第10話 招かれざる客

ユリアさんの索敵能力の高さのおかげで森の中にある盗賊たちのアジトが発見できた。

私とユリアさんは茂みからアジトを窺う。

見た目は小さな村のようだが、見たところ男しかいない。

おそらく、全員戦闘員だろう。ユリアさんはエルンストさんから単発の方の銃と鉄槌を渡されている。

私はユリアさんに小声で話し掛ける。


「どうします?」


「できる限り遠距離で、位置がバレたら私がやる」


「わかりました」


私は見張り台にいる男の頭を撃ち抜く。

できるだけ、1人で動いている盗賊を攻撃する。


「おい! 見張りがやられてるぞ」


気付きやがった。

私は無差別に次々とヘッドショットを決める。


「あっちからだ!」


方向までバレたか。

5人ほど殺れたはず、残りは……20ぐらいか?


「ユリアさん」


「十分な仕事ね。あとは、私のサポートをお願い」


「分かりました」


私は近づく盗賊たちを次々と撃つが、辿り着く事を完全には阻止できなかった。

ユリアさんが鉄槌を振り回し、盗賊を殴打している。

ユリアさんの鉄槌から逃れた盗賊がこちらに来る。

私は盗賊たちの足元の地形を操作して窪地を作る。

すると、私に向かって来た盗賊らは一斉に転ぶ。

その隙に、次々と頭を打ち、的確に数を減らす。

処理が間に合わなかった盗賊が起き上がり剣を振り上げてきた。

私は雷撃術式を展開して男に電撃を浴びせる。

男は小刻みに震え、倒れた。


「そっちも終わった?」


ユリアさんの周りで男らがのされている。


「はい。あとは、敵のアジトですね」


私たちは敵のアジトの中に入った。


「あ、あの家、人がいる」


「どこら辺ですか?」


「扉の横」


私は壁越しに何発か射撃する。


「どうですか?」


「容赦ないのね。うん、そのお陰で大丈夫そう。一応確認するね」


ユリアさんはドアを鉄槌で破壊する。


「お邪魔します」


「お邪魔する態度云々の前に、せめて普通に入って欲しかった」


射殺体が1体いた。

他は特に問題なさそうだ。

ユリアさんが家の中を物色している。


「チッ、しけた家だな」


ユリアさんはそう言いながら、射殺体を収納した。

もはや、どっちが盗賊なのだか分からない。


「あっちから金の匂いがする」


エルンストさん、助けて。

私の手には負えません。

ユリアさんは物置小屋の前に立ち、先ほどと同じように鉄槌で扉を破壊する。

中には小さい壺に金貨が入っていた。


「凄い嗅覚ですね」


「いや、あの匂い方はこんな量じゃ足りない。とりあえず、これは拝借と」


壺をアイテムボックスに収納する。


「下か!」


ユリアさんは鉄槌の柄の部分で地面を強く叩く。

すると床が割れた。

床下収納のようになっていたらしい。

ユリアさんは穴を広げ、中の物を次々と取り出す。

中からは金塊や銀貨がザクザク出てきた。

おそらく、盗品を売ったり、誘拐した人を売りさばいて稼いだ金なのだろう。


「たんまりあんじゃん。これだけあれば、私、働かなくて良くね?」


「とりあえず、エルンストさんと合流しましょう」


「それもそうね」





私たちが馬車に戻るとエルンストさんは結界を馬車の周囲に展開して待機していたようだ。

魔獣が解体された跡もあるが、おそらく問題なかったのだろう。


「どうだった?」


「大漁よ、大漁」


「そうか。なら、ようやく俺も初任給を貰えるわけだな」


数十年以上は助手として働いてるはずなのに初任給を貰った事がないって、この2人は一体どういう関係性なんだ?


「は? 私のお金は私だけの物なの。奪うなんて許さないから」


「そう言う事は給料を払ってから言おうね」


「でも、今回は大漁だし、給料払ってもプラスじゃね?」


そう言って、集計したが全く足りないようだった。


「と言う事で、これは没収します」


「そんなぁぁぁ!!」


「まあ、良かったじゃん。借金が減って」


「全然良くない! 私の金を返せ!」


「返済する側の人間が気安く返せとか使うのやめようね。そろそろ暗くなったから、もう少し行った先で野営しよう」


移動するとエルンストさんがアイテムボックスからテントを取り出し、組み立てる。

私は枝を集めて、火を着けている。


「ユリア、食事の方準備できるか?」


「私のアイテムボックスからだと人肉と無機物しか出てこないよ?」


「絶対に取り出すな。食材は俺が用意する」


「ねえ?」


「おい! 取り出すなって言っただろ!!」


「まだ、取り出してないけど、なんか変なのがいる。ほら、あそこ」


「あ?」


エルンストさんがユリアさんの指している場所を見る。


「確かに、何かいるな。あれは……」


「うわっ、嫌なの見たよ。あれ、絶対に魔術師じゃん」


「バレちゃいましたか」


ヘラヘラしているうえに、こちらを見下している男が現れた。

認識阻害の術式を使っていたようだ。

それにしても、あの男、見ているだけでムカつくな。

たまに魔術師だと言うだけで選民意識を持っている奴がいるが、あれはその手の人間だろう。


「あんたが、領域の支配者と戦場の乞食か?」


「次、その恥ずかしい呼び方をしたら、地獄に転移させるからな」


エルンストさんの殺気は本物だ。


「ほらね? 私、戦場の乞食って敬われているでしょ?」


「は? あんた本気で言ってる訳? どう考えても悪口じゃん。その手癖の悪さが原因の」


ヘラヘラ男があざ笑うように言う。


「え? マジで? 私そんなに窃盗の技術を褒められてるの?」


「ちょっと、黙っていようね。で、要件は何だ?」


エルンストさんが男に言う。


「あー、会長がお前らも会合に参加しろだって」


「俺は断るから」


「私も嫌だよ」


エルンストさんとユリアさんは迷うことなく断った。


「は? お前らみたいな底辺魔術師が何偉そうに断ってんだよ。ありがたk」


エルンストさんはユリアさんに銃を渡している。

しかも、自動小銃の方の。

ユリアさんは銃口を男に向けた。


「おいおい、そんなおもちゃを向けてどうする気だ?」


男は市中に流れている銃を連想して言っているのだろう。

だが、ユリアさんが持っているのは魔改造された凶悪な奴だ。

ユリアさんは躊躇う事なく、引き金を引いた。

男は偉そうにしていただけあり、結界の展開速度はかなり早かったが、かなりペラペラの結界だ。

しかも、結界の厚みにムラがあり、口ほどにない事が窺える。

男は銃の弾を結界が弾いた事に満足げ表情を浮かべたが、すぐに焦りの表情に変わる。


「は? おい! 何でそれ、連射できんだよ!」


男は予想以上の攻撃に今更になって焦っている。

しかし、ユリアさんは気にすることなく、弾を撃ち続けている。

男は両手を前に突き出し、結界の維持に努めている。

結界の着弾点にひびが生える。

男は全力で結界に魔力を注いでいるようだが、修復が間に合っていない。

必死過ぎて、喋る余裕すらないようだ。

その均衡もついには破れ、男はユリアさんにより蜂の巣にされた。

男は血だらけになり地面に倒れた。


「あれ? 誰がこんな酷い事を」


ユリアさんが驚いている。


「お願いだから、この短時間で記憶を失うな」


エルンストさんが言う。


「私、引き金を引いただけなのに」


「覚えてんじゃねーか!!」


ユリアさんは男に近づき、胸と頭に1発ずつ射撃する。


「ユリアさん?」


「確殺しといた。生きているとアイテムボックスに入れる時に大変だからね」


私の問いにユリアさんはそう答えながら、遺体をアイテムボックスに収納する。


「良かったんですか? 協会の人を殺しちゃって」


私はエルンストさんに聞く。


「別に問題ないだろ。あいつらの人選ミスが招いた結果だし」


返って来たのは、想定外の返答だった。

確かに、エルンストさんもユリアさんに銃を渡すと言う明らかな協力姿勢が見えていたが、まさか殺害まで考えていたと言うのは驚きだ。


「よし、食事にするぞ」


エルンストさんが空気を切り替えるように言う。


「そうだよ、早くご飯にしよ。人を撃ち殺したから、お腹減っちゃって」


ユリアさんが言う。


「その理由付けは余計な誤解を招くからやめておけ」


「どこが?」


「逆に何が分からないのかを教えて欲しいのだが?」


私たちは焚火を囲んで賑やかな夕食を迎えた。

私に配慮してくれたのかは分からないが、いつもより賑やかな夕食だった。

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