第12話 サラス湖2

ジャイアントベア討伐後は探索と威力偵察をメインにしつつ、戻りながら魔物を狩って帰還しようとしたのだが……。


「もっと奥まで行きましょ?」


「今日はここに来て初日だ。奥になら、明日に行けば良いだろ」


「嫌よ! 私はもう帰りたいの。さっさと帰りたいの。だから、もっと強い魔物をガンガン倒して、魔石を売りまくって帰るの。分かった? だから、奥に行くの」


「お前、引きこもりマスターかよ」


「ちょっと、その名前ダサ過ぎない? どうせ呼ぶなら、インドアの女神さまと呼んで?」


「俺はどっちでも良いけど、ダサさは50歩100歩だと思うが? まあ、いいや。インドアの女神。さっさと帰るぞ」


「私はユリアって名前があるの。何、そのふざけたあだ名。殺すよ?」


「その声は要らないようだな。声帯を売ろうか?」


「臓器売人エルンスト」


「変なあだ名をつけるな。良いから帰るぞ」


「えー! 私のお金!!」


ユリアさんはエルンストさんに引きずられて街まで帰った。




ジャイアントベアを討伐した次の日。

私たちはユリアさんの要望でサラス湖の中心部。

つまり、オーガ級の魔物の発生地帯に進む事にした。


「トロールです!」


私がそう言うとエルンストさんもユリアさんも警戒を強くした。


「そのようだな。それにしてもデカい」


「はい。図体はデカく強力な攻撃を繰り出しますが、スピードはありません。攻撃をしっかりとよければ脅威ではありません」


トロールが拳を振り上げている。


「パンチが来ます!」


「ああ」


私とエルンストさんは飛び退き回避をする。


「あ、話聞いてなかったわ。もう一度お願い」


「ユリアさん、避けて!!」


「え?」


トロールのパンチがユリアさんに直撃した。

私は結界を前面に展開して衝撃波に備える。

衝撃波が収まり、周囲の状況が確認できるようになった。

トロールが再び拳を構えた。


「テレーゼ! ユリアの安否を確認しろ!」


「はい!」


エルンストさんがトロールの拳を爆破した。

肉片が森に散乱する。

トロールは爆発の衝撃により、体勢が崩れそのまま転倒した。


「ユリアさん! 無事なら返事を!!」


「はい。はい。私は無事ですよ~」


ユリアさんは膝から下が地面に埋まっているようだ。


「抜け出せますか?」


「もちろん」


ユリアさんはそう言うと、普通に抜け出しストレッチを始めた。


「あと少し結界の展開と強化術式が遅れてたら、ペラペラになる所だった。危ない、危ない」


「お前、そんな可愛い世界観で生きてたか?」


エルンストさんが呟く。


「もう、絶対に許さない。鉄槌で叩いて、肉をぐちゃぐちゃにして体液をまき散らさせてやる!!」


「何で現実に戻ってきてしまった?」


ユリアさんは鉄槌をアイテムボックスから取り出し、足に強化を重点的に施し、踏み込む。

起き上がったトロールの頭上にユリアさんが現れ、鉄槌でトロールの頭部の側面を強打する。

トロールは転倒した。

地面に手を付き起き上がろうとするトロールだが、無事な腕の肘から下を鉄槌で吹き飛ばされた。

支柱を失った事により、トロールの胴体は再び地面に落ちた。

そして、ユリアさんはトロールの頭を鉄槌で潰した。

トロールの頭の残骸が潰された衝撃で私に向かって来た。

結界を張り、肉片から身を守る。


「えげつない殺し方ですね」


「ユリアからは鉄槌も取り上げた方が良いかもしれないな」


「それだと、ユリアさんの強みが無くなりますよ?」


「テレーゼさん? それ、酷くない? 私の強み、この鉄槌だけなの?」


「他に何ができるんですか?」


「魔術とか魔術とか牙とか爪とか、あと魔術とか」


「おい、ユリア。野性の解放は認めてないぞ」


「とりあえず、私は偉大なの。だからもっと敬って」


「エルンストさん、ここから先はキラーアリゲーターが出没する範囲です。堅い鱗と噛みつきが脅威です」


「留意しよう」


「テレーゼの私に対する扱いが雑になり過ぎている件について、話し合いたいのだけど?」


「そんな些末な事を話している暇はない。ここは魔物が発生する場所だぞ。気を抜くな」


「ちょっと、酷くない? ねえ、酷いよね?」




キラーアリゲーター木々を薙ぎ倒しながら、接近してくる。

是非とも、キラーアリゲーターには道と言う概念を学んで欲しいものだ。


「エルンストさん!!」


「任された」


エルンストさんがそう言うと、キラーアリゲーターの背中から石柱が生えた。

そして、キラーアリゲーターの動きも止まった。


「的がでかいと当てやすくて助かるな」


「個人的には獲物は小さい方がありがたいです。銃の効果が変わってきますからね」


私は貫通術式を付与した魔力弾を何発かキラーアリゲーターの頭に撃ち込み仕留める。


「私、必要なかったね」


「接近戦に持ち込まれる事自体が、ある意味の敗北ですよね。私たちにとっては」


「ああ。ユリアが働かないのはムカつくが、魔物が接近するのは極力避けたいな」


索敵術式に何かが引っ掛かる。

魔物が接近?

この反応はオーガだ。

しかも4体も。


「ユリア、鉄槌を構えろ」


「接近戦は任せて」


「テレーゼ、可能な限り削るぞ」


「分かりました」


単純な狙撃では避けられるか、武器で弾かれるか。

ならば、弾に工夫をしよう。

オーガに銃口を向け、魔力弾に雷撃術式を付与し撃つ。

放たれた弾丸はオーガに一直線に飛ぶ。

弾丸をオーガは剣で弾こうとするが、弾丸と剣が触れた瞬間に弾から雷撃が放たれる。

弾丸を弾いたオーガは雷撃により即死。

後ろにいた2体は雷撃によって痺れて動けないでいる。

そこをエルンストさんが地面から石の槍を発生させて串刺しにする。

1体はユリアさんに任せよう。

オーガがユリアさんに剣を振り下ろす。

鉄槌で剣を弾き、鉄槌を振り上げオーガを潰した。

目視で敵がいない事を確認し、索敵術式で追加確認する。


「敵はいないようですね」


「ああ。魔石と素材を回収したら、先に進むぞ。今日の予定はサラス湖を肉眼で見るまでだからな」


「じゃあ、ワイバーンクラスとの戦闘も覚悟しないといけない感じ?」


ユリアさんが言う。


「かもな。だが、そんな簡単にワイバーン級なんて現れないだろ?」


「どうでしょうか? 湖周辺は魔力濃度がかなり高いので、ほとんどの冒険者は近づかないらしいとか。情報としてはあまり……」


ギルドでも湖周辺はかなりの注意が必要と掲示されていた。

湖に近づくと死亡率が跳ね上がる事から、かなり上位の魔物が生息している可能性が高いとか。


「行ってからのお楽しみって訳だな」

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