第11話 サラスの湖

私たちはサラスの検問を抜け、街中に入った。

この街は中級難易度の魔物の発生源があるため、冒険者が集まりやすい。

また、魔物の素材を目当てにする商人や、冒険者相手の商売をする商人が多くいるため、商業も活発である。


「じゃあ、俺はとりあえず宿の確保をしてくるから」


エルンストさんが宿の手配をしてくれるなら、私はその間、周辺の地理と魔物について調べておこう。


「私は冒険者ギルドで調べたい事があるので、ギルドにいますね」


「じゃあ、1時間後に冒険者ギルドで集合で良いな?」


「はい。私はそれで良いですよ」


「ユリアもそれで良いな?」


「うん。すれ違う通行人の財布を拝借するには十分な時間だしね」


「絶対にするなよ」


「何で? 空き時間にする事と言ったら、強盗とスリでしょ?」


「隙間時間に犯罪を犯そうとするな」


「ちぇ、分かったよ。大人しく散策でもしてるよ」


「それで良い。もし、捕まったら釈放後に半殺しな」


「何でよ! 痛めつけないでサクッと殺して!」


「お前の場合、それだと罰にならないだろ」


「分かった。大人しくしてます。大人しくしてれば良いんでしょ」


私たちは解散した。

私は1時間を有効に使うため、足早にギルドに向かった。




エルンストさんと私はユリアさんを待っている。


「あれ? 2人とも早いね」


ユリアさんがゆっくりと歩いて来た。


「片腕と片足、どっちか選んでいいよ」


エルンストさんが言う。


「え? 怖っ。急に何?」


「お前、1時間遅れてきて何のお咎めもなしって訳がないだろ?」


「え? 私、そんなに遅れてないと思うよ。だって、いつも誤差は30分ぐらいで済ませてるから」


「30分は誤差じゃないのだが? だいたい、1時間も遅刻して何してるんだよ」


「ボーリング調査」


「本当に何してんの? まあ、いいや。さっさと魔物を狩りに行こう。ちなみに、ユリア。お前のノルマはオーク100体な」


「え? それ、絶対に無理な奴じゃない?」


「できなかったら、全身を動かないように拘束して、3日間真っ白な部屋に閉じ込めるから」


「それ、心が死ぬ奴だよね?」


「大丈夫だ。肉体には何の問題はない」


「だから、心が死ぬ奴だよね?」


「よし、行くぞ」


「私の話を聞いて?」


「テレーゼ、ここの魔物はどんな感じだ?」


「サラス湖に高濃度の魔力だまりがあるようで、サラス湖周辺にオーガ級を主軸に、まれにワイバーンのような非常に強力な魔物が現れるようです。また、湖が近くにあるので、バケガニが出たり、巨大な魚が現れたりするそうです。特に巨大魚の場合は陸にまで上がってきて湖に引きずる場合もあるそうです」


「ホラーじゃん」


ユリアさんが言う。


「まあ、そこまで追ってこないので、逃げに徹すれば大丈夫なはずです」


「うだうだ言ってもしょうがない。とりあえず、行くぞ」


エルンストさんがそう言って、歩き始めた。

私とユリアさんはエルンストさんの後ろを付いていく。




リザードマンが剣を振り下ろす。

私は結界で剣を受け流し、リザードマンの頭に弾を撃ち込む。

リザードマンは素早いため、接近戦に持ち込まれがちだ。

左から矢が、間に合わない。

エルンストさんが結界で矢を弾く。


「テレーゼ、索敵を怠るな」


エルンストさんがリザードマンを魔術で切断しながら言った。


「はい!」


私は接近を試みたリザードマン射殺し、返事をした。

リザードマンはスピードもさることながら、鱗による防御力が高い。

そのため、発射する魔力弾に貫通術式を付与している。


「あ、潰れちゃった」


ユリアさんはリザードマンを鉄槌で押しつぶしたようだ。

地面には惨状が広がっている。


「お前、その武器を持ってから、ますます危険人物になってない?」


エルンストさんもドン引きしている。


「魔物を殺して楽しんでいるだけでしょ? どこが危険人物なの?」


「そういう所なのだが? これ以上、変な事するなら強化術式を使えないようにするからね」


「そしたら、私、野生を解放するしかないじゃない」


「野生を解放って何?」


「爪と牙を作って、バカ突するの」


「分かった、強化術式の制限はしないから、大人しくしていてくれ」


エルンストさんは切実そうに言う。


「お二人とも、リザードマンの素材と魔石を回収して、先に進みましょう」


私がそう言うとエルンストさんは近くに落ちていた魔石を拾った。


「そうだな」


「ねえ? あっちから金の匂いがしない?」


ユリアさんが恐ろしい事を言っている。


「魔物だな。もしかしてだが、生きている魔物を金って言ってるの? さすがに、やめて差し上げろ。と言うか、すでに野生を解放してない?」


「エルンスト、野性を解放って、謎の概念を持ち出さないでよ、アハハハハハハハ!! お腹痛い」


「お前が言い始めた事だろ。あれは……」


「エルンストさん、ジャイアントベアです!」


パワーもそうだが、巨体故に弾丸による攻撃の効果が薄い。


「そのようだな。気持ち強めに魔術を撃つか」


「熊鍋?」


「お前、魔物を肉か金としか見えていないのか?」


「違うよ。肉であり、金だとみているんだよ」


「俺はそう言ったよな? 話聞いてた?」


「聞いてたよ。途中から」


「途中ってどこ?」


「のか? ってとこから」


「それは聞いてないって言うんだよ。幼児教育からやり直そうね」


「私を何歳だと思ってるの?」


私はジャイアントベアの目を狙い撃つ。

片目を潰せた。

ジャイアントベアは片手で目を押さえ、叫んでいる。

動きが止まったジャイアントベアに石の槍が下から襲う。

しかし、どれも致命打になっていない。


「あの熊、硬いな」


ジャイアントベアが再び動き始め、エルンストさんを爪が襲う。


「エルンストさん!」


エルンストさんはジャイアントベアの間合いに入った?

なぜ、わざわざ敵に接近を?

エルンストさんはジャイアントベアに触れるか触れないかまで接近して、腹部に掌底を添える。

すると突然ジャイアントベアの腹部に穴が開いた。

エルンストさんはすぐにジャイアントベアから離れた。


「エルンストさん、何をしたんですか?」


「空間操作の応用だよ。それより、まだ終わっていない」


ジャイアントベアが自らの空いた腹を抱え威嚇する。

私は銃を構え、残りの目を潰そうと試みるが、他の場所に当たってしまった。

ジャイアントベアの手が私に向かって伸びる。

魔術の展開を準備するが、その必要はなかったようだ。

鉄槌が熊の手の骨を砕いた。

ジャイアントベアは無事な手をユリアさんに振り下ろす。

だが、無事な腕も鉄槌により砕かれた。

そして、脳天に鉄槌を振り下ろす。


「あれ? まだ死んでない? まさか、脳筋?」


「あれは比喩表現だからな。本当に脳まで筋肉でできている生物はいないからね?」


エルンストさんはそう言いながら、魔術で作った石の槍でジャイアントベアの心臓と脳を突き刺す。


「コイツの肉って売れる?」


「はい。売れると思います。ただ、需要はあまりないので、安いですが」


「じゃあ、エルンストのアイテムボックスがあるし、肉も含めて回収しちゃおう」


私たちはジャイアントベアとリザードマンの魔石と素材を回収して先に進んだ。

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