第15話 ビュアイ遺跡

遺跡は人が2人横に並べるかどうかと言うほど狭い廊下がずっと続いていた。

しかも、日光が遮られていて、薄暗い。


「ここ何でこんなに狭いの?」


ユリアさんが文句を言う。


「さあな? もしかしたら、外部からの侵入に備えていたのかもな」


「確かに、守る側からすれば狭い通路の方が守りやすいですよね」


私がそう言うとエルンストさんが肯定する。


「ああ、その通りだ。だが、研究施設だったら逆の事も言える」


「逆ですか?」


「ああ、中の物を外に逃がさないとかな」


「なるほど」


「これほどの大掛かりな設備だ。ただの軍事拠点と言うよりも、研究施設か秘密の拠点とみる方が自然じゃないか?」


「確かに、このビュアイは前線じゃないですから、研究施設って言う話もあり得ますね」


「ああ。おっと、何かお出ましだぞ」


気配的には魔物ではない。

しかし、友好的な態度とは思えない。

なんせ通路を塞いでいるのだから。

ゴーレムだ。

手に持つ筒状の何かをこちらに向ける。

エルンストさんが咄嗟に結界を張り私たちを守る。


「火炎放射? こんな狭い通路で撃つなんて殺すつもりか!!」


ユリアさんがキレている。


「あいつは敵なんだから、そのつもりだろうな」


「どう倒しますか?」


私はエルンストさんに聞く。


「奴の火炎放射器がオーバーヒートするのを待とう。テレーゼ、魔力弾に貫通術式を付与して奴のコアを狙え」


「分かりました」


私はいつでも射撃できるように準備する。

火が止まった。


「今だ!」


エルンストさんは結界を解く。

私は引き金を引いた。

ゴーレムはコアを撃ち抜かれ、バラバラになった。

魔力の反応はない。

完全に機能を停止したようだ。


「この通路には対魔術障壁が施されている」


エルンストさんは壁に触れて言う。


「それ魔術が使えないって事ですか? でも、使えてましたよね?」


「対魔術結界や対魔術障壁の場合、ある程度の制限はできても、完全に魔術の発動を止めると言うのは不可能だ。それに今回の場合は壁や床に対する魔術の行使を禁じている」


「それは土木系の魔術による地形操作の防止ですか?」


「ああ、おそらく攻撃者によって施設が壊される事を恐れたのかもしれないな。もしかしたら、この先は魔力が使いづらくなるかもしれん」


「それって、大丈夫ですか?」


「大丈夫ではないが、この程度の術式ならば俺は大丈夫だ」


「私も大丈夫ね」


ユリアさんは誇らしげに言う。


「私は不安なので後ろにいます」


「何かあれば、ユリアを盾にすれば良い」


「ちょっと、私を何だと思ってるの? 勝手に肉壁にしないでよ」


「何で自分で自分を貶める表現をした? まあ、とりあえず先に進んでみよう」




さらに先に進むと、複数の部屋がある通路に辿り着いた。

ここでは妨害術式による魔術展開の妨害があり、魔術の発動が難しくなっていた。

少なくとも、魔導銃は使えない。

私は魔導銃を仕舞った。

通路の壁は先ほどと違い、どこも傷だらけで、急に保存状態が悪くなっていた。

そして、部屋の扉も無残に破壊された痕跡があり、中もかなり荒らされた痕跡があった。


「何者かに襲撃されたのか?」


エルンストさんが呟いた。


「魔王側の施設って事は勇者や人間による襲撃ですかね?」


「いや、伝承が正しければ勇者は前線に出てきた魔王を封印したのみで、それ以外の事はしていないはず」


勇者の時代は500年以上も前の話だ。

食い違ってもおかしくはないと思うのだが。


「エルンストさんは勇者の実物は見た事ないんですか?」


私はエルンストさんに質問する。


「俺もユリアも残念ながらな。流石にそこまで長生きじゃないさ」


一応、どの部屋も探したが、どこも似たようなものだ。

本のような形で一連の出来事が記してあることを期待して、いろいろ探したが、残ってはいなかった。

まあ、いくら日差しはなくとも、こんな戦場では紙も腐ってしまった可能性が高そうだ。


「残念ながら、ここには面白そうなものはないな。先に進もう」


「エルンスト? 後ろから何か来てるんだけど?」


ユリアさんがそう言うので、私とエルンストさんが背後を振り向くと、スタイリッシュなゴーレムが両手に刃物を付けて迫ってきていた。

妨害術式のせいで索敵が難しくて発見が遅れた。


「そのようだな」


エルンストさんはゴーレムに手を向ける。

すると、ゴーレムはに縦に両断された。

次の瞬間には両断されたゴーレムがさらに横に切断された。

妨害されているはずなのだが、それを感じさせない魔術だ。

温度の変化をもたらす魔術や重力系の魔術だと遺跡への被害が大きくなると判断して、風系の魔術を使ったのだろう。


「エルンストさんは妨害されてないんですか?」


「そんな訳ないだろ? 妨害術式を妨害術式で中和してるだけだ」


そんな高度な技はだけだ、では済ませられないと思うのですが。


「あの、さっきから散発的にゴーレムが襲撃してきてますけど、私たちの居場所って彼らに把握されてるんですかね?」


私がそう言うとエルンストさんは何かを考えているようだ。


「どうだろうな。少しゴーレムを調べてみるか」


エルンストさんはそう言うと、倒したゴーレムに近づき、ゴーレムだった物を触れる。

コアが破壊されているため、詳しい術式は分からないだろうが、残存する魔力から、その魔力が何に使われたのかを調べているのだろう。


「分からないな。通信したような痕跡もあるが、この程度なら味方のゴーレムに誤って攻撃しないように通信したのかもしれない」


「なるほど。もしかしてですよ。もし、この施設を管理している何かに通信しているのだとしたら、この施設はまだ生きてるって事ですよね?」


「そうなるな」


私たちは警戒心を強くしてこの通路を抜けた。

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