第8話 想定外の遭遇

森の中だと言うのに、少し騒がしい。


「ねえ? 嫌な予感がるんだけど」


「非常に心外だが、ユリアと同感だ」


「心外ってどういう意味?」


「そのまんまだが?」


「違う心外ってどういう意味?」


「辞書的な意味を聞いてるの? 辞書を引けよ! 殺すぞ」


「ひいぃぃぃ!!」


前方から冒険者が走って来た。

オーガを引き連れて。


「おい! 助けてくれ!」


「エルンスト、アサルトライフル頂戴?」


「何するつもりだ?」


「銃口を向けてオーガを倒すように言う」


「お前は鬼か! とりあえず、オーガを何とかするぞ。テレーゼ、オーガを狙えるか?」


「やってみます」


オーガの頭を狙い引き金を引く。

オーガは手に持つ棍棒で弾を弾いた。

これは……数を撃った方が良さそうだな。

オーガの腹や足に向かって連射して、動きを少しでも止められるように撃つ。

しかし、どれも棍棒で弾かれてしまい、効果がない。


「エルンストさん、銃では効果なさそうです」


「分かった。ユリア、接近戦に備えとけよ」


「はいはい。ミンチにすれば良いんでしょ」


「違うが、それで良い」


エルンストさんはオーガの足元に杭を出現させる。

オーガの足が止まった。

痛みのせいかオーガが咆哮を上げる。

逃げている冒険者は顔色を失っている。


「あんたらも逃げた方が良い。あんなの勝てる相手じゃない」


「分かったから、さっさと行け!」


エルンストさんが冒険者たちを追い払う。


「どうします?」


「倒すに決まってるだろ」


エルンストさんはニヤリと笑った。

オーガは私たちを敵認定したようだ。

オーガは杭から脱出して、こちらに向かって来た。

足に穴が開いているはずなのに、それを全く感じさせない動きだ。


「うわっ、何かこっち来た」


ユリアさんはそう言うと、鉄槌に遠心力を加えてオーガの脇腹に打撃を入れる。

オーガが変な格好で横に飛んで行った。


「え? オーガがおもちゃみたいに……」


私がそうつぶやくとエルンストさんは呆れたように言う。


「馬鹿力だからな、ユリアは」


「馬鹿って何? 私の力は確かに素晴らしいけど、馬鹿力って表現は納得できない!」


オーガがよろよろと近づき、威嚇するように叫ぶ。


「うるせぇ」


エルンストさんが結界を張り、オーガの叫び声を小さくしてくれた。

オーガが棍棒で結界を叩く。

若干ではあるが、結界にひびが入った。


「ユリア」


エルンストさんがユリアさんに目配せする。


「分かった」


エルンストさんは急に結界を解いた。

すると、オーガは振り下ろした棍棒の勢いが止められず、地面に棍棒を叩きつけた。

想定外の事でバランスが崩れたオーガはお辞儀するような姿勢になっている。

ユリアさんは鉄槌を低くなったオーガの頭に上から叩きつける。

オーガは頭部を地面に埋め込むように絶命した。


「オーガが簡単に……」


私が呆然としていると、ユリアさんが退屈そうにしていた。


「骨のある奴が全然いないのね」


「この感じなら、もう少し高難易度の場所に行ってもよさそうだな」


「それよりも、この森になぜオーガが……」


「高濃度な魔力溜まりでもあったんじゃないか?」


エルンストさんはそう言うが、この森でそんな出来事はないと思う。

後で調べたが、過去に1度もオーガのようなランクの魔物が出た事がないらしい。

何か引っかかるが、私たちは一先ず森を引き返した。

逃げた冒険者らが街を騒がしくしているかもしれないからだ。

ちなみに、オーガはやり過ごして、逃げた事にした。

本来存在しないはずのオーガの出現と言う衝撃の事実と、初心者しかいないはずのこの街にオーガを倒せる冒険者やパーティーがいたら目立つ。

目立ちすぎてしまう。

お尋ね者に近い私たちは、そのような状態は望ましくない。

なので、早々と街から出る事を決断した。

オークの出現情報を聞いたギルドは森を立ち入り禁止にしたそうだ。

初心者の冒険者しかいないこの街でオーガを狩れるわけがなく、よそから優秀な冒険者を呼び、調査と討伐を依頼するらしい。

冒険者は、特に駆け出し冒険者は討伐ができないと生活が厳しくなるので、多くの冒険者がこの街を離れたそうだ。

私たちもこの流れに乗って街を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る