第9話 襲撃
私たちは馬車でサラスと言う街に向かっている。
サラスは中規模な都市でギルドもそこそこ大きいらしい。
本当はエルンストさんが近くまで転移してくれる予定だったのだが、ユリアさんの希望で馬車で向かう事になった。
御者はエルンストさんとユリアさんが交代でやる事になったのだが、運転が荒すぎてエルンストさんが御者をする事になった。
「もう、お前の言う事は何も聞かん」
「エルンストは私の助手でしょ? 言う事聞かない助手とか要らないんだけど?」
「じゃあ、この馬車から降りろ」
「やだ、エルンストさんったら、冗談じゃないですか~」
「馬車で轢かれるのと舌を引き抜くの、選んでいいよ」
「え?」
急にエルンストさんが結界を馬車を囲うように張る。
茂みから撃たれた矢が馬車に降り注いだが、結界に弾かれ、すべて地面に落ちた。
盗賊たちが茂みから出てきて、私たちを包囲した。
「盗賊共だ」
「ようやくね。待ちくたびれていたの!」
ユリアさんの反応がおかしい。
ユリアさんは嬉々として馬車を降りた。
「エルンスト、鉄槌!」
ユリアさんが武器を持つと何をしでかすか分からないと言う事で、ユリアさんの装備はエルンストさんがすべて預かっている。
「ユリアが馬車にこだわったのはそういう理由だったか。チッ、癪だが、鉄槌は渡してやる」
ユリアさんが鉄槌を受け取った事により、緊張感が増した。
「どうも」
「テレーゼ、ユリアのサポートを」
「分かりました」
「野郎共、かかれ!」
髭面の大男が叫ぶと一斉に盗賊らが襲って来た。
私は馬車の窓を開け、銃口を差し込む。
ユリアさんは近づく盗賊たちの頭を鉄槌で次ぐ次と殴り飛ばしている。
あまりにも簡単そうにやっているので、盗賊の方に同情してしまいそうだ。
私は茂みからユリアさんを狙う弓兵を狙撃する。
私とユリアさんの手が及ばない所はエルンストさんが結界で攻撃を弾いたり、重力で押しつぶしたりしている。
「おい! 退くぞ!」
リーダーらしき男が退却するように命令した。
私がリーダーの足を撃ち抜こうとすると、射線上にユリアさんが入って来たので、引き金を引くのをやめた。
ユリアさんはリーダーの側面に移動して、足を払い転ばせる。
そして、魔術で眠らせた。
他の逃げた盗賊に関してはエルンストさんが結界で拘束して、魔力弾で撃っていた。
銃を使わないで正確に射撃するのは難しいはずなのだが、流石エルンストさんだ。
盗賊らはリーダー格の男以外は全員死亡した。
「エルンストさん、遺体はどうしますか?」
「ユリアに任せておけ、それよりもその生きてる男はどうするんだ、ユリア?」
「そんなの尋問して、アジトを襲うに決まってるじゃん」
「じゃあ、俺は馬車で待ってるから」
「えー、少しぐらい手伝ってくれても良いじゃん」
「お前の趣味に巻き込まれた俺としては慰謝料を請求したいのだが?」
趣味?
「もう、分かったよ。じゃあ、テレーゼは借りるね」
「テレーゼが認めたらな」
「私は良いですけど……、死体はどうするんですか? 魔物が寄ってきそうなので早めに処理したいんですけど」
「それもそうね」
ユリアさんはそう言うとアイテムボックスに遺体を入れ始めた。
「え? 死体をアイテムボックスに?」
「テレーゼ、忘れたのか? ユリアは死体収集癖があるって前にも言っただろ?」
「その言い方は語弊があるんですけど? 私は死体収集癖があるんじゃない。死体を使って魔術の実験をしているの」
「どっちにしても社会的評価は低そうだな」
死体の回収を終えるとユリアさんは髭面男を縛り上げ、鉄槌の柄で突き強制的に目覚めさせた。
「ん? お前は確か……」
「あなたたちに襲われた可哀想な人たちだよ」
「俺の部下はどうした?」
ユリアさんは男の腹を蹴る。
男はうずくまって咽ている。
「お前に質問する権利は与えてない。アジトはどこだ?」
「は? そんなの言う訳……」
男は最後まで言う前にユリアさんに殴られた。
「尋問ってこんなに面倒なの? エルンスト、自白剤持ってない?」
「逆に聞くが、俺が自白剤を常備していたらどう思う?」
「普通に引くわ」
「分かり切った事を聞くのは止めようね」
「どうしよう、殺す?」
男がビクッと震えた。
「最終手段が速すぎるだろ。まだ、両手両足の指の骨と爪が残ってるじゃん」
男が信じられない物を見るように言う。
「エルンスト、その発言は流石の私でも引くよ? 私は痛めつける趣味なんてないの、殺してから海馬を調べれば良いだけの話でしょ? とりあえず、銃を頂戴?」
「今の発言の方が非常識なのだが?」
そう言いつつもエルンストさんはユリアさんに銃を渡す。
「分かったから! 喋るから殺さないでくれ!」
「で、どこなの?」
「ここから東に500メートルの場所だ。案内もする」
ユリアさんは男の目を見る。
「嘘はついてなさそうね」
「じゃあ」
男は期待の眼差しを向けるが、すぐに裏切られる事になる。
「うん、さようなら」
ユリアさんは銃口を男の頭に向け撃つ。
「「え?」」
私とエルンストさんは信じられない物を見る目をユリアさんに向ける。
「私何か変なことした?」
「どう考えてもしてると思いますよ」
「ああ、俺もテレーゼに同感だ。だいたい、東に500メートルって情報がアバウトすぎるだろ」
「エルンストさん、そこじゃないと思います。ユリアさんは盗賊の命の保証を条件にアジトの場所を聞いたんですよね?」
「そんな約束してないじゃない。だいたい、盗賊なんて街に引き渡しても結局は死刑なんだから、今殺すか、あとで殺すかの問題でしょ? なら。ここでも変わんないじゃない」
そう言う事は思っても言わないと言うのが常識だと私は思います、と言いたかったが不毛そうなので止めておいた。
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