第13話 サラス湖の中心部

サラス湖は湖の中に魔力噴出孔があるらしい。

そのせいか、湖中の魔力濃度が凄まじく、噴出孔の周りには魔物すら生存しない。


「確かに、これは凄い魔力濃度ね。だけど、湖のおかげで空気中の魔力濃度はそれほど高くない。通りで噴出孔がある割に魔物が大したことがないのね」


「ユリアさん、湖に近づきすぎると」


湖面から怪魚が飛び出した。

目指す先はユリアさんだ。

ユリアさんは飛び退き、怪魚の口を回避する。


「あっぶな!」


「だから、あまり近づかないでくださいって言ったんですよ」


怪魚は身を捩らせて、湖の中に戻った。

背後から魔物の気配?

エルンストさんが私たちを結界で覆った。

すると、結界に巨大な鞭が叩きつけられた。

アラクネだ。

ユリアさんは鉄槌を構えた。

私も銃を構える。


「エルンスト、行くよ!」


「どうぞ」


エルンストさんが結界を解くと、ユリアさんがアラクネに接近した。

アラクネはユリアさんを近づけまいと、2本の鞭により波状攻撃を仕掛けたが、どれも避けられている。

ユリアさんの片足が切断された。

バランスが崩れるかと思いきや、ユリアさんは残る片足に力を入れ、私たちの元まで飛び退いた。


「痛覚を遮断しておいて良かった」


「お前、人間をやめてるな。修復は?」


「大丈夫」


ユリアさんは自分の足に治癒術式を施し、足を再生させた。

何回か踏ん張ったりして、足がしっかりと再生されたか確認している。


「行けるか?」


「大丈夫そう」


「テレーゼ、アラクネについての情報は?」


「アラクネの発する糸は火に弱いです。焼き払う事をお勧めします」


「分かった。ユリア、俺がサポートする。突っ込めるか?」


「任せて、だけど後ろがヤバいんじゃない?」


湖の中からキラーアリゲーターの群れが私たちの様子を窺っている。

お互いに睨み合っていると、キラーアリゲーターが仕掛けてきた。

私たちは散開してキラーアリゲーターの突撃を回避した。

キラーアリゲーターの数は5。

ユリアさんがキラーアリゲーターの頭頂部に立ち、鉄槌を振り下ろした。

すると、キラーアリゲーターの頭が大きく陥没し、動きが止まった。

ユリアさんが死んだキラーアリゲーターに手を添え、魔術を施す。

すると、死んだはずのキラーアリゲーターが再び動き始めた。

そして、仲間に嚙みついた。

動けなくなっている所を私は雷撃術式を付与した魔力弾で狙撃する。

高電圧により、死んだようだ。背後からアラクネの糸が迫って来た。

私は火炎術式を展開して糸を焼く。

エルンストさんはキラーアリゲーター2体を石の槍で尻尾を指し、地面に釘付けにして、地面から巨大な杭を生やして脳を貫き倒していた。

残りの1体もユリアさんが殴殺していた。

キラーアリゲーターとの戦闘中に何度もアラクネが攻撃を仕掛けていたが、エルンストさんが魔術で妨害してくれていたようだ。

ユリアさんがキラーアリゲーターの死骸すべてに術式を施し、支配下にいおいたようだ。

キラーアリゲーター2体がアラクネに突撃する。

アラクネは上に跳ぶと同時に、大量の糸を放出し、キラーアリゲーターを切り刻む。


「火が使えないと厄介だな。俺とテレーゼは使えるが、ユリアは?」


「火は初歩ぐらいしか使えないね。火葬なんてしないもん」


「お前の魔術の習得の動機は死体関連以外ないのか?」


「ちょっと、私の動機よりも、私の可愛いペットがやられた事の方が問題なんだけど?」


「可愛いについては要議論だが……」


「可愛いよ! 死体は皆お友達だもん」


「まあ、ユリアのお友達は死体しかいないもんな」


「え? その反応酷くない? いや、絶対に酷いよね?」


「じゃあ、1人でもお友達を上げてみろよ」


「エルンストとテレーゼ、あとは……」


「俺は違うよ? テレーゼもお前に付き合わされているだけだから」


「え? そうなの?」


ユリアさんがこちらを凝視する。


「え……と、あの……」


「酷い! この辱め、どう晴らしてやろうか。よし、奴にぶつけよう」


「とんだとばっちりじゃん。アラクネが可哀想」


「敵に同情する暇があるなら、何とかしてよ!」


「はいはい。サポートしてやるから、ぶつけてやりなよ」


ユリアさんが駆け出した。

アラクネは糸と鞭を使い妨害しようとするが、エルンストさんがいユリアさんの周囲を結界で覆い火に包む事でユリアさんを守る。

アラクネがユリアさんを止めるために動こうとしている。

私には座標攻撃する技術がない。

仕方ないので雷撃術式を魔力弾に付与して放つ。

アラクネの近くに着弾した弾は電流を周囲に流す。

それにより、アラクネは痺れて動けないでいる。

ユリアさんを包んでいた火と結界が消失した。

アラクネに鉄槌が振り下ろされた。

咄嗟に防御したアラクネだったが、両腕と下半身の足の殆どを失い、動く事すらままならない状態だ。

アラクネは糸を使って脱出を試みるが、エルンストさんがアラクネを結界で包み、結界の内部を業火で焼き尽くす。

体の心臓付近以外が燃え尽きた所で火が止まった。

エルンストさんがアラクネだった物に近づき魔石を強引に魔石を回収する。

アラクネだった物は完全に死んだ。


「魔石の回収は完了だ。他の素材は焼却してしまったのは残念だが、まあ、これでひとまずは完了だな」


ギルドが湖の近くの情報が少ないのは、冒険者がアラクネによって狩られていたのだろう。

冒険者の物と見られる装備の残骸が周りに散らばっている。

アラクネが出た以上、他のワイバーン級の魔物が出現する可能性は低くない。


「帰還で良いですね?」


私はエルンストさんに確認するように言う。


「ああ、それで構わない」


私たちはすぐに街まで帰還した。

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