第3話 魔導小銃
ユリアさんは魔導小銃をくまなく見ている。
「これ、面白いね。へえ、魔力を供給すれば魔力弾を狙撃術式で撃つって訳ね。この穴に魔石を入れるのね。現代魔術だから、どこか頼りないけど、これはこれで面白いね」
「はい。あと、魔石がない場合はグリップから自分の魔力を流せば、その必要はありません」
銃を使うのは主に一般兵なので、実際にこの機能を使う人は少ないらしい。
「なるほど。確かに、これは魔力が少なくても使える魔道具ね。でも、一度発動すると冷却に時間が必要じゃない、これ?」
「はい。なので連射はできません」
「良いアイデアが浮かんだ。これを参考に新たな銃を作ろう」
そう言ってユリアさんは部屋に籠って銃の製作を始めた。
「お帰り、ユリアは?」
「銃の製作を始めました」
「じゃあ、しばらくは部屋に閉じこもってるな。そう言えば、テレーゼはこれからどうするの?」
「そうですね……。ここを出たら、急いで出国しないとですね。ここにいると危ないですから」
「その事なんだけど、ここは地図上に存在しない場所なんだよね」
「え? どう言う事ですか?」
「ここはね。俺とユリアが社会から身を隠すために作られたアトリエなんだ」
「魔女狩りですか?」
「半分正解。魔女狩りも面倒だが、一番面倒なのは魔術師からの干渉。魔術協会って知ってるか?」
「はい。参加するように圧があったので、会合には参加した事はあります」
「連中はなぜだが、俺らに干渉したがる。最悪な時は刺客を送られた事もあった」
「殺すために……」
「いや、ただの脅しさと嫌がらせさ。これでもそれなりの実力はあるし、連中はその事を知ってるからな」
「何とも悪質な嫌がらせですね」
「俺らは、もう100年以上はここで、無駄な時間を過ごしている」
「100年以上? どう見ても、そうには……」
2人とも若々しく見える。
「まあ、俺とユリアは魔術師の中でも特殊だから。この生活、かなり平和なんだけど、退屈なんだよね。だからさ、どう? ここで共同生活。鬱陶しい馬鹿がいるけど、平和には暮らせる……たぶん」
毒物が普通に出てくる生活は平和ではないと思うのですが……と言う言葉は飲み込んだ。
でも、逃亡先の安全の確保や職探しなどを考えれば、この提案は私にとって渡りに船だ。
「良いんですか? 私としては有難いんですが……」
「じゃあ、決まりで良いね」
「はい。お願いします。あの、そう言えば、ここは地図上にないって言ってましたよね?」
「ああ」
「それは地図に書かれていない場所って事ですか?」
「いや、存在しない場所。ここは亜空間だから」
「じゃあ、私はどうやってここに?」
「ここは世界中の様々な場所と繋がっている。ただし、そのゲートの場所は一定じゃない。常にランダムな座標が変更される。そして、ここに入る条件は俺がゲートを呼んで入るか、ランダムな位置にあるゲートを魔術師が通る事。まあ、つまり、テレーザがここに来れたのは奇跡って事だ」
ユリアさんの部屋のドアが開き、ユリアさんが中に入って来た。
ユリアさんは銃を構えている。
「できたあぁぁぁぁ!!!」
ユリアさんが完成した銃を乱射し始めた。
とっさにエルンストさんが結界を張り、落ちてくる瓦礫や跳弾する弾丸から私を守ってくれた。
「ユリア! お前、何考えてんだ!!」
「ねえ? 見て? この連射力。単発銃なんかもうゴミだよ。武器商人として起業できるぅぅぅぅぅぅ!!」
ユリアさんは銃をやたらめったらに撃つ。
私は銃は足が付くから売れないと言ったはずなのだが……。
「その前に言う事があるだろ?」
エルンストさんは呆れたように言う。
「言う事? あ、そう言えばあった。よく分かったね? 朝御飯を寄こせ、さもないと撃つ」
「そうじゃないだろ!!」
「拒否したよね? 今、私の要求を拒否したよね?」
ユリアさんはエルンストさんに銃口を向け、引き金を引いた。
大量の銃弾がエルンストさんの結界にぶつかり、跳弾する。
「お前!」
エルンストさんの魔力が急激に動き始めると、ユリアさんの撃った弾が反転して、ユリアさんのもとへ向かった。
ユリアさんは弾丸をもろに食らい、血を流して倒れた。
「馬鹿が死んで平和になったな」
ユリアさんが再びユリアさんの部屋から出てきた。
「ちょっと! いくら何でも銃殺するなんて酷いじゃないの!!」
「チッ、もうリスポーンしやがった。それでお前は記憶喪失なのか、お馬鹿なのかっどっちかな?」
「めっちゃ、馬鹿にするじゃん。でも、良いもん! 私はこの魔導自動小銃を売りさばいて、大金持ちになるんだから!」
「魔導自動小銃を覚えているって事は記憶喪失じゃなくて、馬鹿って事だね」
エルンストさんの指摘にユリアさんは反応する事なく、自分の遺体の近くに転がっていた魔導自動小銃をユリアさんは拾い、頬ずりをする。
「戦場の乞食から死の商人にジョブチェンジね」
完全に私が言った事を忘れているようだ。
「俺はどっちでも良いけど、どっちも蔑称だからね? あと、死の商人になるって事はその魔道具を大量生産するんだよな? お前に同じものを大量に作ると言う面倒な事ができるのか?」
「何言ってるの? 私は商会の会長よ? 何で会長自ら、働かないといけないの?」
「無機物は勝手に増殖しないからね、知ってる?」
「私を馬鹿にし過ぎじゃない? それに労働者なら、昨日飛び込んで来たじゃない」
ユリアさんが私を見る。
「え? 私?」
「ユリア、知らないと思うけど、労働者を雇うには賃金が必要だからな」
エルンストさんがため息をつく。
「ちょっと、待って? 何で前提が知らないって事になっているの?」
「知っているのなら、滞納している俺の賃金を払おうね」
「賃金って概念を私は知らないし、聞いた事もない。でも、命の恩人ってワードは脳に染みついてるよ」
「コイツ、嫌らしい手を使ってきやがった。テレーゼ、俺と雇用契約を結ぼう。住み込みで給料も出す。そして、副業は禁止だ」
迷う余地はない。
無賃労働をさせようとしているマッドサイエンティストと、物言いが厳しい常識人ならば、こっちの方が良いに決まっている。
「ぜひ、お願いします」
「テレーザ、よく言ってくれたわ。私のために働いてくれるのね?」
ユリアさんが嬉しそうに私に近づいて来た。
「ユリア、話を聞かないなら、その耳売ってきてあげようか?」
エルンストさんが呆れたように言う。
「え? ねえ? もしかしてだけど、エルンストの食費は私の臓器から出てるんじゃないの?」
「そんな汚い金で食料なんか買えるか!」
「待って? 私の臓器の方を労わって?」
「だいたい、お前の臓器は戦場で転がっていた死体の物だろ? 所有権を主張するなんて烏滸がましいにも程がある」
「でも、落とし物を拾ってから、どれも1年以上経ってる。つまり、この落し物は私の物って訳。法律を勉強しようね」
ユリアさんはしたり顔で言う。
「お前は法律の前に倫理を学べ。戦場の死体を落とし物扱いするとか、人間やめてるよ」
「人間やめてるだとか、妖怪だとか。私にも人権はあるの。これ以上は人権侵害なんだけど?」
「落とし物で成立している物体Xを人間と言うのは難しいだろ。頑張っても、物から生物にしか格上げできないぞ」
「え? 私、生物認定されてなかったの?」
「自分で言ってるじゃん。落とし物だって」
「く、言葉を使っていじめるなら、私にも考えがある。脳を1個から10個に増やして、論理力と記憶力を爆上げして言い負かしてやる」
「地道な努力と言う選択肢はないのか? あと、脳が10個もある生物は控えめに言って人外だからね」
「もう! テレーゼ!! 私のこの銃を量産して!」
「え? 就業規則に引っ掛かるので無理です」
「どさくさに紛れた要求も失敗したな。テレーゼ、よく断った」
「ありがとうございます」
「そんな……神よ、私に慈悲を……」
「ふざけた事言ってないで、真面目に働こうね」
「分かった。冒険者登録して、魔物をひき肉にすれば良いんでしょ」
「ああ、その通り。だけど、別にひき肉にする必要はないからね?」
ユリアさんが私に近づく。
「はい。これ、貸してあげるから、あなたも私と一緒についてきて」
銃を押し付けてきた。
私もエルンストさんを見る。
行ってやれと言う意味でエルンストさんは頷く。
「分かりました」
「あ、それは私の物だから、自分の銃は自分で用意してね」
「え? くれたんじゃないんですか?」
「料金とるよ?」
「……分かりました」
私は銃を受け取り、術式の概略を解析した。
これは……すごいけど、やっぱり売れないな。
売ったら間違いなく魔術師だと疑われる。
事前に止めておいて正解だったとつくづく思う。
私はエルンストさんに部屋を案内してもらって、ユリアさんが作った銃を解析して、再現を試みる。
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