第17話 最深部

私たちは休憩を終え、次の部屋に移動した。

ゴーレムパニックの部屋よりも大きい部屋に辿り着いた。


「巨大な魔石?」


私がそう呟く。

エルンストさんとユリアさんは興味深そうに魔石を見ている。


「何だ、あの術式? 見た事がないな」


「エルンスト、あれは違うよ。人間の物じゃない」


ユリアさんが言う。


「人間の物じゃない?」


「魔術は魔人の使っていた技術を勇者が人間向けに簡易化した物。この形式は魔人の物だよ。それもかなり高位の」


「ほう、最古参の魔術師の言葉は重みが違う。是非とも調査したい所だが、無理そうだな」


「そうね」


魔石が魔力を放つ。

部屋の出口が閉じられ、部屋の壁に結界が施される。

これは中の人間を閉じ込める事が目的ではなく、この魔石の動きを封じる事が目的か。

つまり、この施設はこの魔石を使った実験施設で、すべての防御設備はコイツを逃がさないため。

魔石が拘束具を破壊し、腕や手足が生え始め、それがだんだんとドラゴンの形に変化し始めた。

部屋の四隅に設置された銃が妨害術式をドラゴンに照射し、動きを止めようとする。

しかし、ドラゴンはどんどん完成形へと至りつつある。

そして、銃はドラゴンにより爆発した。


「あれ、止めた方が良いんじゃないの?」


ユリアさんはエルンストさんに聞く。


「攻撃するなら、魔石を狙うのが一番だが、今の状態だと効果は薄そうだな。ユリア、これを渡しておく」


エルンストさんはアイテムボックスから魔導自動小銃を取り出し、ユリアさんに渡した。


「これは……、何だっけ?」


「あれだけ使いたかった武器を忘れる奴がいるか? 自動小銃だよ」


「これであの魔石を撃てって事だね」


ユリアさんは早速、トリガーを引く。

ユリアさんは銃口に火炎術式を付与し、発射される魔力弾に自動的に火炎術式が付与されるようにした。

これにより、魔力弾は着弾時に爆発するようになる。

魔石はユリアさんの射撃により、周囲で爆発が起こっている。

にもかかわらず、魔石は欠けるどころか傷がつく様子すらない。


「マジ? あれ、硬すぎでしょ」


私は自動小銃に貫通術式を付与して攻撃をするが、どれも弾かれている。


「あ、銃口が焼けちゃった」


ユリアさんの小銃は銃口が焼け切れて、完全に使えなくなっている。


「時間切れだな」


魔石は完全体になったようだ。

あの見た目は完全にドラゴンだ。

ただ、室内と言う事もあり、飛ぶと言うよりは地上で大きな爪を武器に戦うと言う見た目をしている。


「散開!」


エルンストさんの叫びと同時に、私たちはお互いに距離をとる。

そして、私たちがいた場所にはドラゴンが口から放った光線で赤熱していた。

私は魔導小銃で爪の破壊を試みるが、貫通術式ですら弾が弾かれてしまった。

銃口の貫通術式を破棄して、火炎術式による爆破を試みた。

多少、爪や周辺の部位にダメージを与えられたようだが、思っていた以上に効果がない。

ユリアさんは氷で巨大な槍を作り、ドラゴンに投げているが、すべて爪により砕かれている。

ドラゴンがこちらを向いた。

私はとっさに後ろに下がると、ドラゴンは私のいた場所に光線を放っていた。

光線を放った状態でドラゴンはユリアさんと、エルンストさんに口を向けた。

ユリアさんは回避したが、エルンストさんは結界で自らの身を守った。


「ユリア! 接近戦だ」


エルンストさんが叫ぶ。

私は二人に意識が向かないように、攻撃を激しくする。


「オッケー、どうすれば良い?」


「鉄槌を用意しろ、頭上に転移する」


「任された!」


ユリアさんは助走をして、ジャンプをするとドラゴンの頭上に転移した。

ドラゴンは私に向かって光線を放とうと口を大きく開けていたが、ユリアさんの攻撃により、光線は口の中で爆発した。

ドラゴンの動きが止まった隙にユリアさんはドラゴンの顔を側面から鉄槌で殴打し、首を飛ばした。

ドラゴンの頭はぐしゃりと地面に落ちた。

そして、ユリアさんは断面に氷の槍をお見舞いして、ドラゴンから距離をとった。


「嘘でしょ?」


ユリアさんがそう言うと、氷の槍がみるみると抜け、ドラゴンの頭部が急速に再生した。


「何だ、あの再生能力? ドラゴンよりも強いんじゃないか?」


ドラゴンから急速に魔力の反応が強くなる。

私たちは己の身を守るように各々で結界を張った。

次の瞬間ドラゴンが生み出した衝撃波が結界を襲う。

同時に爪が迫って来た。

私の結界はすぐに破られ、壁と衝突した。


「ユリア!」


「分かってますって。はいはい、ドラゴンさんこっちだよ」


ユリアさんはドラゴンに接近して、足などを打撃する。

ドラゴンの意識はユリアさんに向いた。


「テレーゼ、大丈夫か?」


エルンストさんは治癒術式で私の傷を治療してくれた。


「何とか」


私は立ち上がり、銃を構える。


「もう、大丈夫そうだな」


「エルンスト~、まだなの?」


ユリアさんが緊張感のない声で訴える。


「もう良いぞ。と言うか、デカいのを撃つからそこから離れろ」


「え? ちょっと待ってよ」


ユリアさんは慌ててその場から離れた。

その瞬間、ドラゴンが爆炎に包まれた。

同時に、ドラゴンを囲むように巨大な氷の槍が周囲に展開され、次々と爆炎の中に槍が突っ込んでいった。

炎と煙が晴れると、傷だらけのドラゴンが体の至る所を槍で突き刺された状態だった。

ドラゴンは槍によって足、羽、胴体に槍が刺さっていて、身動きが取れなくなっている。

私は目を狙撃した。

すると、ドラゴンは咆哮を上げ、自分の体に光線をぶつけた。


「チッ、槍を強引に消したか」


ドラゴンは自らの攻撃で体の大部分と槍を消した。

すると、ドラゴンは羽を急速に再生して浮遊した。

そして、足の再生を始めた。


「エルンスト、落とすよ」


「そっちの動きに合わせる」


ユリアさんはジャンプをして、ドラゴンの頭に鉄槌を振り下ろした。

その衝撃でドラゴンは地面に叩きつけられた。

そこにエルンストさんは巨大な氷の槍を降らせ、四肢の拘束と胴体にも3本の槍を突き刺した。

ドラゴンは痛みのためか絶叫し、エルンストを見て口を開けた。

ブレスだ。

私はドラゴンの口に射撃をするが、ブレスを中止する素振りがない。

エルンストさんがドラゴンの口を塞ぐように氷の塊をぶつける。

流石のドラゴンもブレスを発動できないようだった。

ドラゴンは強引に槍から脱出した。

四肢はその影響で千切れている。

既に再生を始めているが。


「コイツ、いったい何をしたら倒せるんだ?」


エルンストさんが呆れながら言う。


「胸の魔石じゃないですか?」


私がそう言うと、エルンストさんは残念そうに言う。


「魔石をやらないと駄目か。あの魔石は貴重なサンプルだからあまり攻撃したくないのだが……仕方ないな」


そう言うと、エルンストさんの周囲に光の球が現れ、次々と魔石に対してレーザーを撃ち込む。

初弾は魔石が弾いたが、少しずつ削っている。。

ドラゴンは危機感を覚えたのか、エルンストさんを攻撃しようと爪を振り上げるが、ユリアさんがドラゴンを氷漬けにして、動けないようにしたため失敗した。

ドラゴンが動けないため、エルンストさんは先ほど以上に魔石に対してレーザーを撃っている。

とうとう、レーザーは魔石を貫通し、魔石には穴が開いた。

ドラゴンは術式に問題が発生したのか、形が維持できなくなり、魔石以外が霧散した。

魔石は地面に落下すると、バラバラに砕けた。


「これ、回収するんだよね、エルンスト?」


ユリアさんは砕けた魔石を見てげんなりしている。


「ああ」


「何で砕けちゃうの~!!」


げんなりとしているユリアさんをよそに、エルンストさんは魔石の破片を次々と拾ってはアイテムボックスに放り込んでいた。

私もエルンストさんに協力しようと近くに落ちている魔石を拾おうと魔石に触れると、ビリッと言う衝撃が指に来た。

衝撃と同時に映像が頭の中に入ってくる。

魔物のような見た目をした二足歩行の何かがこの部屋に大量にいる。

私たちが壊した魔石を憑代と呼んでいる。

失敗、あれは陛下の望む物とは程遠い。

だんだん、声が遠くなってきた。


「憑代……」


私の呟きをエルンストさんはしっかりと聞いていたようだ。


「憑代?」


「この魔石を持った瞬間にその言葉が聞こえて……」


「珍しい能力だ。サイコメトリーか。それで、声の主はこの魔石を憑代と呼んだのか?」


「はい。魔物のような見た目をした二足歩行の何かが憑代と」


「それは魔人だな。勇者の時代の終盤に突然姿を消した存在だ。魔人が憑代と……。何かを寄り付かせるための物を用意した? 一体何を……」


「ねえ、エルンスト? なんかここ揺れてない?」


ユリアさんの言葉で私も気付いた。

確かに揺れている。

周りを見渡すと壁にヒビが入っている。

崩落が近いんじゃ。


「これはマズいな。とりあえず、アトリエに帰ろう。この魔石を詳しく調査したいしな」


エルンストさんはそう言うと、ゲートを出現させ中に入った。

私とユリアさんもゲートを潜り、アトリエに帰還した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る