第14話 湖から帰還して
街に戻った私たちはトロール、キラーアリゲーターなどの魔石に、キラーアリゲーターの毛皮、牙、その肉などをギルドで売却した。
流石にアラクネの魔石は話題になりそうだったので売却は他の街でする事になった。
「今日も大漁ね」
「まあ、3分割されると、それほどの額にはならないがな」
「何で分割するの? 私に全部頂戴よ」
「お前、こっちが優しくしているからって、調子に乗るなよ。お前1人に全部やらせても良いんだからな?」
「それで、これからどうするの? なんか、ここを離れるみたいな雰囲気出してるけど?」
「珍しく、ユリアの頭が働いているな」
「何で私の頭は休んでいる前提なの?」
「働いていたら、そうはならないだろ」
「酷過ぎない? もうこれは訴えるしかない。東ラーヌ暫定政府に」
「弁護士費用が払えないからって、架空の組織を出して脅そうとするの控えめに言って、危険人物だからね。警察行こうか」
「何で架空だと思うの?」
「じゃあ、そんな組織が実在するのか調べるけど、無かったらお前の借金を倍にするからな」
「じゃあ、逆に存在していたら、借金をチャラにして」
「良いだろう」
その後、調査したが、そんな組織は存在していなかった。
ユリアさんがその後、あれは冗談だったのと泣きついたが、エルンストさんは聞く耳を持たず、ユリアさんの借金は倍になった。
「2人とも、行くぞ」
ギルドの休憩所で待っていた私とユリアさんをエルンストさんが呼ぶ。
「どこに?」
「お前、また聞いてなかったのか?」
「だって仕方ないじゃない。勇者として異世界転生して、その場にいた人を全員食べる夢を見たんだから」
「あの短時間でどうやったらそんな濃い夢を見るんだ。お前は良いから黙って付いて来い。と思ったけど、待って? 人間を食べたの?」
「お腹いっぱい」
「疑惑が確信になった瞬間だな」
私たちは商人の護衛としてビュアイと言う街に行く事になった。
サラスにエルンストさんが飽きたと言うのもあるが、一定期間以上とどまる事で魔術協会からの追手に場所を特定される恐れがあるので、移動するとの事だった。
移動期間は何も収入がなくなるので、ついでに護衛でもしてお金を稼げるのなら一石二鳥と言う事で護衛をする事にしたらしい。
単調な風景が続いている。
私たちは馬車の荷台に乗せてもらえたので、歩く必要はないが、荷物が大量の剣と言う事もあり、非常にゆっくりで、はっきり言って退屈だ。
「あー。実験動物でも来ないかな」
ユリアさんが呟く。
「それが人間の事を言っていないで欲しいと俺は願っている」
油断した頃にゴブリンのような低級の魔物が襲撃してくるが、どれも私の狙撃で何とかなっている。
そのせいで、ユリアさんの退屈さは既に限界値まで到達していた。
馬車に矢が近づく。
矢は馬車に届く前に、凍りバラバラになった。
「おやつが来たあああぁぁぁぁ!!」
ユリアさんが何を言っているのかは分からないが、盗賊の奇襲だ。
ユリアさんはアイテムボックスから鉄槌を取り出し、盗賊のもとに駆けた。
「狂人が来るぞ」
盗賊も一瞬でユリアさんの本質を見抜けたようだ。
私は索敵術式を展開して盗賊の数と配置を確認する。
盗賊は8名。
2名ずつ、包囲するように展開しているな。
だが、この程度の数だとユリアさんの言っていた通りおやつ程度にしかならないだろう。
ほら、言っているそばから、ユリアさんが盗賊をボコボコにしている。
早速2人が無力化された。
他の6人もユリアさんを止めようと、ユリアさんを包囲した。
「囲んだからなんだって言うの?」
ユリアさんは重い鉄槌を持ったまま、跳躍して包囲を抜け出し、盗賊を背後から殴った。
そして、一人ずつ一撃で鉄槌で殴殺し、盗賊を制圧した。
「先に行ってて、死体はこちらで処理するから」
どう考えても、私とエルンストさん以外に死体を収納する様子を見られたくないからだな。
「御者、先に進もう」
「あちらの方がいくら強いと言っても、街道に1人では……」
「大丈夫だ。早く進んでくれ」
「ですが……」
「早くしろ」
「わ、分かりました!」
御者がエルンストさんに怯えて、慌てて馬車を動かし始めた。
10分ほど経った後、ユリアさんは私たちに追いついた。
ユリアさんの身体強化は凄まじいらしい。
「いや~、助かりましたよ」
ビュアイに着いた私たちは商人からお礼を言われていた。
商人の対応はエルンストさんに任せて、私とユリアさんは宿の手配を済ませて、この場に戻っていると驚いた事にまだ、商人の対応をしていた。
「仕事ですから」
「これは報酬です」
商人はエルンストさんに報酬の入った袋を手渡す。
「確かに受け取りました。また、宜しくお願いします」
「ええ、是非」
エルンストさんは商人に一礼して、私たちのもとに歩いて来た。
「宿の手配はできたか?」
「はい。問題なく。エルンストさん、ここに来た目的は何ですか?」
私がそう言うとエルンストさんは驚いた顔をした。
「おや、これは驚いた。気付いていたのか? テレーゼは優しい顔をしていて、その実かなり洞察力があるな」
「エルンストさんの行動に理由がない事はほとんどあり得ないですからね」
「さて、それはどうかな?」
「まあ、エルンストの性格の悪さは歴史が保証しているからね」
「ユリア、俺の性格の悪さを壮大な話にするな。そもそも、俺は性格が悪くない。俺がビュアイに来たのは勇者の時代の遺跡だ。そうビュアイ遺跡」
「ビュアイ遺跡?」
「あー、エルンストは歴史大好きっ子だもんね」
「気持ち悪い言い方するな。あだ名を腐肉にするぞ」
「ちょっと、私、別に腐ってないのだけど? もちろん、中身も腐ってないよ」
「世の中で一番どうでも良い情報だな」
「そこまでじゃないよね? 少なくとも、世界の3分の2はこの情報に国家予算を掛けても良いと思ってるはずなの」
「お前の中の世界は地獄みたいな環境なのは分かった」
「悪口しか返って来ない事に対する抗議をしたいのですが?」
「とりあえず、ビュアイ遺跡に行くぞ」
「えー! お駄賃ないのに、エルンストに協力しないといけないの!!」
「なら、お前だけ置いていく。テレーゼは俺から給料をもらってるからな。良いな?」
「はい。お付き合いしますよ」
「え? 私、1人で置いてくの? 暴れるよ?」
「お前は何をしたい?」
「私を連れて行ってよ」
「短時間で主張を矛盾させるのを本当にやめて欲しいのだが?」
「分かったから連れて行ってよ」
「はい、はい」
「それでビュアイ遺跡って何ですか?」
話がかなりそれているので、私が軌道修正する。
「ビュアイ遺跡は勇者の時代に作られた謎の施設だ。誰が、何のために、何をしたのかすら、分かっていない。唯一分かっているのは遺跡が存在していると言う事実だけ」
「それは何とも不思議な話ですね。存在が分かっているのに、それが存在した理由だけが分からないなんて」
「ああ、実に気になるだろ?」
「でも、勇者の時代って伝承でしか歴史が残っていないほど、古い時代ですよね? なぜ、そんな遺跡が消えずに残って……」
「勇者の時代の遺跡はそのほとんどは人間が近づかない、もしくは立ち入れない」
「それはどう言う意味ですか?」
「簡単だ。遺跡に何らかの仕掛けがあるんだろう。そして、そのおかげで遺跡は人間による劣化が非常に少ない。また、魔力濃度が高すぎるせいで植物による干渉も少ない」
「なるほど。しかも、かなり警戒しないといけないんですね」
「ああ。冒険者による調査も何回かあったらしいが、いずれも生存者はいない。正確には全員行方不明だ」
「遺跡で消えたんですね」
「ああ。そう言う訳だから、遠足と勘違いして銅貨3枚までのおやつを買おうとか考えるなよ」
「私、子供じゃないのだけど? せめて、大銅貨3枚まででしょ」
「そういう問題じゃないから。だいたい、子供はそんなに莫大な借金を抱えてないだろ」
「うわ、これは傷付いた。心の傷の慰謝料で借金をチャラにするなら。治りそう」
「別に治って欲しい訳じゃないから、そのままで良いよ」
「さらに傷付いたんですけど?」
「ほら、何でも良いから行くぞ」
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