第16話 パニック
破壊された跡のある通路を抜けると、大きめの空間に辿り着いた。
何かの実験場だろうか?
よく見ると壁には大量のゴーレムが保管されている。
「ねえ? これ絶対に引き返した方が良いやつよね? 絶対に引き返した方が良いやつだよね?」
ユリアさんの悲鳴に反応するかのようにゴーレムは次々と起動した。
そして出口が消えている。
「クソッ、逃走経路を奪われた」
次の瞬間、上からゴーレムが降って来た。
「何コイツ、ゴーレムが降って来るとか初耳なんだけど?」
「そんな奇妙な経験なんて人生に1度も体験したくない所だな」
エルンストさんは結界を張りゴーレムを受け止めるが、ゴーレムの腕の刃が結界に食い込み始めた。
ユリアさんは鉄槌を取り出し、結界に張り付いているゴーレムを殴り飛ばした。
「完全に包囲されてるじゃねぇか」
ゴーレムは壁から次々と現れ、腕についている円筒状の何かを私たちに向けている。
エルンストさんは結界で私たちを覆と、ゴーレムの武器が攻撃を始めた。
魔導銃よりも大口径なゴーレムの火器はエルンストさんは結界に衝突する手前で停止している。
エルンストさんはある程度、溜まった所でゴーレムの攻撃を増幅して反転させ、撃ち返した。
撃ち返されたゴーレムはボロボロ砕けたり、コアを攻撃され活動停止し、包囲していたゴーレムは全滅した。
エルンストさんは結界を解いた。
「ユリア、自爆ベルトの準備はできたか」
「私に自爆を押し付けないで?」
「ユリアの自爆ベルトをこの前、改造しておいた。あれを起爆させればこの部屋ごと消滅するはずだ」
「それって、エルンストとテレーゼがダメじゃない?」
「テレーゼと俺は結界で身を守るから大丈夫だ」
「それなら自爆ベルトを起爆して私も結界守ってくれれば良くない? と言うか人の持ち物を勝手に改造しないで? これって犯罪だよね?」
私は話を真面目な方向に戻す。
「エルンストさん、この部屋に妨害術式の気配を感じないんですけど、合ってますか?」
「ああ、この部屋からは妨害はない。ただ、接近戦用のゴーレムには妨害術式が付与されている。そこだけ気を付けろ」
「分かりました」
銃を使っても良いが、これだけ数がいて、距離がそれほど離れていないのなら普通に魔術を使った方が効率が良い。
再びゴーレムが壁から現れた。
今度は近接戦と遠距離戦の混合ゴーレムらしい。
私は接近してくるゴーレムに目標を定め、爆発させた。
爆炎と爆風が周囲のゴーレムを襲うが、石でできたゴーレムには大した影響はなさそうだ。
大口径の弾が飛んできた。
私は結界で弾を受け止めたが、かなりひび割れてしまった。
次弾は受け止められないだろう。
次弾が来た。
しかし、それらは届く事なくユリアさんが鉄槌で弾いた。
ユリアさんはゴーレムに近づき、一撃でコアを叩き割る。
ユリアさんの側面から近接特化のゴーレムが接近し、刃物を振るうが空を切った。
そして、脳天に鉄槌が直撃し、その衝撃でコアが潰れゴーレムは沈黙した。
遠距離特化のゴーレムが3体ユリアさんに狙いを定めている。
そのうち、2体はエルンストさんの攻撃で切り刻まれ、バラバラになった。
もう1体はエルンストさんの攻撃を避けたが、照準に定めていたユリアさんを取り逃してしまった。
ユリアさんはその隙にゴーレムの胴体に強力な一撃を入れ、ゴーレムを活動停止に追い込んだ。
私も接近してくる、ゴーレムに火球を飛ばして応戦する。
「何でコイツら、人間みたいに殺しても殺しても増えるの?」
終わらないゴーレムとの戦いにイラ着いた事が原因なのか、もともと頭がおかしいせいなのか分からないが、ユリアさんが恐ろしい発言をし始めた。
「ユリア、お前、完全に人間以外の視点で考えてるじゃん。いくら人間世界に居場所がなくても、その発想はあり得ないぞ」
エルンストさんがありえない物を見る目をしている。
「さらっと衝撃の事実が聞こえたんですけど? 私、人間世界に居場所ないの? もう、ゴーレムに寝返ろうかな」
ゴーレムがユリアさんに射撃する、
ユリアさんは鉄槌で攻撃を弾いた。
「ゴーレムもお断りだって」
「この悲しみと怒りを何にぶつけてくれようか。そうだ、ゴーレムにぶつけよう」
「可哀想に」
「私が何を言ってもネガティブな反応しかされない理由について論文の提出を求めます」
「勝手にやってろ。良いから、ゴーレムを潰せ」
「はいはい。分かりましたよ。まったく冷たいんだから。よし、全部スクラップにしてやる!!」
ユリアさんは強化術式を全身に掛け、暴れ始めた。
近接特化のゴーレムがユリアさんのもとに駆け付けるが、どれも近づいた瞬間に粉砕されている。
遠距離型のゴーレムも危機を感じたのかユリアさんに狙いを定めるが、ユリアさんの動きが速くまったく追いつけていない。
私はユリアさんをサポートに努め、エルンストさんは壁から出現するゴーレムを次々と破壊した。
ゴーレムパニックを何とか乗り切った私たちは休憩していた。
「久々に焦らされたな」
エルンストさんが一息つきながら言う。
「私としては人間世界に居場所がないと言う衝撃的事実を突きつけられて、狂いそうなんだけど?」
「死体集めて実験している人間が狂ってないと思う事に疑問を感じるのだが?」
「じゃあ、私が狂っていたとして、さっき私が狂いそうとした表現したこの感覚は一体何?」
「それ、俺に聞いてるの? 知らねぇよ」
「思考の放棄は犯罪だよ?」
「マジもんの犯罪者の言葉は重みが違う」
「私、いつから犯罪者だったの?」
「死体をアイテムボックスに仕舞い始めた時から」
「私の半生は犯罪者だった?」
「だな」
「そんな事を言うと私の称号が犯罪者の王になっちゃう、やめてよ~」
ユリアさんが照れている。
「こんなに会話のし甲斐がない会話相手が有史以来いただろうか?」
「そんな歴史的レベルの問題?」
私は先に進むかを確認するため、会話に割り込む。
「かなり消耗しましたけど、進みますか?」
「そうだな。これほどの防衛をしてまで隠したかったものが気になるしな」
「さっき、この部屋の周囲を索敵してみたんですが、短い通路の先に、さらに巨大な部屋がありました」
「次が本命って事か」
「おそらく」
「じゃあ、休みもほどほどにして、次に行こう」
「はい」
「私、ただ働きよね、これ?」
ユリアさんが不満を漏らした。
「分かった、あとで銅貨5枚あげるから」
エルンストさんがユリアさんを宥めるように言う。
「それ、子供のお小遣いレベルだよね?」
「はいはい」
「私の扱いについて議論をすべきじゃない?」
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