうするべきか、頭が空っぽになっている様子のフォミィ。


「こんな事になってしまって、不安な気持ちはよく分かりますが……取り敢えずは、深呼吸をして、落ち付きましょう」


 フォミィは、無言で頷いた。


「今、ハムスターを手に乗せられますか?」


「あっ、はい……」


 涙を手の甲で拭いて、ハムスターのケージに手を恐る恐る入れたフォミィ。

 

「ハムハム? ハムハム?」


 ハムスターの背を優しく撫でながら、名前を呼んだ。

 僕に対する時の声とは全く違う、愛する生き物へ向けての柔らかい声音……


 ハムスターは、それでも無反応だった。


「ダメ……動かない! ハムハム~!」


 絶望的な声で、ハムスターを左手の平に乗せたフォミィ。

 ハムスターは、ケージから彼女の手の平へと居場所が変わっただけで、横たわっているままだった。

 

「大丈夫ですか? 噛まない……」


 ずっとそのまま横たわっているのだから、噛むわけなど無いと分かりつつも、目の前で接しているのは、その飼い主のフォミィだ。

 まだ残っている体力で、ハムスターが起き上がるかも知れないという事をフォミィに期待させた。


「……冷たい! フォミィが、冷たくなっている!」


 ハムスターの動きよりも、彼女を愕然とさせたのは、手に乗せた時の体温だった!


 その体温が、いつもと違い温もりを感じられない事で、彼女が最も恐れていた事が現実となったのを実感した様子だった。


 ハムスターを左手に乗せたままそっとケージから出すと、首を激しく横に振りながら、涙を振り切っていたフォミィ。


「ハムハム~!! こんなのイヤよ!! イヤ~!!」


「このハムスターさんは、あなたにずっと可愛がられて、幸せな状態で旅立たれたはずです……」


 僕が彼女を思いやって考えた言葉は、彼女の胸には、全く響かなかったようだった……


「イヤよ~! 私を一人ぼっちにして先立たないで~!」


「あなたは、決して一人なんかじゃありません!」


 咄嗟に自分が取った行動が、自分で信じられなかった!!


 僕は、なぜ、この期に及んで、こんな行動を取っているんだ……?

 本当に、僕が、こんな行動を自分からしでかしたのだろうか……?


 我に返った時には、まるで恋愛映画のワンシーンを再現しているかのように、フォミィを強く抱き締めていた!


 さっきまでのフォミィなら、振り払われて、頬を叩いて来ても、当然だっただろう。

 けど、今のフォミィは、ハムスターを失った絶望感に覆われて、多分、僕に抱き締められているという事にさえも、気付いていなかったかも知れなかった。

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