戦場の乞食と呼ばれた女~逃げた先はイカれた魔術師のもとでした~
斯波 花心
第1話 逃げる場所を間違えた?
夜の森を走っている。
野生動物の鳴き声が怖いが、そんな事が気にならないほど後ろから兵士が迫っている。
足が重い。
魔力弾が通んで来た。
私は防御術式を展開して背面に結界を張る。
魔力弾は結界に弾かれる。
後ろを振りむきながら、爆撃術式を展開して森を爆破する。
爆炎から弾が飛んできた。
結界で弾き、再び走る。
腕が痛い。
暗くて見えないけど、かなり深く斬られたようだ。
痛い。怖い。痛い。痛い。
脚よ、しばらくは動かなくなっても良いから、今だけ動け!
え?
何かに躓いた?
体が宙に浮く。
終わった。
非現実的な事でも、何でも良い。
誰か私をテレポートしてくれないだろうか。
体に強い衝撃が来た。
痛い。
トンネル効果でとこかに跳べないだろうか?
何故、私がこんな目に……。
急いで、立ち上がる。
目の前には、存在しないはずの小屋がある。
でも、今はそんな事はどうでも良い。
明かりがついている。
私はその小屋の前に全力で走り、ドアを叩く。
「すみません。どなたかいらっしゃいませんか? お願いします。開けてください!」
ドアが少し開けられる。
女性の顔の一部だけが見えた。
「誰?」
「すいません。助けてください!」
「え? 嫌なので。お帰り……」
ドアを閉めようとしたので、手をねじり込み、阻止する。
思ったより強い力でドアお絞めてきたせいで手が痛い。
「待って、ここで助けてもらわないと殺されちゃうんです! 何でもするんで助けてください!!」
女性は面倒くさそうに言う。
「はぁ、仕方ないな」
ドアを開け、私を中に入れてくれた。
「全身傷だらけね」
男の人がドアを開ける。
一瞬、追手の兵士かと思ったが、明らかな一般人だった。
「何だコイツ? 客じゃないよな、ユリア?」
「助けて欲しいって、言われたから中に入れてあげた」
「まあ、ユリアがそれで良いなら、それで良いけど。自分の責任で何とかしろよ」
「……あの、お2人は夫婦ですか?」
「冗談だと言われても嫌だな。次にそれを言ったら問答無用で追い出す」
男の人が嫌悪感丸出しで言った。
「待って? その反応はおかしくない?」
「ユリアと俺は研究者とその助手って関係だ。雇用関係があるだけ。恋愛感情はおろか、友情もない」
「私は友情を感じてるよ?」
「一方通行で可哀想に」
男の人が容赦のない追撃をしている。
「これは酷い。もう、良いもん! 後で後悔しても知らないからね」
ユリアと言う女性がすね始めた。
「そんな事よりも、ユリアが中に入れたこの人、腕がだいぶ切り裂かれてるぞ」
「え、じゃあ、治療しないと。誰かが」
「お前、魔術師だろ? 自分でやれよ」
「それはエルンストも同じじゃん」
この男の人、エルンストって言うんだ。
「この傷は一回縫合してからの方が傷跡が残らなさそうだな。ユリア、縫ってやれよ」
「大丈夫? 私、医師免許ないけど?」
「免許は無くても、縫合の経験はあるだろ?」
「ほろ酔いで死体の傷口を縫う経験ならね」
「あの、遠慮します」
「遠慮しなくていいって、私がきれいに縫い合わせてあげるから」
さっきの発言を聞いたら、誰でも遠慮すると思うのだが?
「ちょっと! 誰か止めて!」
私は目の前の狂人を恐れ抵抗する。
「暴れるな」
エルンストさんが私を押さえつけると同時に魔術を発動した。
え?
この人、媒体なしに魔術を発動……
そこで私の意識は途切れた。
目覚めると柔らかなベッドの上にいた。
窓から入る日差しの具合から、朝だと思う。
私は起き上がり、部屋の外に出る。
「ああ、起きたか。一応言っておくが、傷口はすべて治っている。抜糸も済んでいるから、違和感がなければ完全に治っているはずだ。あと、体中にあった傷も、治癒魔術で治ってるはず。だが、傷を治すためにだいぶ体力を消耗しているだろうから、少なくとも今日は安静にしている事をお勧めする」
「ありがとうございます」
「食べれそうか?」
「はい」
「あ、おはよう」
ユリアと言う人が部屋の中に入って来た。
「おはようございます」
「私の腕もなかなかの物でしょ? 傷跡すら残さなかった。流石外科手術のプロフェッショナル」
「自分で言ってて恥ずかしくないのか?」
エルンストが呆れながら言う。
「社会はもっと私を評価すべきよ。それで、私の朝ご飯は?」
「食費を渡してもらってないから作ってない」
そう言いながら、エルンストは自分の朝食を机に置き、席に着く。
「え? 雇用主の私が朝御飯なしなのに、他人のこの女には朝御飯があるの?」
「文句を言う前に、雇用主を自称するなら、給料を渡そうね」
「あれ? 渡してなかったっけ? じゃあ、エルンストの朝ご飯は何?」
「自分で稼いだ金で食べるご飯だ。まさかだが、自分で稼いだ金で飯を食べるなと言う訳じゃないだろうな?」
「ねえ、あなた。命の恩人がお腹を空かせているの? これが何を意味しているか分かる」
「はい。あの、私の……」
私が言い終える前にエルンストさんが制止する。
「ケガ人から食べ物を掠め取ろうとするなんて、人間をやめたのか? 大体、言うほど大した事をしてないくせに、恩着せがましく言うな」
「私、人を助けた。とっても偉い」
「その年で、幼児退行は痛すぎる」
エルンストさんはユリアさんに対し引いている。
「レディに年齢の事を言うなんて最低!」
「レディになってから言おうね」
「エルンスト。お願いです。私に恵んで」
責め方が見つからなかったのか、ユリアさんは直球でお願いをした。
「庭にある土なら……」
「それ、食べ物じゃないじゃん。この馬鹿!!」
ユリアさんが魔術を発動する。
「このっ、バカ女」
閃光が部屋を包む。
私とエルンストさんはとっさに目を守ったので、大きな被害はない。
「やったー。朝御飯ゲットー!!」
ユリアさんは一瞬の隙にエルンストさんの朝ご飯を盗み、自室に帰った。
「エルンストさん、朝御飯を用意してもらった身で言うのはあれですけど、私のご飯を食べますか?」
「いや、大丈夫だ。それにまだ終わりじゃない」
「それって、どう言う……」
「キャー!!」
ユリアさんの部屋から、悲鳴が聞こえた。
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