第14話 別人のように……
「待って!!」
その声は、ついさっきまで耳にしていた、棘の有るフォミィの声だった!
待って!! ……って?
僕に声をかけているのか?
引き止めてくれようとしているのか?
他の誰かに向けた言葉を自分への言葉と勘違いして、自惚れたりしたら体裁が悪いから、一応、辺りを見渡して、それに対応しそうな人物がいるかどうか確かめた。
「僕でしょうか?」
確認しなくても、視界に入る範囲内には僕しかいない。
振り返ると、フォミィの大きな瞳には、止めどなく溢れる涙。
何……?
何が起こった……?
「ハムハムが……ハムハムが……」
ハムスターの身に何か起こったのか?
フォミィが、僕を彼女の家の中へと誘導した。
それまでは、高過ぎるハードルのように思えていた、フォミィの家の玄関を今の僕は、楽に越えられていた!
趣味がハムスターとの触れ合いしかないせいだろうか?
フォミィの家の中は、ハムスターが快適に過ごせるよう、足場を広くして、キレイに整理整頓されていた。
その空間を見ているだけで、彼女とハムスターが戯れる情景が思い浮かべられそうなほど……
部屋の片隅に有るハムスター用の小さなケージの中に、ハムハムと名付けられていたハムスターが力なく横たわっていた。
「ハムスターが、どうしたんだ……?」
「分からない……ハムハムが、動かないの……」
さっき、あんな不吉な例えをしてしまった事を後悔した。
僕の能力には、動物の殺傷などは無いが、もし言霊というものが有るのだとしたら、そのような発言は御法度だった。
「今まで、こんな事は?」
「初めてよ……こんな、呼びかけても全く動かないなんて!」
フォミィが泣きながら、オロオロしている。
さっきまで、僕の前で見せていた態度とは、まるで別人のように……
自分がこの世で最も大好きな存在が、このような状態になっているのだから、無理も無いが……
動揺しきっているフォミィを前に、こんな事を思うのは不謹慎かも知れないが……
僕がフォミィを訪問するタイミングは、もしも今だったら、もっとすんなりと事が運んでいたであろう、という後悔だった。
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