第2話 地に足を付けて働きましょう

ユリアさんの部屋から、口から血を流したユリアさんを抱えたユリアさんが出てきた。

自分が何を言ってるのか理解できない。

え?

分裂?


「ちょっと! 私、死んじゃったじゃない!!」


「本当に死んだ奴は私が死んじゃったじゃないとは言わない」


「私、相手に正論をぶつけようと言うの? 私が正論を言う相手に勝てると思うの?」


「それ、俺に聞いてるの? ユリア、お願いだから、自分が何を言っているのかを理解してから発言して欲しいな」


「あの、これはどういう状況なんですか?」


私がそう言うと、ユリアさんは何当然のことを言ってるのと言う顔をする。


「は? 死んだからリスポーンしただけだよ?」


「あー、そう言えば名前聞いてなかったけど、何て名前だっけ?」


エルンストさんに言われて気付いたが、まだ、自己紹介もしていなかった。


「私はテレーゼ・グリュンディングと申します」


「ああ、テレーゼね。あいつは殺しても死なない奴だから。そして、常識と倫理感がかなり欠如している」


「え?」


私の驚きを無視して2人は話を続ける。


「食べ物に毒物を入れる人に言われたくないのだけど?」


「人の食事を盗む野蛮人が何を言ってる?」


「じゃあ、私がエルンストの食事を盗んだとしてだよ?」


「何で盗んだ事実を否定する余地を残せると思った? 目撃者が2人もいるのだが?」


「エルンスト、私はまだ喋ってるの。ちょっと黙ってて。つまり、エルンストの食事を食べた私は毒で死んだよね? え? エルンストの趣味ヤバくない?」


ユリアさんは可哀想な物を見る目をしている。


「金欠で他人の食事を盗むと言う野蛮な行為を想定されていたユリアさん、何が言いたいのかな?」


「私、レディよ?」


「自分の立場が弱くなるたびにレディの概念を持って来るけど、悪手でしかない事にいい加減気付け。大体、物を盗むくせしてレディとか、ほざくなよ?」


「確かに」


ユリアさん納得しちゃったよ。


「いいか、お前は真面目に働け!」


「私だって日々働いてるじゃない! 毎日、朝起きたら、朝食を取って、部屋に戻って本を読んで、昼食取って、魔術を研究して、夕食を取って、お風呂に入って寝る。ね? 働いてるでしょ?」


「どこが?」


「ほら、本を読んで魔術を研究してるじゃない」


「それはお前の趣味だろ。じゃあ、その読書と研究は誰がお金を払っているのかな?」


「……起業するしかないわね」


「地に足を付けろよ。だいたい、困るたびに起業、起業言ってるけど、そのたびに店を潰してるじゃねぇか」


「何言ってるの? 店を出す前に、資金をパーにするから、店を出す前に全部潰してるよ、ちゃんと?」


ちゃんと?


「絶対に起業するな。地に足を付けて働けや」


「確かに、もうブラックリストに乗り過ぎてどこからもお金借りれないし」


「多重債務者じゃねぇか!! その金、返したんだろうな?」


「何言ってるの? 私の逃げ足の速さは本物なの? 逃げ切ったに決まってるじゃない」


ユリアさんは誇らしげに語っている。


「ちょっと、臓器を売りに行こうか」


エルンストさんは席を立ちあがり、ユリアさんの腕を掴む。


「待って? 一番最近に借りたのは50年以上も前だから、もう弁済期は過ぎてるはず。時効だって」


この人、一体何歳なの?


「堂々と言うな。恥を知れ」


「分かった。働くよ。魔道具やポーション、怪しげな薬を作って売れば、良いんでしょ。私だって魔術師の端くれ。だいたいは作れる」


「怪しげな薬は作れても作るな。あと、売れる物を作れよ」


「心配し過ぎ」


「そう言って前作ったのは何だった?」


「身長が伸びる薬」


「飲んだだけで身長が3メートル以上伸びるのは毒でしかないからな?」


「でも、ちゃんと効果は出てるじゃない。インチキじゃない」


「物には限度ってものがあるんだよ。それで薬を買った人はどうなった?」


「魔物として処分されました」


可哀想に。


「しかも、ユリアが最後に家を出たのは借金から逃げた50年ほど前だよな?」


「うん」


「時代は移ろっているんだよ。売れる物作れるのか?」


「あ」


ユリアさんは私を見る。


「ねえ? あなたは現代人よね? しかも、魔力の感じからして魔術師ね」


「あの、私は魔術師ですけど、表向きは魔道具技師として働いてました」


「ん? あー、そう言えばあったね、魔女狩り」


ここに来ていて忘れていたが、外の世界は戦国時代の真っただ中。

各地の軍閥が領地の取り合いをしている。

その影響でとても武器が売れる。


「私はプロホノフ軍閥で魔道具技師をしてました。そこでは魔導小銃を制作していて」


「明らかにエリートよね? どうして追われる身に?」


「魔術師である事がバレてしまって……」


魔術師は古代魔術の使い手で、魔道具などの媒体なしに魔術を発動できる人間の事を言う。

そして、現代魔術は媒体を用いる代わりに比較的多くの人間が使えるようにした魔術だ。

古代魔術と比較して自由度が小さいが適性のある人数が多い事が利点である。

これから分かる通り、魔術師は貴重なのだ。

しかし、魔術師は危険分子として、問答無用で排除される。

理由は分からないが、昔あった出来事が原因だとか。

そして、この魔術師を探し、殲滅する事を魔女狩りと言う。

魔女狩りと言っても男性の魔術師も含まれているが。

多くの魔術師は魔女狩りから逃れるため、魔道具技師や錬金術師のような現代魔術を使うような職場で自らを偽装している。

まれに現代魔術の戦闘職である魔法士として活躍している人もいるらしい。


「なるほどね。魔導小銃って売れるの?」


「売れるかもしれませんが、ほとんどが軍閥とかが相手なので、魔女狩りの危険が……」


「えー、じゃあ、他に何か売れる魔道具知らないの?」


「冒険者ギルドでポーションが不足してるってよく聞きますね。近場のダンジョンで魔物が大量に発生してるとか?」


「ポーションか。それなら何とかなるけど、勝手に売るのは駄目よね?」


ユリアさんはエルンストさんに聞く。


「だろうな。知り合いに聞いてみたら?」


「あの、魔術師なら、直接魔物を狩って、その素材を採取した方が早いのでは……」


「はっ。そうよ。私は最強の魔術師の一人! 何で気付かなかったのかしら」


「少し前に毒で死んだ人間とは思えない発言だな」


エルンストさんがボソッと言う。


「どんなに強くても毒殺は防げない。だって、人間だもの」


「人間の寿命が何年かを思い出してから言おうね。まったく、妖怪に片足を突っ込んだくせに」


エルンストさんは辛辣である。


「ちょっと! 妖怪は酷過ぎでしょ! 大体年齢の事で攻撃するなら、エルンストも同じような年齢してるでしょ。ねえ? 魔導小銃ってどんな魔道具なの?」


「魔力弾を魔道具で撃つ道具です」


「へえ、それおもしろそうね。それ持ってる?」


「今は持ってないです」


「じゃあ、材料上げるから、作ってみて?」


「ユリア、そんな材料はどこにあるんだ? と言うか金ないくせにどうやって調達した?」


エルンストさんが不思議そうに言う。


「気が向くと、私が戦場を歩き渡っているのは知ってるでしょ? そこで私は死体以外にも使えそうな物は全部回収しているの。私が近づいた戦場には死体すら残らないから、戦場の乞食とまで呼ばれてるのよ? 凄いでしょ?」


死体?

何で死体なんかを?


「どこに凄い点があったのかが分からないのだが? と言うか、戦場の乞食って言うのは蔑称なんだよ、さっさと気付け。あと、戦場に行ったのなら、魔導小銃も拾えるだろ」


エルンストさんが突っ込むと同時に、私が思った疑問と別の疑問をぶつける。


「私が行った戦場には魔導小銃なんて物はなかった。確か」


「あの、死体を集めて何を?」


私はユリアさんに質問する。


「死体を集めて、そのパーツで自分を改造しているの。あと、私が死んだ時の、予備の体としてね。つまり、疑似的な不死身って訳」


「そんな事が……」


「私はこう見えても魔術師として凄いの。この技術は私しかできないんだから」


「己でこう見てと言ってしまう悲しさよ」


「エルンスト、余計な一言を減らす努力をして」


「えーと……、材料を見せてもらって良いですか?」


話をずらされそうだったので、私が割って入る。


「分かった。こっちに来て」


「おい! 朝飯は?」


エルンストさんが話を進めようとしていたユリアさんを止める。


「あ、それは私の部屋で食べてもらう。効率が良いからね」


「そう言って、分けてもらう腹積もりだろ」


「何で分かったの?」


「もっと、頭を使おうね」


「私をバカにし過ぎじゃない?」


私は朝食を取った後、ユリアさんが用意した材料で魔導小銃を作った。

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